イタリアには全国版のスポーツ新聞が3紙あって鎬を削っているわけですが、その状況をざっくり解説した原稿です。これを書いてから3年経ちましたが、その間に『ガゼッタ』の編集長は2回替わり、販売部数は5〜6万部落ちました。

商業主義志向と、ビッグクラブ(というかサポーター=潜在顧客の多いクラブ)重視の編集方針に変化はありません。他の2紙は編集長も編集方針も変わらず。合計の販売部数では『ガゼッタ』を上回るようになりました。

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イタリアには、本紙と同じピンク色でおなじみ(というかあちらが本家本元)、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』をはじめ、『コリエーレ・デッロ・スポルト』、『トゥットスポルト』という、3つのスポーツ専門日刊紙がある。

いずれも、毎日の紙面(24-40ページ)の大部分はカルチョの話題で占められており、それ以外のスポーツ(モータースポーツ、バスケット、バレー、自転車など)に割かれるのは数ページに過ぎない。

最も有名で販売部数が多いのは、ミラノに本社を置く『ガゼッタ』。1896年創刊、イタリアのスポーツジャーナリズムを長年リードしてきた老舗である。発行元は、イタリア最大の日刊紙『コリエーレ・デッラ・セーラ』などと同じ大手出版グループRCS。その大株主には、フィアットをはじめイタリア経済界の大物が名を連ねている。

伝統的に、中庸かつ保守的な編集方針で知られてきたが、2002年、それまで19年に渡って『ガゼッタ』の顔だった名物編集長が退き、ローマの日刊紙『イル・メッサッジェーロ』などで編集長を務めた“外様”のピエトロ・カラブレーゼ(スポーツに関する造詣や見識はほとんどない)がその後を継いでからは、体制寄り、かつ読者に迎合する傾向が強まり、紙面のクオリティは低下傾向にある。

北イタリアの中心都市ミラノが拠点ということもあり、毎日カルチョに費やされる正味15ページ前後のうち、大半が「ビッグ3」(ユヴェントス、ミラン、インテル)絡みの話題で占められる。

しかも、現編集長になってからは、マスコミへの締めつけが厳しいことで知られるユーヴェとミランに関して、批判的な論調がほとんど見られなくなった(ちなみに、締めつけの緩いインテルは“叩かれ役”である)。カルチョの世界では「『ガゼッタ』は今やモッジ(ユヴェントスGM)とガッリアーニ(ミラン副会長)の広報紙になった」という声がしばしば聞かれるほどだ。

実は先週末、カラブレーゼ編集長が11月一杯で退任することが明らかになったのだが、17日水曜日現在、まだ次期編集長が未定のままという異常事態になっている。今後の編集方針がどう変化するのかは、新編集長の人事次第。動向が注目されるところだ。

ライバルの『コリエーレ・デッロ・スポルト』は、首都ローマが本社。正式名称は『コリエーレ・デッロ・スポルト/スタディオ』というのだが、これは1977年に、ボローニャに本社があった第4のスポーツ紙『スタディオ』を吸収合併したため。

赤い題字でおなじみの全国版は、北のビッグ3と同じかそれ以上のスペースをローマ、ラツィオに割いているのが特徴だ。ナポリ(現在はセリエC1)をはじめ、南イタリアのクラブの扱いも大きい。

一方、ボローニャを中心にした北イタリアでは、かつての『スタディオ』のシンボルカラーである緑を題字を使った別バージョンも発行されている。紙面のほとんどは共通だが、こちらはローマ、ラツィオの扱いを減らし、ボローニャ、フィオレンティーナ、パルマ、エンポリといったクラブにその分のページを割いている。

平均販売部数(2003年)は『ガゼッタ』の42万部に対し、赤版と緑版を合わせて28万部。“永遠の二番手”というマーケット上の位置づけゆえ、『ガゼッタ』とは逆に、敵味方をはっきりさせた強い論調が目立つなど、攻撃的で論争好きな編集方針が伝統だ。とはいえ、昨年夏に生え抜きの編集長アレッサンドロ・ヴォカレッリが就任してからは、やや穏健なバランス志向の路線に変わっている。

ユーヴェのお膝元トリノに本社を置く三番手の『トゥットスポルト』は、販売部数13万部と、二強からは大きく引き離されている。それもあって、地元のユーヴェとトリノに大きなスペースを割くという特化した路線を敷いており、全国的には“ユヴェンティーノ御用達”の新聞として知られている。

地元の2チーム以外では、潜在読者の多いミラン、インテル、そしてユヴェンティーノが多い南イタリアのマーケットを意識した紙面づくりが特徴だ。

業界以外ではあまり知られていないことだが、実をいうとこの『トゥットスポルト』と『コリエーレ・デッロ・スポルト』は、ロベルト・アモデイという同じオーナーの経営(会社は別)である。

実際、よく見ると、この2紙は紙面の構成や編集方針をうまく差別化しており、ふたつ合わせて全国の読者をカバーする構造になっている。2紙合計の販売部数は約41万部で、『ガゼッタ』とどっこいどっこい。なかなかうまくできている。■

(2004年11月17日/初出:『El Golazo』連載コラム「カルチョおもてうら」#5)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。