1. 約束
「リッピがインテルに来てすぐに、一度呼ばれて2人きりで話をした。彼の考えるインテルにとってぼくは重要な選手であり、レギュラーとして起用するつもりだ、というのがその時の話だった。でも、ご覧の通り事情は大きく変わってしまったようだ。その理由はぼくにはわからないし、監督が決定権を持つのは当然だから、それに表だって文句を言うつもりはもちろんない。

でも、これだけ長くベンチで過ごさなければならないことが最初からわかっていたら、インテルに残らずたくさんのオファーの中から行き先を探していただろう。2年前、カペッロがミランに戻ってきた時がそうだった。しかし、カペッロは正直にはっきりと、ぼくは彼の構想には入っていないと伝えてくれた。それでぼくはボローニャに移籍してレギュラーとしてプレーし、22ゴールを決めて代表に戻ることができた。

(…)最初にリッピと話した時にはとても興奮したが、リッピが約束を守ってくれないことがわかった今、その時と同じ気持ちではなくなったとしても、それは当然だろう」
(ロベルト・バッジョ/Gazzetta dello Sport紙12月14日付インタビューより)

「私がシーズン前にバッジョと交わした約束を守らなかったのは事実だ。理由はひとつだけある。バッジョがその可能性を私に与えてくれなかったということだ。私の頭にあったのは、バッジョを2トップからやや下がった左サイドで使うというものだった。しかし、チームとバッジョの状態から、それは当面不可能だと悟らざるを得なかった。言っておくが、他の選手に約束したことはすべて守っている」
(マルチェッロ・リッピ/12月14日、練習場での記者会見で)

2. 出場機会
「リッピとは1ヶ月半ほど前にも1対1で話をして、この先、ぼくにチャンスがあるかどうかを訊ねた。その時は、チームはまだ3トップを支えるだけの体勢が整っていないということだった。確かに、インテルのここまでのフォーメーションはいつも2トップだが…。

(…)でもぼくはこれまでたった4試合にしか出場していない。しかも全部途中出場で、そのうち3試合はチームが負けているときに投入されたもの。たった15分で自分の力を示すこと、ましてや試合の結果を左右するプレーを見せることは、どんな選手にとっても簡単なことではない」
(ロベルト・バッジョ/前出のインタビュー)

「バッジョはこれまで試合に出てプレーした時間は、彼自身に値するだけのものだと思う。私は毎日練習を見ているが、バッジョがここまでベスト・コンディションだったこと、ライバルと競えるだけの状態だったことは一度もないと断言できる。ほとんどずっと故障がちだった」
(ガブリエーレ・オリアーリ:インテル・テクニカルディレクター/12月14日、練習場での記者会見で)

3. 立場の相違
「試合の最初からプレーすることを夢見ている。1-2試合だけではなく、せめて10試合くらい。ボローニャでそうだったように、自分が持てるものを十分に発揮するためにはそれくらいの時間が必要だから。1人の選手を評価するには時間が必要だ、と誰もがいう。その通りだと思う。でも、どうしてそれがぼくにはあてはまらないのだろうか?

バッジョはもう15分しか持たないとか、バッジョは練習もしていないとか、もうかつてのバッジョではないとか、いろいろなことを言われているのは知っている。でも、もちろんそれは全部嘘だ。確かにシーズン前のような興奮を感じることはないけれど、常に100%の努力を続けているつもりだ。コンディションも悪くないし、90分間プレーする自信はある。自分が下り坂だと感じたことはまだない」
(ロベルト・バッジョ/前出のインタビュー)

「私はチーム全体のことを考えるのが仕事であり、ひとりの選手を特別扱いすることはできない。監督の決断は、個々の選手に対する個人的な感情とは切り離して下されるべきものだ。基準はただひとつ、ベストのフォーメーションをピッチに送ることだけだ。

このチームは、リッピFCでもバッジョFCでもない。インテルだ。もし私が月曜日に、ある選手に次の試合に出すつもりだと言い、その後何らかの理由で考えを変えたとしても、それをいちいち釈明する必要はない。それが嫌な選手は、チームを出ていっても構わない」
(マルチェッロ・リッピ/前出の記者会見)

「あれ(ガッゼッタ紙で発言したこと)が自分を監督に売り込む最良の方法ではないことは明らかだ。というよりも、ああいう発言をすること自体、間違っている。インテルには選手の行動についての内規があるから、それに基づいて処分を受けることになるだろう。

いずれにせよ、プレーするに値する者が試合に出る、というのがインテルの原則だ。バッジョは、他のすべての選手と同様、インテルのいち選手であり、それ以上でもそれ以下でもない。それを受け入れられないならば、チームを去るのは自由だ。ウェスト(注:最近ミランへの移籍が決まった)がいい例だろう」
(ガブリエーレ・オリアーリ/前出の記者会見)

4. そして…
「今(1月の移籍マーケットで)インテルを出ることは全く考えていない。これまでに何度もチームを変えてきたし、大事な家族にもうこれ以上負担をかけたくない。それ以上に、ぼくはインテルにとどまりたいんだ。モラッティ会長との関係もあるし、スクデットの可能性もまだ十分残されている。

(シーズン終了後にどうするかは)まだまったくわからない。どんな形でシーズンを終えるかによるから。どんなことも起こりうるだろう。ヴィチェンツァに帰ることも含めてね。自分がデビューしたクラブでキャリアを終えられれば楽しいだろうと思う。もちろんこれはただの冗談だけれど…。はっきりしているのは、引退したらヴィチェンツァの家に帰って暮らすということだけ。それが何年後になるかはまだわからない。いずれにしてもそれを決めるのはぼく自身だ」
(ロベルト・バッジョ/前出のインタビュー)

「一般的にいって、天才が理解しがたい存在であることは間違いない。しかし、ロベルト・バッジョを理解しない、あるいはしようとしない人間があまりにも多すぎはしないか?それとも、責任は彼にあるのだろうか?

あまりにも型にはまらないがゆえに、普通の選手ではあり得ない。あまりにも美しすぎるゆえに、常にチームの役には立ち得ない。あまりにも貴重な存在であるがゆえに、とても壊れやすい。監督はしばしば彼をどこに置いていいかわからなくなり、彼はしばしば監督から与えられた場所が我慢できない…。

“ずぶ濡れの兎”はいつまでも乾くことのないまま、カルチョの世界の真ん中にたたずんでいる」
(マウリツィオ・クロゼッティ:La Repubblica紙記者/同紙12月15日付)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。