名監督の多くはセントラルMF出身、という表題通りの話です。これは4年ほど前に書いたテキストですが、もちろん今もこの傾向に変化はありません。

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まだ開幕から3ヶ月しか経っていないというのに、セリエAのスクデット争いは完全にユベントスとミランの一騎討ちになってしまった。明日土曜日は、その二強が今シーズン初めてぶつかり合う直接対決。クリスマス休みを前にした2004年最終節にふさわしい一戦である。

この両チームを率いるふたりの監督、ファビオ・カペッロとカルロ・アンチェロッティはともに現役時代、頭脳派のセントラルMFとしてならし、ビッグクラブとイタリア代表で「ピッチ上の監督」と呼ばれるほど重要な役割を担った名選手だったという共通項を持っている。

カペッロは70年代半ばのユヴェントスを支えた技巧派のレジスタだった。アンチェロッティは、82-83シーズンにスクデットを勝ち取ったローマの中盤を担い、その後「サッキのミラン」の頭脳として熟練のプレーを見せた。「名選手必ずしも名監督ならず」という格言はここイタリアにもあるが、彼らに関してはまったく当てはまらない。

このふたりに限らず、イタリアには現役時代にMFだった監督が多い。今シーズン、セリエAのチームを率いている監督計25人(解任も含む)のうち、全体の48%にあたる12人がMF出身である。続いてFW出身が6人(24%)、DF、GKが2人ずつ(各8%)、そしてプロ経験なしが3人(12%)となっている。

中でもとりわけ多いのがセントラルMF出身の監督だ。カペッロ、アンチェロッティ以外にも、スパレッティ(ウディネーゼ)、プランデッリ(前ローマ)、デル・ネーリ(現ローマ)、グイドリン(パレルモ)、コロンバ(リボルノ)、デ・ビアージ(ブレシア)、マンドルリーニ(前アタランタ)、ロッシ(現アタランタ)と、10人にも上っている。

以前アンチェロッティに、その理由について訊ねたことがある。返ってきたのは「当然だよ。FWは技術を、DFは肉体を、MFは頭脳を使うポジションだからな」という端的なひとことだった。

ピッチの中央に位置し、攻守の両局面で常にゲームの流れの中に身を置き、最も多くのボールに触れるのはセントラルMFである。試合を局面からではなく全体として俯瞰的に見る戦術的な視点、つまり監督の視点も、必然的に身につくということか。

彼らセントラルMF出身の監督の大部分が、攻守のバランスを非常に重視したオーソドックスで手堅いサッカーを見せるのも、おそらく偶然ではないのだろう。攻撃的な選手を数多くピッチに送っているアンチェロッティのミランにしても、リスクを冒してまで攻撃に人数をかけることはほとんどしない。

3年前、オフサイドトラップを多用しサイドを深くえぐる攻撃的な4-4-2でキエーヴォ旋風を巻き起したデル・ネーリも、その後の2シーズンは失点の少ないロングパス主体の堅実なサッカーに終始した。

しかし、それでは逆にFW出身の監督が攻撃的なサッカーをするかというと、決してそうとも言えないところが面白い。現役時代は戦術などお構いなしの奔放なドリブラーだったといわれるノヴェッリーノ(サンプドリア)は、マニアックなまでに守備に気を使う監督になった。休み明けの火曜日から、週末の相手を想定した守備のシチュエーション練習に1時間以上を費やすほどだ。

シモーニ(シエナ)、ムッティ(メッシーナ)も根っからのディフェンス主義者。例外は「物心ついてこの方、ずっとアタッカーとしてプレーしてきた。DFが失点しないことを考えてプレーするのは当然だが、アタッカーにそういう発想はない。そして私は選手時代から、守ることだけを考えて戦うチームは嫌いだった」と言い切るマンチーニ(インテル)くらいだ。

そのマンチーニと並んで、いまセリエAで最も攻撃的なサッカーを展開しているゼーマン(レッチェ)は、プロ選手の経験を持たない根っからの理論家である。ここ10数年の歴史を見ても、「良い騎手になるために、かつて名馬であった必要はない」という名言(!?)で知られるサッキに始まり、ゼーマン、ザッケローニ、マレサーニ、そしてバルディーニ(今週パルマを解任)まで、攻撃的な戦術を売り物にする監督にプロ未経験者が多いことは、注目に値する。

彼らに、サッカーというゲームを純粋に探求する理想主義者の傾向を見てとることはたやすい。逆に、プロ選手として常に結果を要求される厳しい環境に身を置き、そこで起こるあらゆる出来事を経験してくると、監督になっても否応なく現実主義者的なメンタリティを持ち続けざる得ないということなのかもしれない。■

(2004年12月15日/初出:『El Golazo』連載コラム「カルチョおもてうら」)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。