Tifosissimo!!! in trasferta(アウェー活動報告)でもお伝えしているように、今年1月から、スカイパーフェクTVの「for football」で、毎月ひとりづつ、セリエAの監督/選手のロングインタビューをしてきました。

テレビの場合、番組が終わってしまうと後には残らないというのがあって、それはちょっと勿体ないような気がするので(内容にはそれなりの自信があります)、スカパー!のご好意と許可を得て、放映がすべて終了した後に、ここにテキスト版を掲載することにしました。

新シーズンの第1回目となる通算5回目(2003年9月放映分)は、「勝てない男」から一転、チャンピオンズ・リーグ、コッパ・イタリア、UEFAスーパーカップを制してイタリア屈指の名監督に評価を激変させたミランのカルロ・アンチェロッティ。

例によって、字幕用に翻訳したものをそのまま整理しただけのノーカット完全版。じっくりとお楽しみください。

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※インタビューは2003年2003年7月23日、ミラネッロにて行われました。

――昨シーズンはミランにとってもあなたにとっても素晴らしいシーズンでした。今振り返ってみて、どんなふうに総括できるでしょう?

「ミランにとっては間違いなく重要なシーズンだった。何年かぶりに重要なタイトルを勝ち取ったわけだし、1年を通して充実したシーズンだったし。セリエAの後半戦に入って困難に陥った部分はあったけれど、全体としてみればチームは非常によく戦ってくれたと思う。

11人中6~7人が前のシーズンと入れ替わった、新しいチームだったことを考えればなおさらだ。最初はいくらか未知数の部分を抱えてもいたけれど、戦う中でいい形を見出して、最後にはふたつの重要なタイトルを勝ち取ったというわけだ」

――このふたつの勝利の味はいかがでしたか?

「チャンピオンズ・リーグの味は格別だった。なにしろヨーロッパのクラブにとって最も重要なコンペティションだし、それだけに優勝した時には素晴らしい感動と喜び、そして満足感がある」

――監督としてこの勝利は大きな喜びだったと。

「もちろん。私にとっては監督として初めての重要なタイトルだったしね。このコンペティションでのチームの戦いぶりには心から満足している」

――あなたの中でこの勝利の前後で何かが変わったということは?

「いや、私自身の中ではまったく何も。クラブや選手たちが満足してくれてとても嬉しいと思ってはいるが、今はもう新しいシーズン、新しいストーリーが始まっている。心の中には大きな喜びと満足感が残るけれど、前を向いて進まなければならない。カルチョというのはそういうものだ。常に次の戦いに目を向けて進んでいかなければ」

――あなたは選手としても二度、チャンピオンズ・カップを勝ち取っているわけですが、監督として味わう勝利の味は違うものでしたか?

「それは違う。はっきりと違うものだ。選手として担う責任というのは監督と比べれば小さいから、喜びもみんなと分ち合うものだった。でも監督はすべての責任を担う。喜びや満足感も、選手として勝った時よりもずっと大きかった」

――決勝はPKで決着したわけですが、あそこで逆の結果が出ていれば、今はまったく別の状況になっていたかもしれない。そういう勝敗の残酷さというか、サッカーが持つある種の理不尽さをどう受け止めていますか?

「そういうものだということは最初からわかっていることだからね。PKというのはギャンブルみたいなものだから、困難でデリケートで緊張する瞬間を味わう。

確かに、ミランがPKで勝ったことは事実だが、決勝の内容からいっても、そこまでの戦いからいっても、勝利に値するチームはこちらだった。

チャンピオンズ・リーグで一番いいサッカーをしたのはミランだったし、だからピッチの上での結果は内容を反映した正しいものだったと思っている」

――決勝の内容について、退屈な試合だったという人もいたようですが、それについては?

「いやそうは思わないね。すごく均衡した試合だったことは確かだが。イタリアのチームは、非常にコンパクトで組織されたディフェンスを敷いて戦うものだし、そういう試合ではそう簡単に得点のチャンスは生まれないのが当然のことだ。

私は素晴らしい試合だったと思う。激しい闘争心を発揮しながらもフェアに戦ったし、両チームとも何度か美しいプレーを見せた。全く、退屈でひどい試合なんかじゃなかったと思うね」

――結果として、120分間点が入らなかっただけだと。ゴールを別にすればすべてがあったと言ってもいいですか?

