※インタビューは2004年6月11日・パルマ近郊フェレガーラの自宅にて行われました。

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――サン・シーロでローマを破ってスクデットを決めたとき、どんなことを考えましたか?

「いい仕事をして素晴らしいシーズンを送り、重要な目標を勝ち取ったということ、それに対する満足感を感じたね」

――何度も2位を経験した後はじめてのスクデットを勝ち取ったわけですが、雪辱を果たしたという気持ちはありますか?

「誰かに対して雪辱したとか、そういう気持ちはまったくない。スクデットという重要な勝利を、私が積み重ねてきた仕事、いい仕事の結果として勝ち取ったというだけのことだからね。雪辱という気持ちはないな」

――ではこの勝利は、あなたのキャリア、あなたの人生にとってどんな意味を持っているのでしょう?

「私自身にとっては、昨シーズン勝ち取った結果に、またひとつ上乗せができたということかな。それ以上に、ミランの継続性を象徴するものだと思う。去年の勝利でひとつのサイクルがはじまり、今年の勝利でそれが軌道に乗ったといえる」

――チャンピオンズ・リーグとセリエAでは勝利の味は違うものですか?もし違うとすれば、どのように?また、どちらが重要だと思いますか?

「より重要なのはやはりチャンピオンズ・リーグだ。チャンピオンズ・リーグの勝利の喜びは、爆発的でより凝縮されている。一方、スクデットは少しずつじっくり味わうものだった。スクデットを勝ち取ったのは5月2日だったけれど、そこには少しずつ着実に近づいて行ったわけで、喜びもじわじわとしたものだ」

――選手としては3回スクデットを勝ち取っているわけですが、監督として勝ち取った喜びとはまた違うと思います。

「どういう風に違うか説明するのは難しい。喜びは喜びに違いないし、まあ確かに違うのかもしれないけれど、説明するのは難しいな」

――選手と監督では責任も違うし……

「いやでも、目標を達成した時の喜びは喜びだし、責任が大きくても小さくても、その満足感は同じじゃないかな」

――昨シーズンはチャンピオンズ・リーグ、今シーズンはスクデット。ミランの強さの秘密はどこにあるのでしょう?

「しっかりしたクラブの組織に支えられているというのがひとつ、でもやはり何よりも選手たちのクオリティの高さだろうね。偉大なクラブの一員だという自覚があるから、常にわれわれの要求に答える姿勢を持ち、決して手を抜かずに自分たちの仕事に取り組む。それが大きいと思う」

――ミランは記録的な勝ち点を挙げてスクデットを勝ち取りました。これだけ圧倒的にカンピオナートを支配した秘密は?

「この数字は、チームが安定してパフォーマンスを発揮し続けた結果だ。シーズンを通して一度も不調に陥ることがなかった。それと、今年のカンピオナートは例年と比べて意外な躍進を見せるチームが少なく、下位チームへの取りこぼしも少なかったから、直接対決が勝負を決めることになった。ミランはそこで多くの勝ち点を挙げることができたのに対して、ライバルはポイントを落とした。そこが分かれ目になった」

――ローマは最後まで粘りました。両チームの差はどこにあったのでしょう?

「やはり直接対決だと思う。2試合戦ってローマが2敗したからね。実質的な差をもたらしたのはそこだね」

――直接対決へのメンタル的なアプローチが、ローマよりもミランの方が優れていたということはありませんか?

「さあそれはどうだろう。チームのクオリティという点でミランはローマを常に上回っていた。それが理由じゃないかな」

――チャンピオンズ・リーグで敗退した時点で、スクデットはほとんど“義務”になりました。プレッシャーを感じませんでしたか?あの時期最も気を使ったのは?

