パオロ・デ・ルーカ会長

――苦しんで残留を果たした翌年、シエナが堂々とセリエA昇格を勝ち取ると予想した人は少なかったと思います。昨シーズンを振り返っていかがですか?

「望んだ通りのシーズンでした。昇格を狙うと明言してスタートを切り、その通りにトップで勝ち取った。素晴らしいクラブ、素晴らしいチーム、そして素晴らしい都市。すべてが噛み合ったからこそ達成できた偉業ですよ」

――昇格が視野に入ってきたのはいつごろでしょう?

「いや、年間チケットのキャンペーンから、セリエAを目指すと明言してスタートしましたからね。最初からそれだけのモティベーションを持っていましたよ。前のシーズンも、最後の13試合で30ポイントを稼ぎ出して、1試合平均2.3ポイントというユヴェントス並みのペースで終えましたからね。

多少の補強をすればセリエAは十分狙える体制だった。そして実際にかなりの補強もしました。体制は十分整っていたんですよ」

――偉業達成の秘密はどこにあったのでしょう?

「それは“虎の目”ですよ。何としても目標を勝ち取るという強い意志、チームの結束、そしてクラブの強力なバックアップ。というのも、チームやテクニカルスタッフが落ち着いて自分の仕事に取り組むためには、クラブがしっかり守り、支えなければならないからです。それが我々の最大の武器です」

――クラブ創立100年で初めてのセリエA。市民やサポーターの期待は大きいと思います。

「もちろんですよ。100年かかってセリエAにたどり着いたということは、不死の力を獲得したようなものです。これからの課題は、この力を失わずに保ち続けること。つまり勝ち続けることです。

地に足をつけて進むべきなのは当然ですが、2~3年セリエAで謙虚に修業を積んで、そこからはヨーロッパの舞台に向けて本格的な戦いを挑みたい。

物陰にかくれてこそこそする必要はない。我々は明確な戦略を持っているし、そのためにクラブの体制も強化し、強力な選手も獲得しています。非常に優秀なゼネラル・ディレクター(ヴァルテル・スカピリアーティ)も招聘した。シエナの経営の司令塔になってくれるはずです」

――会長ご自身にとっても初めてのセリエAです。昇格を決めた時はどんなお気持でしたか?

「いや、初めてではありませんよ。私はマラドーナの時代にナポリの役員でしたから。スクデット2回とUEFAカップも経験済みです。

でも、シエナの会長としてセリエAを勝ち取った感動は、当時よりもさらに大きかった。私はナポレターノ(ナポリ人)ですが、それでも、今回の感動の方が大きかった。それは、大きな夢の実現だったからです。ナポレターノにとって夢ほど大事なものはない」

――いまセリエAの開幕を前に、どんなお気持ちですか?

「すごくわくわくしていますよ。まだ現実だとは思えないくらいだけれど、大きな夢が実現した後は、また新たに大きな夢を提供しなければならない。今シーズンの年間チケット・キャンペーンのスローガンは“また新しい夢を一緒に見よう”というものです。大きな夢を見る者は大きな力を手にすることができる、私たちはそう信じているんです」

――今シーズンの目標は?

「何としても残留を達成したいですね。今の我々にとってのスクデットは、セリエAに踏みとどまることですから。個人的には、9位から12位までの間に収まることを期待しています」

――その目標を達成するための鍵は?

「しっかりしたクラブの組織体制です。私に言わせると、セリエAでもきちんと組織されているクラブは少ない。シエナは非常に堅固な組織体制を誇っています。チームの戦力などテクニカルな側面はもちろん組織体制においても、我々はセリエAにふさわしいクラブなんですよ」

――どうもありがとうございました。

ジュゼッペ・パパドープロ監督

――当初シエナを昇格候補に挙げる声はあまりなかったにもかかわらず、すばらしい偉業を達成した。昨年はどんなシーズンだったのでしょう?

「たぶん開幕前夜にはまだ我々自身も、こんな偉業を達成する力があるとは思っていませんでした。毎週の試合を重ねるうちにチームが自信をどんどんつけていったんです。最後には昇格を果たすだけでなく首位でシーズンを終えることができた。最初から昇格を見込んで戦ってきた有力なチーム、大金を投じて補強を敢行したチームを尻目にね」

――昇格を狙えると実感したのはいつごろですか?具体的な出来事はなにかありましたか?

「トップグループとはいかないまでも、かなりいいところまで行けそうだという感触は、すでにキャンプの時点で感じていました。

それ以上の何かを目指せると感じたのは、ホームでトリエスティーナを破り、前半戦が終わって全チームとの対戦を消化した時点ですね。上位を確保していたし、たった3敗しかしなかったから、このまま昇格を勝ち取れるのではないかという希望は大きくなっていました」

――昇格を勝ち取った最大の要員はどこにあったのでしょう?

「シエナという環境が大きかったですね。この目標を勝ち取るために全体が一丸となってチームを支えてくれた。そしてチームの選手たちが、昇格を実現できると強く信じ、結束して戦い続けてくれたことも大きかった」

――あなたにとってもこれが初めてのセリエAになります。昇格を勝ち取った時のお気持ちは?

「それはもちろん大きな感動でしたよ。でも一方で、それだけの仕事をした結果だという自負もあります。長い間下のリーグで監督業を続けてきて、すべてのカテゴリーで昇格を勝ち取った経験もある。55歳にして自分の夢、つまり自分の力だけでセリエAの舞台にたどり着くという夢を果たすことができたことを、誇りに思っていますよ」

――いまセリエAの開幕に向けて、どんなお気持ちですか?