「そうだね。もちろんゴールが決まっていれば、試合はもっと魅力的でわくわくするものになったことだろう。でもサッカーには他にもたくさんの要素がある。あの試合は、両チームとも非常にいいサッカーを見せた。内容的にはミランの方がよかった。より長い時間、試合の主導権を握ったからね」

――ということは、試合の結果は内容を反映したものだったと?

「私はそう思っている。ミランは勝つ資格があった。決着はPKでついたわけだが」

――総合的に見て、ミランがチャンピオンズ・リーグを勝ち取った最大の理由はどこにあったと思いますか?

「どこに行っても自分たちのサッカーを貫こうとしたことだ。ミランは守るだけのために戦ったことは一度もなかった。アウェーでも常に、自分たちのサッカーをして主導権を握ろうと戦ってきた。

大部分の試合ではそれができたけれど、できなかった試合もいくつかはあった。一番苦しかったのは、準々決勝のアヤックス戦だった。コンディション的にやや落ち込んでいたことに加えて、ピルロとセードルフという重要な選手を故障で欠いていた。でもそれ以外の試合では、ミランはいいサッカーを見せたと思う」

―アヤックス戦で苦しんだのは?

「繰り返しになるが、チームのコンディションはあまりよくなかったし、攻撃の組み立てに欠かせない2人の選手が欠けていた。だから、それまでとは違う戦い方を採らなければならなかった。より戦術的な秩序を重視して、組織的にアヤックスのボールポゼッションを抑えようとしたんだが……」

――確かに、あの時期は個人で局面を打開できる選手がやや少なかった。

「そう。そのために後ろから攻撃を組み立てて行くのに苦労した」

――話を少し戻すと、ミランは一次リーグ、二次リーグでそれぞれ、ヨーロッパを代表するチームと当たって互角以上に戦い、破ってきた。レアル、ボルシア・ドルトムント、デポルティーヴォ、バイエルン。あの時点ですでに、これなら最後まで、あるいはいいところまで行けるという感触を持っていましたか?

「正直言って、一次リーグの初戦でランスと当たった時点ではまだ、このチームがチャンピオンズ・リーグの舞台でどれだけやれるか、はっきりした見通しや感触は掴んでいなかった。

転機となったのはその次の2試合だ。デポルティーヴォ・ラ・コルーニャ、バイエルン・ミュンヘンとそれぞれアウェーで戦って、両方の試合に勝った。そこで初めて、これは十分に戦えるという感触を得た。一次リーグの内容と結果は、我々に大きな自信と意欲を与えてくれた」

――ミランの強みはどこにあったと感じていましたか?

「ヨーロッパの舞台におけるミランの強みは、シーズン初めのあの時期に関しては、サッカーの質の高さだったと思う。

1トップとふたりのトップ下というシステムで戦って、それがデポルにもバイエルンにも大きな問題を引き起した。それにあの時期には文字通り絶好調だったインザーギがいた。事実上、ミランのゴールはすべて彼が決めたようなものだったからね」

――グループリーグを勝ち抜いてトーナメントに入り、最初に当たったのがアヤックスでした。第2レグのロスタイムに入った時点で、ミランは敗退の危機にあった。あの時はどんな気持ちでしたか?

「とにかく何としてももう1点入れて結果を引っ繰り返さなければ、それしか頭になかった。2試合を通した内容からみれば、こちらの方が少しは上回っていたからね。

でも最後は、ほんの一瞬のことだった。カルチョというのはそういうものだ。ほんの一瞬で天と地がひっくり返る。ほんの一瞬でね」

――あなたは、以前には反対の目にも遭っていますよね。

「ああ。でもこのタイトルは、過去に味わった苦しみや悔しさをすべて忘れさせてくれた」

――準決勝と決勝は、どちらもイタリア勢との対戦だった。ミラノ・ダービーを2試合戦い、決勝の相手もユーヴェ。ヨーロッパカップなのにイタリア勢とばかり当たるというのは、ちょっと変な気分じゃありませんでしたか?