「ある点から見ればCL敗退は非常に残念な出来事だったけれど、スクデットにとってはむしろプラスになった。CLがなくなったことで、カンピオナートに専念してひとつひとつの試合をじっくり準備することができたからね。唯一のハードルは、ラ・コルーニャの直後、エンポリとの試合だった。あのデリケートな試合を乗り越えたことで、後は順調に進むことができた」

――ラ・コルーニャの後、チームはどのように持ち直したのでしょう?レアル・マドリードのようにそのままずるずる行かなかった理由があるとすれば、それは?

「あの敗退は確かにショックだったけれど、その後もチームの調子が落ちる兆しは、特にフィジカル面ではまったく見られなかった。だから、問題は最初のハードルであるエンポリ戦を乗り越えられるかどうかだけだった。

その後の試合は、フィジカル的にまったく問題がなかったこともあり、困難に陥ることなく戦い抜くことができた。レアル・マドリードはあの時点ですでに、フィジカル的にもうガソリンが残っていなかったのだと思う。差があったとすればそこだろう」

――じゃあレアルに関しては、フィジカル・コンディションの問題だったと?

「間違いなくそうだろうね。シーズン中ほとんど選手を入れ替えなかったから、最後になってエネルギーが切れてしまった」

――カンピオナートに関しては完ぺきといっていいシーズンでした。100%満足していますか、それとも何か後悔がありますか?

「いや。ミランは82ポイントもの勝ち点を挙げた。これを繰り返すのは誰にとっても非常に難しいことだろうし、おそらく二度と起こらないだろう。その点では、非常に大きな仕事を成し遂げたという気持ちがある。後悔はまったくない」

――今シーズン、ミランが勝ち星を挙げられなかった唯一の相手がウディネーゼでした。ウディネーゼはどんなチームだったのでしょう?特に難しい相手だったということはありますか?

「12月の試合は、ボカ・ジュニオールスとの試合(トヨタカップ)の直後だったので、長旅の疲れもあって我々のコンディションは万全とはいえなかった。一方あの時期のウディネーゼは絶好調だった。

4月の試合は、1ポイント取れればそれで十分だったので、我々は試合をコントロールすることを第一に考え、リスクを冒さずに戦った。その結果の引き分けだ。勝つことができなかったとすれば、対戦したのがたまたまそういう時期だったことが最大の要因だと思う」

Q:ウディネーゼの戦い方が特にミランを苦戦させたということは?

「それはない。ウディネーゼのようなサッカーをするチームは他にもたくさんあるからね。戦った時期、タイミングの問題だと思う」

――シーズンの鍵になったのはおそらく、トヨタカップとウディネーゼに敗れて迎えることになった冬休みだったと思います。この時期、どのようにチームを建て直したのでしょう?

「冬休みは、コンディションを回復する上で非常に重要だった。ウディネーゼ戦の後選手たちは明らかに疲れていたからね。だから、8日間の休息日を与えて――何人かはヴァカンスに行き、何人かは海で過ごし、何人かは家でのんびりしていたようだ――、そして、残りの8日間で次のローマ戦に向けた準備をした。

8日の休息を経て戻ってきた選手たちは、心身とも明らかにリフレッシュしていい状態だった。その点で、休息が何よりも重要だったということだ」

――最も重要だったのはフィジカル、メンタルのコンディション回復だったということですね。

「そう」

――シーズンを通して最も困難だった時期は?エンポリ戦でしょうかね。

「一番難しかった試合は、さっき言ったエンポリ戦だね。もしあそこで勝てなければ、さらに大きなプレッシャーを背負うことになっただろうから。ラ・コルーニャで負けた直後だったので、チームにもちょっと不安な空気が漂っていた。でもそれを除けば困難にぶつかったことはまったくなかった」

――スクデットへの道は、思った通りだったでしょうか?それとも……

「予想していたよりもずっと平坦だった。ライバルがもっと食い下がってくるだろうと思っていたからね。でも実際は、インテルはすぐに脱落したしラツィオも同じ、ユーヴェも前半戦の終わりには事実上脱落していた。唯一最後まで残ったローマにも5,6ポイントの差をつけていた。5,6ポイントの差があって、しかもホームでの直接対決を残しているというのは、かなり安心できる材料だった」

――アンチェロッティのスクデットだ、という声も少なくありませんが。

「いや、スクデットはミランが全員で勝ち取ったものだ。本当に素晴らしいカンピオナートを戦った」

――ミランをタイトルに導いたあなたの功績ももちろんあったのでは?

