というわけで、第2回。カテゴリーは徐々に増やしていきます。最終的には、タグで検索できるようにしたいと思っています。

さて、ミランのカルロ・アンチェロッティ監督は、『ワールドサッカーダイジェスト』誌の連載をはじめ、取材する機会が最も多い中のひとり。このインタビューは、今はなき『Sports YEAH!』誌のために行ったもの。

ミランの監督に就任して2年目の02-03シーズン、マンチェスターでチャンピオンズリーグを勝ち取る2ヶ月前という、なかなかいいタイミングでした。このシーズンに導入した「ピルロ・システム」は、その後現在まで6シーズンにわたって不変のまま使い続けられることになります。

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2003年3月22日、ミラノ。8ポイント差でセリエAの首位を走るユベントスをサン・シーロに迎えたミランは、シェフチェンコ、インザーギの2ゴールを守り切り、これに勝たない限りスクデットの可能性が消えるという絶体絶命の状況で迎えた直接対決を制した。これでユーベとのポイント差は5。残り8試合、厳しいとはいえ逆転の可能性はまだまだ残されている。

試合の4日後、ミラネッロでインタビューに答えてくれたカルロ・アンチェロッティ監督は、いつものポーカーフェイスで、しかし、この勝利によって取り戻したであろう強い確信を言葉の端々に漲らせながら、大詰めを迎えた02―03シーズンの終盤戦に向けた意欲を語ってくれた。

「チャンピオンズ・リーグは順調に勝ち進んだが、セリエAではここ1ヶ月、予想以上に苦しんだ。しかし、この勝利をきっかけに状況は大きく変わると信じている。ユーベとの戦いは、信じられないほど大きな刺激をもたらすからね。

ユーベほどの相手に勝つためには、チームが完璧な状態でなければならない。そして我々は勝った。実際、ポイントを落したいくつかの試合にしても、内容的に見れば決して悪いものではなかったんだ。つまらないミスでリードを許した後、ラツィオ戦でもアタランタ戦でも素晴らしい反発を見せて2点、3点のビハインドを跳ね返した。これはチームが健康な証拠だ。ここからの終盤戦は間違いなくいい戦いができる。

シーズンが始まってからここまで、ミランはすでに45試合を戦ってきた。残りは15試合。これからが、いままで撒いてきた種を刈り取る時期、シーズンで一番大事な時期だ。それに臨む準備はできていると思う。我々は、最後のスプリントに向けてかなりの好位置につけている」

リバウド、セードルフ、ネスタという大物を補強し、ソリッドな速攻型のチームから、テクニカルなボールポゼッション志向のチームに大胆な変身を図った今シーズンのミラン。イタリアのチームとは思えない華麗なパスワークで攻撃を組み立て、積極的に試合を支配して文句なしの勝利を重ねたシーズン前半の躍進は、セリエAはもちろんヨーロッパの舞台でも、大きな反響を巻き起した。

しかし、チャンピオンズ・リーグでは1次リーグ、2次リーグともにグループ首位で楽々と突破してベスト8進出を決めたものの、セリエAが後半戦に入ってからの戦いぶりは、明らかに精彩を欠いたものだった。1試合平均2得点を挙げていた攻撃力は影を潜め、ボールを支配し試合の主導権を握りながら、なかなかゴールにつながる決定機が作り出せない。その理由は、いったいどこにあったのだろうか?

「シーズンが進むにつれてこちらの戦い方が研究され、どのチームも対策を敷いてくるようになった。中盤でボールを奪いに来てもテクニックでかわされることがわかって、引いた位置に布陣し、人数をかけてゴール前の守りを固めるようになったんだ。そのため、攻撃の最終局面でスペースを見出すことが難しくなり、決定機がなかなか作り出せなくなった。

もちろん、我々にも問題はあった。ミランはグラウンダーのパスをつないで攻撃を組み立てるチームだから、ボールのないところでの動きが非常に重要になる。しかし、中盤のテクニカルな選手たちは、スペースに動くよりも足下にボールを求める傾向が強い。動きがないから、攻撃に必要なスペースを作り出すことができない。この点は練習の中で改善して行く余地がまだまだある。

もうひとつ指摘しなければならないのは、メンタルな要因だ。チャンピオンズ・リーグでグループを突破した後、1次リーグでも2次リーグでもそうだったが、精神的なテンションが明らかに下がり、それがセリエAの試合に反映してしまった。3日に1試合づつというペースの中で、常に最高レベルのモティベーションを保ち続けるというのは、本当に難しいことだ。

選手たちも人間だから、やはり気を抜いてしまうことはある。しかし、これからの1ヶ月は、すべてが決定的な試合ばかり。モティベーションが落ちたり気が緩んだりすることはあり得ない。だからメンタルに関してはまったく心配はしていない。あとは何人かの重要な選手が故障から復帰してくれば、体制としては万全だ」

それだけではない。外野からは、システムとメンバーを固定せずに戦うアンチェロッティの采配への批判もあった。4バック、3人のMF、そして3人のアタッカー(FWとトップ下)というチームの基本構成こそ変わらないものの、前線の3人の配置と顔ぶれは試合ごとにくるくると変わる。

イタリア共和国首相という要職にあって、クラブの経営には直接携らなくなって久しいシルヴィオ・ベルルスコーニ会長が、「ミランのように攻撃的でスペクタクルなサッカーを看板とするチームは、常に前線にふたりのフォワードを置くべきだ」と横槍を入れたこともあり、マスコミでは1トップか、2トップか、という論議がかまびすしかった。