「本当に奇妙な感じだったね。正直言って、外国のチームと当たったほうがずっとよかったし、そうなってほしいと思っていた。イタリアのチームと戦うほうがずっと難しいから。

外国のチームとの試合は、お互い自分のサッカーをしようというオープンな展開になるから、われわれのように、よく組織されたチームであればあるほど勝利を得やすい。

それと比べると、特に準決勝のインテル戦は、ダービーということもあるし、すごく難しい試合になることは間違いなかった。

そして実際にその通りになった。2試合ともすごく神経質で緊迫した戦いだったし、おそらくミランもインテルも、本来の力を見せることはできなかった。というのも、あの緊張は本当に物凄いものがあったから。どちらにとっても、あの試合にシーズンがまるまるかかっていたからね。

スクデットはすでにユーヴェが勝ったといっていい状況だったから、ミランにとってもインテルにとっても、敗退したらそこでシーズンそのものが失敗に終わることを意味していた」

――確かに、当時の雰囲気はまさにそういうものだった。あなたは試合の後、マスコミをかなり厳しく非難しましたが。

「ああ。マスコミが作り出した空気は、ミラノという都市にとってこれだけ重要なイベントにはまったくふさわしくないものだった。

ヨーロッパの頂点をめぐる大会の準決勝で、ミラノの2つのチームがミラノを舞台に戦うという素晴らしい機会だったわけで、もっと別の盛り上げ方があったはずだ。ところが、私とインテルのクーペル監督との戦争だ、ということになってしまった。私が怒ったのはそのせいだった」

――ある意味でイタリアのマスコミの典型的な盛り上げ方だったわけですが、サッカー全体にとってはいいことではないと思いませんか?

「間違いなくいいことではない。サッカーが、楽しみや情熱や娯楽や気晴しではなく、他の何かもっと……緊張や対立を生み出すものとして捉えられるのは、決して正しいことではないと思う。

サッカーはひとつのスポーツであり、楽しむものであって、緊張を作り出すものではない」

――あなたは、この傾向は変わらないだろうけど、とも言っていましたが……。

「ああ、イタリアでは変わらないだろうね。20年前からずっとそうだし、どんどん悪い方向に向かっているような気がしている。この点ではサッカーを取り巻く空気は以前よりも悪くなった。

そのせいで、世論のプレッシャーは高まる一方だし、クラブもそれに左右されて、バランス感覚をもってチーム作りを進めることができなくなっている。監督がすぐに首になるのはまさにそのためだ。

十分な時間が与えられず、しかも厳しいプレッシャーの下で仕事をしなければならないから、じっくりと腰を据え、中・長期的なプログラムを立てやって行くことができない」

――監督にとっては、計画的なチーム作りがますます難しくなってきていると?

「そう。2、3年単位の計画を立てることはもはや不可能だ。すべてが上手く行くように祈りながら、毎月の予定を立ててはこなしていくしかない」

――他の国では……

「今年はやっと、少し変化の兆しが見えているけどね。勝った監督も入れば、勝てなかった監督もいるけれど、それにもかかわらず、イタリアではどのビッグクラブも監督交代には踏みきらなかった」

――経済危機のせいもあったようですが。

「たぶんそのせいだと思うけどね」

――話をチャンピオンズ・リーグに戻すと、インテルとの準決勝2試合は、どちらも緊迫した神経質な試合でした。

「そうだね。美しいサッカーが見られなかったことは確かだ。緊張とプレッシャーがすべてを支配していたんだ」

――昨シーズンはダービーを4回戦って一度も負けていません。

「いや、全部で5回戦ったよ。親善試合もひとつあったから。5試合戦って3勝2分だった」

――この好成績にはなにか秘密があるんでしょうか?

「ミランの戦い方がインテルを困難に陥れたんだ。とりわけトレクァルティスタ(トップ下)のポジショニングが、インテルのディフェンスに問題をもたらした」

――(ディフェンスと中盤の)2つのラインの間でね。

「そう。我々はその優位を利用することを狙って戦った。1-0で勝ったカンピオナートの2試合は、いずれも同じような展開でゴールが生まれたからね。

最初はリバウド、2回目はルイ・コスタだったが、トップ下の選手にボールが入って、そこからのスルーパスでシュートにつながった。インテルを困難に陥れた典型的なシチュエーションだよ」

――決勝はイタリアではなくマンチェスターで戦ったわけですが、外国でイタリアの相手と戦うというのはどんな感じでしたか?

