リコ・セメラーノ会長

――ここ5年間でこれが4シーズン目のセリエAです。これは大きな成功だと思いますが、その秘密はどこにあるのでしょうか?

「レッチェのように、南イタリアの小さな都市の小さなクラブにとっては、まさしく偉大な成功だと思っています。5年間のうちセリエAが4シーズン、唯一セリエBを戦った昨シーズンはすぐに昇格を勝ち取ったわけですから。

これはわれわれがこれまで積み重ねてきた努力の結果です。あらゆる方面に注意を向け、怠りなく目配りをしながら、綿密なプログラムを立ててそれを着実に実行してきました。その成果が表れたといっていいと思います」

――今回の昇格は、セリエBで最も平均年齢の低いチームによって勝ち取ったものです。その背景にはクラブとしての明確な戦略があったと思いますが。

「ええ。非常に若い、しかし才能のある選手を積極的にトップチームに起用して行こうという戦略がありました。若いタレントを数多く抱えて積極的に起用して行くという方針は、大きな経済危機に陥っている現在のカルチョの状況において、コストを抑えながらトップリーグで戦い続けることを可能にしてくれます。

これは、何年も前にクラブとして行った選択、つまりユースセクション(育成部門)に積極的に投資するという戦略があったから可能になったことです。多くの若手を抱えるチームでセリエBを戦い昇格を勝ち取ったという結果は、時間をかけて積み上げてきたこの戦略の果実だといえるでしょう」

――昨シーズンは、トップチームのA昇格に加えて、プリマヴェーラもスクデットを獲得しましたよね。

「育成に力を入れている我々のようなクラブにとって、これは非常に重要な成功でした。しかも、ユヴェントス、パルマ、ラツィオ、インテルという、トップレベルのチームを次々に破って勝ち取ったものですからね。

ですから本当に素晴らしい勝利でした。プリマヴェーラのチームも、カテゴリーの中では最も平均年齢が低かったんです。

というのも、チームの主力だった5~6人が、セリエA昇格をかけたパレルモ戦、シーズンで最も重要な一戦を戦うためにトップチームに招集されていたので、プリマヴェーラのプレーオフ(※プリマヴェーラのスクデットは上位16チームによるプレーオフで決まる)には参加できなかったのです。

だから、主力を欠いた若いチームでスクデットを勝ち取ったわけで、これは非常に大きな満足感を与えてくれる出来事でした。育成部門の強化のために5年間にわたって密度の濃い仕事を続けてきたことが、正しい形で報われたのだと思っています」

――今シーズンもセリエAで最も若いチームになりますよね?

「ええ、間違いなくそうでしょうね。昨シーズンは、出場時間の長い20人を比較した時にセリエBで最も若いチームだったわけですから、今年もそうなるでしょう。

通常、セリエBのような下位リーグでプレーしている若手はそれほど注目を集めることがないのですが、うちの若手たちはみんな 素晴らしいタレントの持ち主ですから、セリエAでも大きな注目を集めることは間違いありません」

――新シーズンに向けての補強は控えめというか、それほど積極的ではないように見えますが。

「確かに慎重に動いています。というのも、カルチョの世界は大きな危機にあるし、そういう状況の中では経済的なリスクを冒さず慎重に振る舞わないと、セリエA、セリエBという大きな舞台で生き残っていけなくなる可能性があるからです。

ですから収支のバランスを崩さないように補強を図り、その範囲で最大限に戦力的要求を満たすよう努力することが何より大切です。

昨年のチームからは、レギュラーのGK(ロッシ)とMF(ドナデル)が抜けたので、そこを補強しました。GKはU-21のレギュラーで将来はA代表も期待できる選手(アメリア)、MFもミランが所有する有望な若手(ブーデル)です。抜けた戦力をそれと同等以上の戦力で補うことを基本にしているということです」

――今シーズンの目標は?