しかしアンチェロッティは、「どちらか一方に決めろ、というのは、少々表層的に過ぎると思う」と、マスコミ好みの単純化された議論を一笑に付した。

「どのシステムを採用し、誰を起用するかは、選手のコンディション、試合の重要度、そして相手の戦い方など、様々な要因によって異ってくる。例えば、相手が4バックの場合には、前線で相手のCB2人と2対2の数的均衡を作り出すために、2トップを使うことが多い。相手が3バックの場合には1トップが有利だ。

1人のFWに対して3人のDFが対応することになれば、そこで3対1になる分、中盤でこちらが数的優位を保つことができるからね。もちろん、このセオリーを盲目的にあてはめるわけではなく、他の色々な要因を勘案して決めるわけだが。

いずれにしても、このチームには、複数のシステムを相手と状況に応じて使い分けることのできる、得難いキャパシティが備わっている。それを最大限に生かそうとするのが悪いことだとは思わない。

1トップにせよ、2トップにせよ、その背後にトレクァルティスタを置いて、中盤を2列で構成する場合(4-3-1-2あるいは4-3-2-1)は、中盤でのボールポゼッションを基盤にして攻撃を組立てて行くタイプのサッカーになる。自陣に引いて守りを固めてくる相手に速攻は使えないから、パスワークとテクニックで崩して行くことを考えざるを得ない。

逆に、中盤をフラットにすると(4-4-2、4-4-1-1)、チーム全体をコンパクトに保って、高い位置からのプレッシングでボールを奪い、一気にカウンターに転じることができる。攻撃力のある手強い相手に対しては、この戦い方を選んできた。サン・シーロでレアルを破った試合もそうだし、先週のユヴェントス戦もそうだった。

同じポジションに起用しても、選手が変わればサッカーの質も変わってくる。中盤の低い位置から攻撃を組立てるレジスタには、ピルロ、レドンドのどちらかを起用するわけだが、ピルロを起用するとロングパスの可能性が増え、レドンドの場合は短くつないで組み立てる傾向が強くなる。トップ下のルイ・コスタとリバウドも、プレースタイルが異っている。

リヴァウドはよりストライカー的で、自らシュートを打とうとする傾向が強いし、ルイ・コスタはアシストへの志向が強い。また、このところ故障で戦列を離れていたが、セルジーニョは、このチームで唯一、サイドをえぐってクロスを供給することができる、非常に貴重な存在だ。彼が戻ってきたことで、戦術的な選択の幅はさらに増えることになる。

これだけ選択肢に恵まれたチームを預っている以上、そのポテンシャルを最大限に引き出すことこそが、監督である私の役割だと思っている。全員を起用するわけにはいかないが、相手と状況によって、最もよく戦えるベストの11人を選び、ピッチに送り出すことはできる。でも、注意して見てもらえばわかると思うが、今はもう、シーズン前半戦のようなターンオーバーはほとんど行っていない。故障や出場停止を除くと、11人のうち8〜9人は固定して戦っているよ」

ここ1ヶ月ほどの試合を見る限り、その8〜9人の顔ぶれは次のようなものだ。GKはジダ。最終ラインは右からシミッチ、ネスタ、コスタクルタ、マルディーニ。ただし、カラーゼが故障から復帰すれば、コスタクルタはサブに戻るはずだ。

MFは、ガットゥーゾ、ピルロ、セードルフ。前線は、ルイ・コスタ、リバウド、インザーギ、シェフチェンコの中から3人。この中で最もプレー時間が短く、しかも最も重要なユーベ戦で出場機会が得られなかったのは、このところ精彩のないリバウドだが……。

セリエA(現在3位)、チャンピオンズ・リーグ(ベスト8)、そしてコッパ・イタリア(ベスト4)。すべてに優勝の可能性を残している3つのコンペティションのうち、現時点で最も厳しい状況に置かれているのがセリエAであることは間違いない。

「ここ4シーズンの結果が示している通り、カンピオナートは最後の最後までわからない。いつも終盤戦には、思っても見なかったことが起こる。だから、大事なのはチャンスが少しでも残っている限り、最後まで諦めずに戦うことだ。

現実的に考えて、残り8試合、24ポイントのうち、最低でも20ポイントは確保しないと勝機はないだろう。これでトータルは72ポイントになるが、それでも十分だという保証はない。今ユーベは57ポイントだから、あと16ポイント、つまり1試合平均2ポイントのペースで行くと73ポイントになる。厳しい戦いだね。

パルマ、インテルという強敵とぶつかるここからの2試合が勝負だ。特に、2ポイント上にいるインテルとのミラノ・ダービーは、決定的な意味を持つことになるだろう。お互いにどういうサッカーをするかはよく知っている。前線のアタッカー陣は一瞬のミスも許してくれないから、決して集中力を切らさずに抑え込まなければならない。いずれにしても接戦になるだろう」

チャンピオンズ・リーグ準々決勝の相手はアヤックス。アンチェロッティは、ユヴェントス戦に勝利を収めた翌日、アイントホーフェンでのPSV戦(0-2で敗戦)を“偵察”している。アヤックス戦について水を向けると、スクデット争いについて語る慎重な口調から一転して、自信にあふれる答えが返ってきた。

「若さと意欲に溢れたダイナミックなチームだが、そのコインの裏側として経験不足という側面も持っている。このレベルの試合になると、経験が左右する部分は決して小さくない。その点でミランはアドバンテージを持っていると思う。我々にとって大事なのは、注意深く相手をコントロールして、そのポテンシャルを発揮させないようにすることだ。

若いけれど個人能力が高い選手が多いから、自由にさせると非常に危険だ。いずれにしても、向こうも積極的に自分たちのサッカーをしようと戦いを挑んでくることは間違いないから、オープンでスペクタクルな試合になるだろう。ミランの良さを発揮できると思う」■

(2003年3月27日/初出:『Sports YEAH!』)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。