「マンチェスターで決勝を戦ったことは、大会により一層の魅力を与えたと思う。チャンピオンズ・リーグ決勝をユヴェントスと、しかもマンチェスターで戦う。色々な意味で象徴的な意味合いがあった。

素晴らしい経験だった。私はマンチェスターで戦えてよかったと思っている。あそこはすごくいいスタジアムだし、決勝にはまさにふさわしい環境だった」

――相手はユーヴェよりもレアルの方が良かったですか?

「そう。レアルとの戦いは、負けるのも簡単だけれど、勝つのもまた簡単だからね。ユーヴェとの決勝とはまったく違う試合になっていただろう。

レアルは間違いなくより高いクオリティを持っているけれど、ユヴェントスと比べると戦う意志の強さ、勝利への執念では劣っている」

――いずれにしても、難しい試合だった。

「ユヴェントスとの試合?」

――ええ。

「確かに難しい試合だったけれど、ミランはいい試合をしたと思う。(セリエAで3月末に)ホームで戦った試合をもう一度繰り返すことを目指して、それに成功した」

――今振り返ってみると、ミランは最後の3試合をいずれも引き分けて、チャンピオンズ・リーグを勝ち取ったわけですよね。ファビオ・カンナヴァーロと話したときに、彼はそれをすごく悔しがっていました。もし準決勝の試合結果(0-0と1-1)がひっくり返っていれば、決勝に進んだのはインテルだったのに……、と言ってね。

「まあね。準決勝では……、ミランがホームで戦う第2レグをより有効に利用したことは確かだ。アウェーの第1レグでは慎重に戦ってホームで積極的に行く、そういう計算は必要だったし、有効だった。

インテルはそれをやらなかった。第1レグでも第2レグでも、積極的に戦いを挑んでは来なかったからね。ホームの第1レグでインテルがゴールを決めていれば、決勝進出を狙う上で大きな布石だっただろうけど。

我々はそういう計算をした。第1レグでは慎重に戦って失点をせず、ホームの第2レグで積極的に攻めてゴールを狙うという作戦でね」

――そしてその通りの結果になったと。

「そう。狙った通りの結果でしたね」

――今シーズンはディフェンディング・チャンピオンとしてCLを戦うわけですが、抱負を聞かせてください。

「確かなのは、我々はなんのアドバンテージも持っていないということだ。ポイントを余計にもらえるわけでもなく、他のチームと同じようにゼロからスタートして、一次リーグ、二次リーグを勝ち抜いて、決勝を目指さなければならない。

ただし、去年よりもずっと大きな自信を持ってスタートを切れる、というのはもちろんある。チームはすでに土台がしっかりと固まっているし、どこまで行けるかもわかっている。それが今年の出発点になる。去年はまだ、このチームがチャンピオンズ・リーグでどこまでやれるか、未知数だった。今年は勝利を目指せることがわかっているからね」

――ヨーロッパ全体のパノラマの中で、昨シーズンのベスト4に3チームが勝ち残ったこともあって、イタリアの復権という声も上がっています。本当にそうでしょうか?

「困難な時期が何年かあったけど、昨シーズンはイタリアのチームがいい結果を残した。今シーズンも同じだろうと思う。ヨーロッパ全体の構図そのものは、ほとんど変わってはいない。昨シーズン、有力チームでベスト8に残らなかったのは唯一、バイエルン・ミュンヘンだけだろう?」

――アーセナルは?

「アーセナルはどうしたんだっけ?」

――二次リーグで敗退しました。

「じゃあアーセナルもそうだけど、いずれにしても、一番意外だったのは、バイエルンが一次リーグで敗退したことだった」

――イングランドやスペインのサッカーと比較して、イタリアサッカーが優れている点があるとすれば、それはどこでしょう?

「他のどの国のチームよりもディフェンスの局面に気を使うことだろうね。だから守備が非常によく組織されている。アドバンテージはそこにある。というか、そこだけだ」

――カンピオナートについても話しましょう。最終的にミランが唯一獲得できなかったタイトルがスクデットでした。最終的にはユヴェントスから11ポイント離されることになった。この差はどこから生まれたのでしょうか?