「もちろん残留です。セリエAで戦うレッチェにとっては常にそれが唯一最大の目標ですよ」

――目標を勝ち取る鍵は?

「すべての試合を、それが決勝戦であるかのように戦うことです。スクデットやチャンピオンズ・リーグ出場権を目指すビッグクラブと戦う我々は、ダヴィデに挑むゴリアのようなものですからね。

そういうチームからポイントをもぎ取ることは、極限的に難しいことです。100%ではなく110%の力を搾り出さなければ不可能です。力を出し惜しみせず、集中力を決して切らさず、そして何よりも決して敵を甘く見ないことが絶対に不可欠です」

――残留を勝ち取る自信はありますか?

「もちろんです。会長が自信を持たなくてどうするんですか。そのために全力をつくさなければ。現時点では、戦力的に見て確かにまだ完成したとは言えませんが、質の高い選手を何人か加えて競争力のあるチームを完成させるつもりです。

しかしそれ以上に私は、うちの若い選手たちの情熱と意欲が大きな力になることを強く信じています。それにセリエAでの経験を持つベテランたちの力を合わせれば、目標には手が届くはずです。

本当に残留を勝ち取れるかどうかは、もちろん戦ってみなければわかりませんよ。5~6チームが激しい戦いを繰り広げることになるでしょうが、そのうち勝ち残れるのは1つか2つでしかないわけですから」

――最後に、日本のサッカーファンにメッセージをお願いします。

「喜んで。日本のサッカーファンのみなさん、こんにちは。ぜひイタリアまで試合を見に来て下さい。スタジアムの雰囲気は 素晴らしいし、偉大なプレーヤーは生で見るに限りますから」

――どうもありがとうございました。

デリオ・ロッシ監督

――昨シーズンはセリエBで一番若いチームで昇格を勝ち取ったわけですが、その秘密はどこにあったのでしょう?

「昨シーズン勝ち取った結果の背後には、クラブの戦略、プログラムがありました。落ち着いて仕事に取り組める環境を私に与えてくれ、力のある興味深い若手を送り込んでくれました。彼らを育てたのはクラブですからね。簡単な戦いじゃありませんでしたが、最後の最後に勝つことができた。その功績の多くはクラブのものだと思っていますよ」

――そのチームを土台にして、より難しいセリエAでの戦いに臨むわけですが、BとAでは何が一番大きく変わるのでしょうか。また、目標である残留を勝ち取るためには何が必要だとお考えですか?

「去年は若いチームでBを戦うという大きな賭けに出て、その賭けに勝った。今年も間違いなくセリエAで一番若いチームになるでしょう。

これはもうひとつの大きな賭けです。セリエAで残留を勝ち取るというのは、我々にとっては優勝と同じことですからね。若いチームの意欲と情熱が大きな武器になることは間違いありません。私自身は、このチームは、一見すると矛盾する2つのキャラクターを身につけなければならない、それが何よりも重要だ、と言ってきました。

ひとつは謙虚さです。セリエAというトップリーグに昇格して、我々よりもずっと強い相手と戦うわけですからね。しかし同時に、我々は大胆でなければならない。誰と戦うかを真面目に考えたら、最初からピッチに降りなくても結果はわかっているという気分にもなりかねない。謙虚さを保ちながらも、同時に、そういうことに無頓着に戦う大胆さも持ち合せなければならないのです」

――セリエAの舞台でどんなサッカーを見せたいと思っていますか?

「選手のキャラクターはさておき、私は常にある種のサッカー、よく組織されたサッカーを見せるチームを作り上げようとしてきました。相手の存在を無視する(=相手にまったく合わせない)ことは不可能ですが、まずは自分たちのサッカーをすることを第一に考えるチームでありたいと思っています」

――あなたはこれまでほとんど常に、4-3-3システムで戦ってきましたよね。しかし今シーズンは3-5-2を試しているように見受けます。その理由はどこにあるのでしょう?