「さあ、どうだろう。つまるところ監督にとって重要なのは、自分が頭に描いている通りの仕事を実際の場で行えるということだ。確かに私がミランでそれをすることができた。しかしそれはバックアップしてくれたクラブ、そして私についてきてくれた選手たちの存在があったからだ。それがあってはじめていい仕事ができる。どれだけ重要か、と言われても答えるのは難しいが」

――このスクデットにとって最も大きな決め手になったのは?

「チームとしての安定感、結果にまったく波がなかったことだ。これまでのシーズンは必ず不調に陥った時期があったが、今シーズンは、個々の選手も、チーム全体としてもそれがまったくなかった。事実上ほとんどの試合を勝ったわけだから」

――ということは、チームを取り巻く環境、選手たちのモチベーションの高さ、チームスピリット、そういう要素がうまく組み合さってタイトルをもたらしたと?

「まあそう言えるかもしれない。結果が出ている時に、それぞれの要素がよく機能しているというのはある意味で当然のことだからね」

――シーズン中、今年はスクデットを獲れる、という感触を得たのはいつごろだったでしょう?

「後半戦に入って、直接対決に勝ち続けたころだね。ローマでラツィオ、トリノでユヴェントスを下したあたり。あの辺ですでに、タイトルに大きく近づいているという感触を持っていた。本当に勝ち取るまでにあとほんの少しのところまで来ているというね」

――それが確信に変わったのは?

「5月2日のローマ戦だよ」

――今シーズンのベストゲームは?

「ベストゲームは、ローマでのローマ戦(1月6日)だろうね。我々はボカに敗れた後、冬休みを過ごしたばかりだった。一方のローマは絶好調だった。にもかかわらずミランは非常にいいサッカーを見せて勝つことができた。ローマよりも優れたチームであることを示してね」

――今シーズンのミランは、後半に多くのゴールを決めています。それには何か理由があるのでしょうか。

「それは我々のサッカーのスタイルに関係していると思う。ミランは最初からがつがつ行くチームではなく、落ち着いて試合に入って行くし、プレーのリズムもかなりスローだ。それに相手は、特に試合の立ち上がりに注意を集中してくるものだ。

時間が経ってそれが途切れてくると、ミランのサッカーは持ち味がより生きてくる。後半にゴールが多いのはそれが一番の理由だろう」

――相手の疲労度によるということですか?

「いや肉体的な疲労度というよりは、むしろ精神的な注意力の方が大きいかもしれない。試合の終盤に向けて避けがたく低下してくるものだからね」

――ミランの選手の中で、あなたに最も強い印象を与えた選手は?

「カカだね。私もよく知らない選手だったし、まだこんなに若い。これだけ早く強い個性と高いクオリティを発揮してチームに溶け込み、イタリアサッカーに適応して力を発揮するとは思っていなかった。最も驚かされた選手は間違いなく彼だった」

――彼のチームに対する貢献も含めてですね。

「14ゴールも決めたわけだからね。すごい数だよ」

――サプライズと言えるのは彼だけでしょうか。それとも他にも?

「ミランが獲得した3人の選手、カフー、パンカロ、カカは、理由は違うが大きなサプライズだった。カフーとパンカロは、もう年だ、終わった選手だといわれたが、まったくそんなことはなく、まだまだ優秀で活力に満ちたプレーヤーで、ミランにとって非常に重要な存在だった」

――今シーズンのミランは、いつもほとんど同じメンバーで戦いました。去年と比べてターンオーバーが少なかったのは何故ですか?

