2014年10月21日 契約・移籍

最新ヨーロッパ代理人事情(2006.02)

代理人については、ずっと以前にも何回か書いたことがありますが、その後もウォッチを続けています。2006年にこれを書いた数ヶ月後に勃発したカルチョスキャンダルによって、GEAは解散に追い込まれたのですが、モッジJrをはじめGEAにかかわっていた代理人たちは、その後も平気な顔をして代理人としてカルチョの世界を泳ぎ続けています。

一部の選手は彼らから離れて行きましたが、それもほんの一握り。モッジは今も、水面下から様々な形でカルチョの世界に影響力を行使し続けています。その話もそのうちどこかで一度まとめます。

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選手の契約・移籍交渉につきものの存在が、代理人である。

この代理人という仕事、もともとは、契約にかかわる法務的な知識、またその交渉手腕を生かし、総じて世事には疎いサッカー選手に代わって所属クラブとの交渉ごとを行う、いわば「コンサルタント」的な存在として生まれた職業だった。実際、この仕事の草分けとなった古手の代理人は、ほとんどが弁護士資格を持った法務のスペシャリストだった。

しかし、90年代半ばのボスマン裁定によって、クラブに対する選手の立場が強くなり、同時に移籍市場の活性化が進んだことで、代理人の仕事も少なからず変化する。条件のいい移籍先を探し、交渉をまとめる「仲介業」的な色彩が強くなってきたのだ。

それに伴って、幅広い人脈と情報網を持ち、移籍マーケットの動向をはじめとするプロサッカー界の事情に通じている元選手や元クラブスタッフ、あるいはその子弟が代理人の仕事に参入するケースが増えてきた。そしてそれから10年ほどで、代理人の勢力地図は大きく書き換えられることになった。

現在、セリエAでプレーする有力選手をサポートする大物代理人で、前者のカテゴリー(弁護士)に入るのは、ガットゥーゾ(ミラン)、トルド(インテル)、ドナデル(フィオレンティーナ)などを抱えるクラウディオ・パスクアリンくらい。彼と同様、80年代からこの仕事を続けているダリオ・カノーヴィ、アントニオ・カリエンドといった古株は、近年はだいぶ影が薄くなっている。

逆に勢力を大きく伸ばしたのが後者のカテゴリー、すなわちカルチョの世界で生きてきた元選手や関係者である。それを象徴するのが、「移籍マーケットの帝王」とか「カルチョ界の黒幕」とか呼ばれているユヴェントスのゼネラルディレクター、ルチアーノ・モッジの息子アレッサンドロが会長を務めるエージェント会社GEAだ。

傘下に複数の代理人を擁し、ネスタ、ヤンクロフスキ(ミラン)、ディ・ヴァイオ(モナコ)、オッド(ラツィオ)を筆頭に合計200人以上に上るプロ選手、そしてグイドリン(モナコ)、デル・ネーリ(パレルモを解任されたばかり)、デ・カーニオ(シエナ)といった監督を抱えるだけでなく、シエナ、メッシーナ、ラツィオをはじめ、セリエB、Cまで含めれば二桁に上るクラブに、実質的なコンサルタントとして影響力を与えている。

そのGEAと間接的につながりを持っているシルヴァーノ・マルティーナは、かつてジェノア、トリノなどで活躍したGKだった。元GKならではの眼力で、まだパルマのユースでプレーしていたブッフォン(現ユヴェントス)と契約を結んだのが「大当たり」。現在はマルティンス(インテル)、マキンワ(パレルモ)といったアフリカ人選手や、バローネ(パレルモ)を抱える有力代理人にのしあがった。

ここ数年、有力なタレントを数多く発掘して勢力を伸ばし、一躍注目を集めているのがミーノ・ライオーラ。イタリア人だが、オランダ生まれの移民二世(オリジンはナポリ)で、アムステルダムで両親が経営するピッツェリアに出入りしていたサッカー選手や関係者とのつながりから、この道に足を踏み入れたという変わり種だ。

スウェーデンのマルメでプレーしていた若きイブラヒモヴィッチを発掘し、アヤックスに売り込んだのは彼だった。ヨーロッパでも北欧や東欧といった周縁部に強く、チェコ代表のネドヴェド(ユヴェントス)やグリゲラ(アヤックス)もクライアントだ。

もうひとつ強いのがブラジルで、こちらは地道に現地を回って地元のクラブとのネットワークを作り、10代のタレントを青田買いしてヨーロッパのクラブに売り込むという手法。マックスウェル(アヤックス→インテル)、マイコン(モナコ)、クリス(リヨン)、マンシーニ(ローマ)、フェリーペ(ウディネーゼ)などは、いずれもライオーラが発掘してヨーロッパに連れてきた選手だ。

このように、国際的なネットワークを誇る代理人がいると思えば、特定の国の選手だけに特化してビジネスを展開する代理人もいる。

その代表格が、ウルグアイ人選手を事実上独占しているパコ・カサル。レコーバ(インテル)、ザラジェータ、オリヴェラ(ユヴェントス)といった代表クラスをすべて傘下に収め、有望なトッププレーヤーに無名の若手をつけるという「抱き合わせ販売」をしばしばクラブに要求することでも知られている。

かつてインテルは、レコーバを手に入れるためにもうひとり、パチェコ(現アラヴェス)という明らかに力不足のストライカーを無理やり押しつけられた。また、かつてはハジ、現在はキヴ(ローマ)、ムトゥ(ユヴェントス)など、ルーマニア代表のほとんどは、同国人であるジョヴァンニ・ベカリという代理人が押さえている。

代理人の仕事は、いかに他人より早く将来性のあるタレントを発掘し、傘下に収めるかが勝負。才能(技術だけでなくプロとしての適性も含む)を見抜く眼力はもちろん不可欠だが、それに加えて、労を厭わず地道に足で稼ぐ行動力、選手やクラブを惹きつけ信頼を勝ち取る社交術や交渉力、さらには人脈や資金力など、様々な資質がなければ成功は難しい。

現在、イタリアサッカー協会に登録されている代理人の数は500人を越えているが、セリエAのトッププレーヤーは、そのうち10数人の代理人がほとんど独占しているという事実がすべてを物語る。当たれば儲かる商売であることは確かだが、そう簡単には当たらない。これはこの仕事に限った話ではないが……。■
 
(2006年2月8日/初出:『El Golazo』連載コラム「カルチョおもてうら」#58)

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

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