「特に心が高まったりしているわけではありませんが、責任感、自分が背負っている責任に対する自覚は強く感じます。このトップカテゴリーに踏みとどまるという大きな目標に向かって戦わなければならないわけですし、それが実現できればシエナにとってはもうひとつの大きな勝利になるはずです。

シエナがさらにもう1年、セリエAの舞台で戦うということは、ひとつの戦いを勝ち取ったということですからね」

――目標を勝ち取るための鍵は何でしょう?

「我々が昨シーズンに到達した場所からスタートを切ることです。強い情熱、チームにかかわるすべての人々の強い結束、そして我々、つまり監督と選手たちの強いプロ意識などを持ち続けること。昨シーズンの勝利を支えたそれらの要素は、これからも長い間、我々の財産となり力となっていかなければなりませんからね」

――今年のシエナはどんなサッカーをみせてくれるのでしょう?

「セリエBで結果をもたらした戦術を続けて行くつもりです。セリエAではより大きな困難にぶつかることになるでしょうから、戦力的なギャップを埋めるためによりチームの完成度を高めて行かなければなりません。試合開始から最後の最後まで、ピッチのすべての領域で、全力で戦い続けなければならないでしょうからね。

これからさらに、クオリティの高い選手を補強する予定です。彼らは攻撃の質を高めることに貢献してくれるでしょう。働きバチたちが攻撃を組み立て、彼らがフィニッシュを担当するということです」
※この時点ではキエーザ、フロー、ヴェントラは獲得していなかった。

――シエナの最大の強みはどこにあるのでしょう?

「我々の情熱と結束、そして何としても目標を達成したいという意欲ですね。シエナのようなチームには残留は不可能だろうという悲観的な見方への反発が、逆に力になるだろうと思っています」

――どうもありがとうございました。

ミケーレ・ミニャーニ選手

※ミニャーニはシエナ在籍8シーズン目を迎える古株のセンターバック。セリエC1時代からディフェンスの中心としてチームを支えてきた。

――2ヶ月経ったいま、昇格の感動を振り返ってみていかがですか?

「いろんな意味で素晴らしい出来事でした。何といってもシエナにとっては、100年の歴史で初めてのセリエAですからね。

シエナで7年間プレーしてきた僕にとっても、言葉では言い表せないほどの喜びでした。何シーズンもかけてポジティブな結果を積み重ねてきた成果ですからね。誰にとっても大きな喜びだったと思います」

――シエナは開幕当時には、昇格の有力候補とはいえなかったわけですが、この成功の秘密はどこにあったのでしょう?

「確かに昇格の候補には入っていなかった。でも出足がかなり良かったし、シーズンを通していいフィジカル・コンディションを保つことができたから、不調に陥ることもなかった。

そして、何人かの若いタレントがブレイクしたことも大きかった。彼らは将来重要な選手になるだろうと思いますよ。その彼らと他の選手がチームスピリットを持って最後まで戦って、昇格を勝ち取ったというわけです」

――今シーズンの目標は?

「もちろん残留以外にはありませんよ」

――その目標に向けての条件は整っていると思いますか?

「シエナは補強に大金をかけたわけではないし、それができる立場にもありません。でも戦力的にはレベルアップしたと思うし、まだこれからも何人か補強されるはずです。新戦力が目標達成のための大きな力になってくれることを期待したいですね」

――残留を勝ち取るための鍵は?

「意志の強さだと思います。難しい状況に耐え、それを乗りきることができる意志の強さ。というのもセリエAでは強いチームに負けることがしばしばあるでしょうし、そのショックを消化して前に進まなければならないわけですから。目標はあくまで残留であり、それを最後の試合ででもいいから勝ち取ることが大事だということを忘れてはならないと思っています」

――個人的な目標は?

「チームスポーツである以上、個人の目標がチームの目標と同じなのは当然でしょう。フォワードはちょっと違うかもしれないけど。いずれにせよぼくの目標はチームの残留です。もし全部の試合に出てそれが達成できたら、さらに幸せでしょうけどね」

――どうもありがとうございました。

オマケ:サポーターの声

●バール&パブ「ラ・ビッレリア」で捕まえたサポーター、マウロ

――シエナがセリエAに行けると思っていましたか?

「最初は幻想だったね。それがだんだん成長していった。最初は誰も信じないけど気がつくと現実になっている夢、マジックみたいなものだったよ。シエナの街全体がその夢を生きたんだ。すごく濃密な夢だったよ。その濃密さは今までにないものだった」

――ここはシエナサポーターが集まる歴史的なバールなわけですが、昇格が近づいてきた時の雰囲気はどんなでしたか?

「試合後のお祭り騒ぎはいつもここだったよ。カンポ広場は、何かを祝う時にはみんなが集まってくる場所だから、試合が終わるたびに市民がみんなここに集まってお祭り騒ぎになった。そういうお祭り騒ぎは、シエナの人間は得意なんだ。なにしろ毎年パリオで盛り上っているからね」

●「ラ・ビッレリア」のオーナー、アントニオ

――セリエA昇格の盛り上りはパリオの盛り上りに匹敵するものだった、という声があったけど?

「いやそんなことはないね。それは聖なるものと世俗のものを混同する見方だよ。パリオは人生の本質だけれど、サッカーは楽しみに過ぎない。

カルチョはここ何年かこそ、それまでずっとセリエC1、C2のチームだったのが、Bに上がって騒がれるようになっただけ。今セリエAにたどり着いたのは確かにひとつの夢の実現だけど、パリオでの勝利はセリエAなんかとは比較にならないよ」

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。