「シーズン前半はチャンピオンズ・リーグの試合が去年より少なかったし、今年は予備戦もなかったから、試合の間隔に比較的余裕があった。ターンオーバーを行ったのは主に1月と2月、コッパ・イタリアとカンピオナートの日程が立て込んでいた時期だ」

――ということはカレンダーの関係でターンオーバーが少なかったということですね。ルイ・コスタ、アンブロジーニといった選手をベンチに置いておくのは、簡単なことではなかったと思います。これだけスター揃いのチームをまとめあげ統率して行くことができた秘密はどこにあったのでしょう?

「別に秘密があるわけじゃない。選手が、なぜ自分がスタメンに入っていないか、監督が自分ではなく他の選手を選んだのは何故かを理解し受け入れるインテリジェンスを持っているかどうか、すべてはそこにかかっているといってもいい。

もうひとつ、不満をロッカールームの中だけにとどめて外に出さないことも大事だ。ここで重要なのは、クラブがそれに対して重しをきかせていること。ミランで起こっているのもそういうことだ。試合に出られない選手が不満を持つのはごく当り前のことだからね。大事なのは、全員がそういう不満に賢明なやり方で対応することだ。選手も、クラブも、監督もね」

――他のチームでは、外された選手が公の場で文句をいう場面がよく見られました。ミランでそれが起こらなかったのは、今おっしゃったようなことが理由だということでしょうか?

「ああ、その通りだ」

――今シーズンを最後に、ロベルト・バッジョ、ジュゼッペ・シニョーリというふたりの選手が引退を決めました。ふたりに関する印象的な思い出があれば聞かせてください。

「ふたりに関して思い出すのは、アメリカ・ワールドカップのことだ。バッジョは文字通りの主役であり、シニョーリはそこまでは行かなかったが、ともに強力なストライカーだった。彼らについては、あの時期のことが一番印象に残っている」

――あれはあなたにとっても重要な経験でしたからね(アンチェロッティはサッキの助監督としてアズーリの一員だった)。引退を決意するというのは、誰にとっても難しいことだと思います。もちろんあなたもそうだったと思いますが、引退を決めた時どんなことを考えましたか?

「私は33歳で引退したわけだが、後悔はまったくなかった。まだ現役を続けることもできたが、新しい仕事(イタリア代表の助監督)を始めるチャンスでもあったし、後ろ髪を引かれることもなく引退を決めたよ。

引退を決意する時には、自分がどういう決断を下そうとしているのか、十分に理解した上で下すべきだと思う。2ヶ月、3ヶ月経った後に後悔するかもしれないが、もう後戻りはできない。一度決めたら後ろを振り返らないことが必要だ」

――あなたの場合、膝の故障に代表されるコンディションの問題もあったのでしょうか?

「いや、それは関係ない。膝は悪かったが、プレーを続けることは十分に可能だった。サッキと一緒に代表に行くというオファーがあったので、喜んでそちらを選んだというだけのことだ」

――チャンピオンズ・リーグに話題を移しましょう。一言でいって、今シーズンのCLでのミランの戦いをどのようにまとめることができるでしょう?

「予想していたよりも苦しんだチャンピオンズ・リーグだった。そして全てがうまく行き始めたと思ったその時に、“悪魔の一日”に躓いてしまった、ということになるだろうか……。

ホームでブルージュに負けるなど、出足は決して良くなかった。グループリーグを勝ち上がるのに思ったよりも苦労した。アウェーのブルージュ戦とアムステルダムでのアヤックス戦の両方に勝たなければなくなってね。その後、スパルタ・プラハをいい形で下し、準々決勝でもデポルティーヴォに先勝して、波に乗ったと思ったが、そこで止まってしまった。試合が思ってもみなかった展開になって、対応のしようがなくなるというのは、チャンピオンズ・リーグだけではなく、どんな時にも起こり得ることだけれど、それが起こってしまった」

――今年のチャンピオンズ・リーグは、優勝候補がすべて早い段階で敗退してしまいました。これは単なる偶然でしょうか、それとも何か理由があるのでしょうか?