「理由は簡単です。昨シーズンの前半は4-3-3ではなく4-2-3-1で戦いましたが、それはヴグリネッチ、チェヴァントン、ジャコマッツィ、チミロティッチという4人を同時にピッチに送るためでした。

そのうちに、チミロティッチを故障で失い、ヴグリネッチが移籍していなくなったこともあって、システムを4-3-3に変更して後半戦を戦ったわけです。しかし、2~3年前からメンバーが大きく変わっていないこのチームは、もともと土台としては3-5-2で戦うことを前提に作られたチームです。

ですから今シーズンは、チームのキャラクターに合わせて3-5-2で戦うのが一番いいやり方だと判断したわけです。それが理由であって、一部で言われているように、セリエAで戦うからより守備を固めやすいシステムに変えたというわけではまったくありません。私は常に自分たちのサッカーを展開することを第一に考えるべきだと思っていますし、それはBでもAでも変わりません」

――ということは、チームの選手たちのキャラクターを最大限に生かすためにシステムを変えるというわけですね。戦術的な方向性は、あなたがずっと目指してきた組織的で攻撃志向の強いものになると?

「いや、そういうわけではありません。しかし選手のキャラクターからいって必然的に、低い位置からパスをつないで組み立てて行くサッカーを志向することになります。前線にボールをキープできる大型のストライカーがいませんからね。ロングボールを放り込んでも、すぐに戻ってきてしまうのは目に見えている。

だから組み立てを主体にしなければならないし、そういうサッカーをチームに根づかせなければならない。私は選手たちの学習意欲の高さに大きな期待をかけています。少しでも早く求めるレベルに到達してほしい。セリエAは世界で一番美しいリーグかどうかはわかりませんが、いやたぶん違うと思いますが、世界で一番難しいリーグであることは間違いありませんからね」

グイレルモ・スアレス・ジャコマッツィ選手

――去年はセリエBで主役として大活躍したわけですが、セリエAで戦う今シーズンの抱負は?

「偉大なシーズンを送って、重要な目標である残留を勝ち取ることです。みんな強い意欲に満ちていますよ。経験の少ない若いチームだということは自分たちでもわかっているし、謙虚に戦わなければならないでしょうね。ともかく、セリエAに踏みとどまることが最大の目標です」

――個人的な目標は?

「イタリアに来て1年目にセリエAで送ったシーズンを、もう一度繰り返すことですね。チームは降格してしまったけれど、自分ではいいシーズンを送ることができたと思っているし、今度はより活躍してチームの目標に貢献したいと思っています」

――キャンプがスタートして、今どんな感触を持っていますか?チーム状態、コンディション、今年の見通し……。

「僕は代表の試合があったのでチームに合流するのが遅くなってしまったけれど、みんなはもう2週間近く練習していますからね。合流して一番強く感じたのはみんなのやる気でした。チームがいい状態にある証拠だと思います。でもこれからもっともっと練習しないと。僕たちよりずっと強いチーム、偉大なカンピオーネたちと戦わなければならないわけですからね。そういう自覚は欠かせないと思います」

――チームの目標である残留の鍵は?

「チームの結束を忘れないことです。11人の味方がいるということを忘れないこと。たとえ目の前にいるのがマルディーニやルイ・コスタやネドヴェドであろうとも、サッカーは11対11の戦いですからね」

――あなたのキャリアにとっても、今年は非常に重要なシーズンになると思いますが。

「個人的にいいシーズンを送ることは確かに重要ですが、もっと大事なのはチームが目標を勝ち取ることです。どんなにいいプレーを見せても、チームが降格してしまえば、個人も高い評価は得られない。

ここレッチェでいいシーズンを送って結果を残し、選手として成長して、できればビッグクラブに移籍したい。それはすべてのサッカー選手の夢ですからね」

――その夢が叶うことを祈っています。どうもありがとうございました。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。