「いや、このポイント差は本当の差ではない。シーズン最後の何試合か、チャンピオンズ・リーグに集中するために、カンピオナートは完全に捨てたからね。単にそのせいでしかない。

確かに、いずれにせよユーヴェに追いつくことはできなかっただろう。でも4月までは我々もスクデット争いに踏みとどまっていた。パルマ戦(27節)で負けたことで、チャンピオンズ・リーグに焦点を絞ることになったということだ。

カンピオナートは今シーズンも何も変わらないだろう。3~4チームが優勝を争うことになる。5チームかもしれない。ローマが戻ってくる可能性があるからね。もしいいFWを獲ればの話だが。あとはラツィオ、インテル、ユーヴェ、ミラン、いつもの顔ぶれだよ」

――ということは、スクデットを断念したのはあのパルマ戦の後だったと。

「そうだ。ポイント差が8に開いて、追いつくのは難しくなった。2位をめぐって最後までインテルと争ったわけだが、客観的に見ても、後半戦のミランは褒められたものじゃなかった。その理由を見つけるのは難しいけれど」

――実際、前半戦と後半戦でまったく異なる2つのミランを見たという印象があります。その理由はどこにあるのでしょう?

「いや、理由が何か説明するのは難しい。気の緩みもあったかもしれない。調子が落ちたのは、チャンピオンズ・リーグでグループリーグ通過が決まった直後だったから。フィジカルコンディションの問題だったかもしれない。CL予備予選のために7月1日からキャンプインしてやってきたわけだから。

何人かの選手が後半戦に入ってコンディションを落としたせいかもしれない。私はそれが一番大きかった気がするけどね。セリエAのいくつかの試合、特に下位チームとの試合は、準備が甘かった面もあったかもしれない。イタリアではそれをやるとすぐにしっぺ返しを食らうから」

――9ヶ月間にわたって集中を持続するのは、すごく困難なことだと思いますが。

「ほとんど不可能だね。でも、去年と比べてより上を目指すためには重要なポイントであることは間違いない」

――ということは、エネルギーや集中力をうまく配分することを考えるのか、いずれにしてもそんなことは不可能なのか、どちらなんでしょう?

「さあね。これだけの人数を抱えている以上、全員をうまくまとめて行かなければならないし、しかし最後には明確な選択をしなければならない。

いずれにせよ、チーム全員を巻き込んでやっていかなければならないことは確かだ。でも、去年と同じシーズンを送ることができれば、私としてはそれで十分満足だよ」

――昨シーズンの前半は、非常に積極的にターンオーバーを適用しました。これは複数のコンペティションを戦う上では不可欠でしょうか?

「シーズンの最初の時期は、間違いなくそうだ。心理的な観点からいってもね。前半戦は選手をなるべくうまく回しながら戦い、しかしシーズンの終盤には、これというベストメンバーを組んだらそれで戦い続けて行くことが必要になる」

――実際、昨シーズンの終盤には、かなり明確な選択を下した、つまりリバウドやアンブロジーニなど何人かをレギュラーから外すことになった。

「そう」

――彼らを外したのはどうしてだったのでしょう?

「それは、一度に11人しかピッチに送れないからだよ(笑)」

――そんなことはわかってますよ(笑)。

「一番大きかったのはコンディションの問題だ。リバウドよりもルイ・コスタ、アンブロジーニよりもガットゥーゾの方が調子がよかったし、戦術的な方向性はすでに決まっていた。

シーズン終盤は、序盤戦と同じ、質の高いテクニカルな選手を多く使う戦い方に回帰したからね。それまで、例えばアヤックスとの準々決勝など、フィジカル的に強いチームと戦う時には、さっきもいった通りやや戦術志向を強めていたわけだが」

――昨シーズンのミランは、サイドをあまり有効に使わなかったといわれました。今シーズンの課題の一つは、サイドをより活かすことだと考えていいでしょうか?

「いや、どんなチームもそれぞれの特徴を持っているものだが、このミランには、サイドを積極的に使うタイプのキャラクターはもともと備わっていない。逆に中央でプレーする志向の強い選手を数多く抱えているからね。ルイ・コスタ、セードルフ、ピルロ、リバウド。

でも同時に、サイドでのプレーを得意とする優秀な選手も2人いる。セルジーニョ、そして新加入のカフーがそうだ。試合によっては、彼らを起用して積極的にサイドを使って行くこともあるだろう」

――じゃあ、戦術的なプロジェクト自体は、去年とはまったく変わらない?

「変わらないね」

――4-3-2-1あるいは4-3-1-2のシステムも?