「単なる偶然だと思う。ポルトは昨シーズンUEFAカップを勝ったことからもわかる通り、すでにヨーロッパの舞台で結果を残しているチームだが、モナコ、デポルティーヴォがベスト4に残ったというのは、間違いなくサプライズだった。それがなぜかは……、偶然だとしかいいようがないね。たまたま今年はこういう結果になったという、それだけのことだ」

――ラ・コルーニャでミランに何が起こったのでしょう?突然ブラックアウトが起こったのか、それとも……。

「第1戦を4-1で勝ったチームが逆転されるという事態が起こった時に、その理由を説明するのは簡単じゃない。本当に難しいし、実際説明のしようがない。正直言って、その原因を追求しようという気持ちさえ起こらないほどだ。

というのは、原因を追求することに意味があるとも思えないからだ。ラ・コルーニャでのミランは、本当のミランではなかった。あれが何度も起こり得ることなら原因の追求にも意味があるが、そうだとは到底思えない。二度と起こり得ないことだと思っている。そうである以上、原因を追求しても仕方がないししたいとも思わない」

――その後のミランの戦いを見てもそれは……。

「その通り。あの試合の前も、その後も、ミランはまったく別物の戦いを見せたわけで」

――2-0になった時に、守備的な戦い方に切り替えようとは思いませんでしたか?

「2-0になってから3点目を取られるまではすぐだった。何かを変える余裕などなかったよ」

――これはどうしようもないとわかったのはいつでしたか?何がそう思わせたのでしょう?

「0-3で迎えた後半の立ち上がり、試合の流れを変えられないままだった時だ。試合は彼らが望んだ展開のまま変わらなかった。後半に入って試合の流れを変えることができれば話は違ったのだろうが、それができなかった時に、これはもう無理だということがわかった」

――結局、優勝したのはポルトでした。優勝にふさわしいチームだったと思いますか?

「ああ、私はそう思うね。他のどのチームと比べても、より安定しており、より注意深く戦った。でもポルトにも運はあった。最後の最後に決めたゴールでマンチェスターに勝ったわけだからね。チャンピオンズ・リーグで優勝するというのは、そういう運にも恵まれたということだ」

――去年はミランにも……

「その通り。去年は我々がそうだった(準々決勝アヤックス戦の第2レグ、ロスタイムのゴールで勝ち抜け)。ポルトも、優秀であると同時に幸運だったということだ」

――優勝監督のモウリーニョについてはどうでしょう?彼のどこが優れていたと思いますか?

「彼の仕事のやり方を知らないから、評価することはできないが、優秀な監督であることは間違いない。去年UEFAカップ、今年はチャンピオンズ・リーグを勝ち取るというのは、優秀で有能な監督であることの何よりの証拠だ。具体的にどのように、というのは言いようがないが」

――外部から見ていてその手腕について推測できることは?

「いや、どんな人物かも知らないからね。彼のチームを見てわかるのは、よく組織されており非常に注意深く戦うということだが、それ以上は言いようがない」

――セリエAとチャンピオンズ・リーグ、どちらがより難しいタイトルだと思いますか?

「個人的には、間違いなくチャンピオンズ・リーグの方が難しいと思う。予見不可能な出来事が起こる確率が高いし、カンピオナートだとそれが起こっても取り返すことが可能だが、チャンピオンズ・リーグでは1試合しくじると、特にそれがトーナメントに入った後だと、取り返すことはほとんど不可能だ」

――ラ・コルーニャでの出来事はさておき、今シーズンのミランのチャンピオンズ・リーグは、ポジティブなものだったといえるでしょうか?

「いや、ポジティブだとはいえない。ミランが準々決勝で敗退することはあってはならないことだった。勝ち進むことができる状況は整っていたわけだからね」

――じゃあ、来シーズンの話を少ししましょう。連覇のために最も重要なことは何だと思いますか?

