ワールドカップの一次リーグも大詰めを迎えつつある中、イタリアは、例によって危なっかしいところを見せながらもオーストリアを2-1で下し、2勝1分でグループB1位の座を確保した。

ここまでのイタリア代表をめぐる話題の中心は、もちろん「バッジョ―デルピエーロ問題」である。「レギュラー」のデルピエーロが故障から復帰するのを待つ間、期待以上の大活躍を見せてしまった「サブ」のロベルト・バッジョ。同時にフィールドに送ることがあまりにも難しいこの2人の「絶対的ワールドクラス」の扱いに、イタリア中の視線が集まったのは当然といえば当然である。

マスコミは、ある時には70年メキシコ大会でジャンニ・リヴェラとサンドロ・マッツォーラの起用法を巡って使われた「スタッフェッタ」(リレー)という言葉を持ち出したかと思えば、またある時には性急に二者択一を迫り、と、あの手この手で2人のライヴァル関係を煽り立てる。

否応なくチーム内外のテンションを高める方向に働くこの種のプレッシャーは、代表チームにとってそれこそ「百害あって一利なし」なのだが、そうはいってもマスコミの方は、メロドラマ好きの国民の期待に応えるのが仕事だから、まったく遠慮のかけらもなく、監督や選手を「試す」のである。

しかし、チェーザレ・マルディーニ監督は、外部からのプレッシャーに惑わされることも振り回されることもなく、このデリケートな状況を非常に上手くコントロールしている。

カメルーン戦の最後の20分に故障から復帰したデルピエーロを投入、とりあえず「様子を見た」同監督は、先週の金曜日に、レギュラーとして90分持つスタミナが戻っているかどうかチェックする、という名目で、デルピエーロのためだけに、地元のアマチュアチームと30分2本の練習試合を組んだ。もちろん、コンディションが十分なら、次のオーストリア戦では90分使う、という前提である。

結局、この試合を終えた後には「デルピエーロはまだ100%ではない」とコメントし、次のオーストリア戦ではバッジョとの途中交代もあり得ることを示唆したが、この「レギュラー扱い」は、バッジョの活躍で心中焦りもあったに違いないデルピエーロ(元々負けず嫌いで実はややいじけやすいタイプでもある)を、精神的に落ち着かせる上で大きな効果があった。

一方、バッジョについては、「ロベルトはこの2試合で素晴らしいプレーをした。彼が偉大なプレーヤーだというのは今更いうまでもないことだ」と賛辞を惜しまず、しかし同時に「次はデルピエーロの出番。コンディションが戻れば、プレーするのは彼だ。バッジョは自分の立場を十分理解している」と、「サブ」としての位置づけを改めて確認することも忘れない。

もちろんこれは、代表召集当初からバッジョが納得済みであること、また、彼が、動揺することなくベンチを受け入れ、次の出場機会に向けて準備を怠らないだけの人間的成熟度(デルピエーロにはまだない)を備えていることを、十分計算した上での扱いである。

そして、オーストリア戦では、1点目がデルピエーロのFKから、勝負を決めた2点目は、デルピエーロに替わって途中交代で入ったロベルト・バッジョが挙げるという、まさに「互角」の活躍ぶりであった。

結果的にマルディーニ監督は、ここまですでに4得点のヴィエーリ、調子を上げつつあるデルピエーロという「レギュラー」に加え、バッジョ、インザーギという、2人の「スーパーサブ」を、いずれもピークに近いフォームでベンチにキープしながら決勝トーナメントに臨むという、ほぼ理想的な状況を作り出すことに成功した。これは、監督の「マネジメント能力」のメリット以外の何者でもないだろう。

とはいえ、そのマルディーニ監督にも悩みはある。「レギュラー」陣の不調もあって、1戦目のチリ戦から、わずか2試合で3人を入れ替えるという試行錯誤が続いている中盤、オーストリア戦でネスタが右膝の半月板とじん帯を痛めて(全治4-6カ月)戦線離脱し、リベロを含めたCBに全く控えがいない状態になってしまったディフェンスと、2列目から後ろには、いつものイタリアらしくもない不安定さがつきまとっているのだ。

皮肉なことに、「守備的すぎる」という批判を受け続けてきたマルディーニ監督のイタリアが、ここにきて、絶好調の攻撃陣への依存度を大きく高めた「前輪駆動」ヴァージョンとなっているのである。

次の相手は、ブラジルに勝ってグループAの2位に滑り込んだノルウェー。頑強なディフェンスを誇る上に、ネスタを失ってますますイタリアの泣きどころとなった「高さ」を攻撃の核とするチームだけに、決して楽な相手ではない(できれば、モロッコに出てきて欲しかったところだろうが、こればかりは仕方がない)。

イタリアにとっては、攻撃陣が2点取れるかどうかが勝負の分かれ目だろうが、ここまでの出来を見る限り、期待はできそうである。例によってはらはらさせられる試合になることは間違いないだろうが。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。