「ああ。ただ、昨シーズンは常にそうだったわけじゃなく、違うシステムもかなりの試合で使ったがね。チャンピオンズ・リーグの決勝も4-3-1-2じゃなかった。ルイ・コスタが開いたポジションに位置していたからね。頻繁に中央に入って行ったけれど、起点は右サイドだった」

――実際、守備の局面では完全な4-4-2だった。

「その通り」

――今シーズンはセルジーニョとカフーを使った4-4-2も可能ですよね。

「もちろん。状況によって武器として使うつもりだ」

――でも基本的な戦術、戦い方自体は昨シーズンと変わらないと?

「そう。昨シーズンと同じようなサッカーを、できればよりいい形で展開することを目指すつもりだ。もっと安定して質の高いサッカーをする必要はあるが、基本となるのは昨シーズンからの戦い方だ」

――昨シーズン、継続性、安定性という点でやや劣っていたという指摘もありましたが。

「ああ。質の高いプレーヤーを多く起用した反面として、常に安定したパフォーマンスを発揮することが難しかったというのはひとつある。この点を改善することは今シーズンの課題のひとつだ」

――ミランは長いシーズンを戦うリーグ戦には向いていないチームだという声もあります。

「さあどうだろうか。ミランには、一発勝負の試合にも、長い期間をかけて戦うリーグ戦、つまりカンピオナートやチャンピオンズ・リーグにも、勝てる力があると私は思っているけれど」

――今シーズン、サポーターはチャンピオンズ・リーグよりもむしろスクデットを期待しているのでは?

「さあね。私にいわせれば、チャンピオンズ・リーグが与えてくれる感動は、カンピオナートからは得られない。それは間違いない」

――じゃあ、最大の目標は今年もチャンピオンズ・リーグ?

「最大の目標は、もちろんチャンピオンズ・リーグだよ。私にとってはね。ミランとしての目標はすべてのコンペティションで勝利を目指すことだ。今年は一発勝負のファイナルが、イタリアとヨーロッパのスーパーカップ、そしてインターコンチネンタルと3つあるから、何かしらのタイトルを勝ち取るチャンスは十分あると思っている」

――今シーズンのミランにとって、さらなる飛躍の鍵となる選手は誰でしょう?

「昨シーズンは、諸般の事情から力を発揮できなかった選手が2人いた。ひとりはレドンド。故障で2年間戦列を離れて復帰したばかりだったからね。もうひとりのリバウドは、新しい環境に溶け込むのに時間がかかった。今年は彼らにすごく期待している。彼らが持てる力を発揮してくれれば、ミランがさらにレベルアップすることは間違いない」

――今シーズンの補強は非常に控えめでした。獲得したのはカフーだけだった。<注:この時点ではパンカロもカカも来ていなかった>

「勝利を勝ち取ったメンバーを信頼するというのは、クラブの路線であると同時に私の考えでもあった。いくつかの試合で足りなかった部分、つまり右サイドを深く使った攻撃を実現するためにカフーを獲得した。

でも、シミッチが素晴らしいシーズンを送ったことはいうまでもない。彼はキャラクターが違うわけだし。この補強だけでも十分だと思っている」

――同じ監督、メンバーの変わらないチームで、何年も緊張感やモティベーションを維持して行くことは難しい、とよくいわれますが。

「私は、これはまだ、長い旅、長いストーリーの始まりに過ぎないと思っている。これができる限り長く続いてほしいものだ。チームのモティベーションが下がる兆候はまったく感じないし、むしろさらなる成功を勝ち取るために戦い続けようという意欲がさらに高まっているくらいだ」

――ベースになるのはこれからもこの顔ぶれだということですね。

「もちろん。ベテランの選手も少なくないが、彼らもまだまだいい仕事ができる」

――平均年齢はかなり高いですよね。

「確かにね。でも、CLの決勝であれだけのプレーを見せたコスタクルタにしても、マルディーニにしても、フィジカル的にはまだまだトップレベルだよ」

――最後に、日本の視聴者にメッセージを。

「喜んで。みなさんがイタリアサッカーの試合を楽しんでくれることを祈っています。12月には横浜でお会いしましょう。アリヴェデルチ」

――横浜での試合には何を期待しますか?

「もちろん勝つことだよ。それだけだ」

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。