「82ポイントの勝ち点を挙げることだね。82ポイント挙げればスクデットは間違いない。ということは、安定して結果を出し続けた今シーズンの戦いを、再び繰り返すことだ」

――素晴らしい2シーズンを終えて、一部の選手が“満腹”になってしまうという危険はないでしょうか?来シーズンは新たなモティベーションを与えることが重要な課題になるのでは?

「いや、そんなことはないと思っている。サイクルは始まったばかりで、チームはまだまだ若く、更なる勝利に向けて高いモティベーションを持ち続けている。だから、そういう危険があるとは思わない。ミランでは誰もが、自分たちにはこれから何年も勝ち続けるだけの力があると信じている」

――ということはモティベーションはむしろさらに高いと……?

「十分にあるね。というのも……」

――勝利は満腹感よりも新たなモティベーションをもたらすということですか?

「ミランの場合は間違いなくそうだ。それに、勝利は満腹感をもたらすというのは、カルチョの世界でよく使われる決まり文句だが、私はそうは思っていない」

――スタムを獲得したことでミランの最終ラインはどう変わるのでしょうか?マルディーニは左サイドに戻ることになるのですか?

「いや、そう決まったわけではない。スタムは偉大なカンピオーネだ。元々強力だったミランのディフェンスをさらに強化する存在であり、チームとしての守備のクオリティを高めてくれることは間違いない。右サイドでプレーする時もあるだろうし、中央でプレーする時もあるだろう。時にはマルディーニが左サイドでプレーすることもあるかもしれない。しかしだからといって……」

――ポジションが固定されるわけではないと?

「……(首を横に振る)」

――クラブはスタムとドラソーを獲得しました。補強はこれで十分だと感じていますか?それとも……。

「いや、これで十分だ。クラブと一緒に補強の戦略を策定して、これで行こうと決めた通りに動いたわけで、これで十分だ」

――来シーズンのセリエAは20チーム制になるわけですが、これについてどう思いますか?賛成ですか?

「いや、私はいいことではないと思っている。試合数が増えて、そうでなくとも詰まっている日程がさらに詰まることになって、スペクタクルという観点から見てもそのマイナスの影響が出ることは間違いないだろう。それにユーロもあるからオフシーズンも短い。必然的に、練習する時間が少なくなって試合ばかりが増えることになる。これは誰にとってもプラスにはならないだろう」

――ビッグクラブと中小クラブの格差がさらに拡大する危険があるとは思いませんか?

「さあ、どうだろう。すでに格差は存在しているわけで、それがさらに拡大するとはあまり思えないけれどね。今存在している格差は、経済的、財政的な要因によるものなわけだが、セリエAに4チーム、いや2チーム新たに加わったために、それがさらに開くということはないだろうと思う」

――今年はこれから、ユーロ、オリンピック、そしてコパ・アメリカが控えているわけですが、これがシーズンに、とりわけミランに影響するということは?

「ミランは特にワールドカップ南米予選で、ブラジル人選手を何人か取られることになるだろう。あまり歓迎できない事態が起こることもあるかもしれない。代表に呼ばれるといっても、ヨーロッパの中で動くのと、ブラジルまで戻らなければならないのとでは影響が全然違うからね。これには注意しなければならないだろう」

――ワールドカップやユーロの翌シーズンは番狂わせが起こりやすいと言われますが、来シーズンはどんなサプライズがあると思いますか?

「チームということ?」

――ええ。昇格組も含めてみて、どうでしょう?

「いや、番狂わせはないと思う。スクデットを争うのはいつものチームだろうし、残りのチームは残留のために戦うことになるだろう。それは変わらないと思う。あえていえば、パルマは来年も今年と同じような戦いを繰り返すかもしれない。若くていいチームだからね。でも大きなサプライズはないと思う」

――ヨーロッパのビッグクラブでは多くの監督が動きました。このオフの監督のメルカートについて、どう思っていますか?

「確かに色々動きはあった。外国にいるイタリア人監督も含めてね。イタリアでも動きがあった。でもまあこれも移籍マーケットの動きの一環というだけのことだと思う。普通のことだよ。特に思うことはないな。これで何かが変わるとも思わないし」

――大物選手の動きもありそうですが……。

「大きな動きはいまのところ見えないけれどね。ビッグスターを動かすだけの資金力を持ったクラブはどこにもない、いやたぶんひとつなら、そういう投資ができるクラブもあるかもしれないが、今サッカーの世界はこれまでの戦略を見直してそれを再構築する反省の時期に入っている。大きな投資をする余裕はない。もちろん多少の動き、特にレンタルでの移籍はあるだろうが、それ以上はないだろう」

――ユーロが終わった後とか……

「いや、5000万ユーロ規模の大型移籍があるとは思わないね。あり得ない」

――ミランは早々と継続路線を打ち出して、現有戦力との契約を2008年、2009年まで延長しているわけですが、この路線についてあなたはどう思っていますか?それが、長い間続くグランデ・ミランを作る上での重要な鍵になるといっていいのでしょうか?

「重要であることは間違いない。ミランは今抱えているクオリティの高い選手たちを出来る限りチームに保ち、出来るだけ長い関係を続けたいと考えている。チームとしての継続性を保つために、優秀な選手を手放すまいとするのは当然のことだし、契約延長もそのための手段ということだ」

――それがさっき話に出た勝利のサイクルの……

「ベルルスコーニが会長になってから、ミランは重要な選手を手放したことは一度もないよ。戦力としての評価を誤り手放したことはあっても、金のために手放したことは一度もない。ミランはいつも、そういうふうに振る舞ってきた」

――来シーズン、最も危険ライバルは?その理由も聞かせてください。

「ユヴェントスだと思う。不本意なシーズンを過ごした後で、監督も代わったし、雪辱を求める気持ちは非常に強いはずだ。おそらく重要な選手を獲得してチームも強化されるだろうし、やはりユヴェントスが一番危険だろう。ローマは逆に何人かの戦力を手放すことになるだろうからね」

――ビッグクラブの中ではユーヴェが最も……

「今シーズンよりもよくなることは間違いないだろうからね」

――ユーヴェは、カペッロ監督を招聘して積極的な補強をしようとしているわけですが、どう評価しますか?

「ユーヴェとカペッロという組み合せは、名前だけ見ても重要な組み合せであることは間違いない。今シーズンよりもよくなることは間違いない、と言ったのもそのためだ」

――ユーロやオリンピックがあり、20チーム制になりと、いろいろトピックスはありますが、来シーズンはどんなシーズンになると思いますか?

「カンピオナートは……、今シーズンと大きく変わることはないだろう。順位という点では、ほとんどサプライズがなかった今シーズンと比べれば多少は意外な動きがあるかもしれないが、3、4チームがスクデットを争い、残りは残留を目指すという構図は変わらないだろう」

――最後の質問です。この夏はローマ、ラツィオ、インテル、レアル、ヴァレンシアなどたくさんのチームが日本やアメリカに、マーケティング目的の営業ツアーに出ます。これについてどう思いますか?カンピオナートにどんな影響を与えることになるのでしょうか?

「ポジティブな影響はないと思う。ネガティブにならないように、出来る限り注意を払って対応する以外にない。プレシーズンのコンディションづくりには、あまり影響はしないと思う。キャンプを始めたばかりの時期にその手のツアーがあれば影響は大きいだろうが、キャンプの最後であればポジティブなものにもなり得る」

――マーケティングというクラブの目的に役立つという意味で?

「それはもちろんそうだ。でもそれだけではなく、キャンプの終わりに、チームが完成した段階で何試合かテストをするという意味でも、ポジティブになり得ると思う」

――以上です。どうもありがとうございました。

「どういたしまして」

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。