2014年10月21日 W杯・EURO/代表関連

WC2006 準々決勝 イタリア3-0ウクライナ(2006.06)

「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その10。ワールドカップ編も第5弾まで来ました。これを含めてあと3回で一段落です。今回は、格下ウクライナを楽々下した準々決勝。こうしてみると、準決勝まで強敵と当たることなくこぎつけたわけで、ワールドカップで勝つためには運も大事だということがよくわかります。

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1)プレビュー:「勝って当然」の試合

10人で戦いながら、終了間際のPKで何とかオーストラリアをはねのけたイタリアと、スイスと我慢比べのような接戦を演じた末に、PK戦で勝ち上がってきたウクライナ。R16での戦いが楽なものではなかったという点は同じだが、この準々決勝がそれぞれの国にとってどんな意味を持つかということになると、比較にならないほどの違いがある。

ウクライナにとっては、ベスト8に勝ち残ったこと自体が奇跡のようなもの。ヨーロッパでは常に強国のひとつだった旧ソ連以来の伝統を誇るとはいえ、独立後はこれが初めてのワールドカップである。優勝を狙う強豪イタリア相手の準々決勝には、結果に対する一切のプレッシャーがない、純粋なチャレンジャーとして臨むことができる。

一方のイタリアにとっては、これは明らかに「勝って当然」の試合。12年ぶりのベスト4、あわよくばファイナリストという見通しが、すでに眼前に広がっている。だが、オーストラリア戦のプレビューでも触れた通り、このチームには、地力で劣る相手に劣勢に立たされると冷静さを失い、本来の力を発揮できなくなる傾向がある。格下ウクライナが相手だからといって、簡単な試合にはならないだろう。

ただ、ウクライナはタイプとして、イタリアが苦手にする系統のチームではないことも事実である。嫌なのは、前線から積極的にプレッシャーをかけてくるフィジカルな相手だ。ウクライナのように、引いて守ってカウンターを狙ってくる相手のあしらい方は、DNAにしっかり刻み込まれている。しかも、そのカウンターを担うべきシェフチェンコは、故障明けでまだ本調子とはいえない状態だ。

トッティがやっと復調の兆しを見せ始めたことも含め、地力で優るイタリア優位は動かない。試合はほぼ間違いなく、アズーリが主導権を握って攻め込み、ウクライナは受けに回る展開になるだろう。

ウクライナに勝機があるとすれば、前半を0-0で凌いで、後半に勝負を持ち込んだ時か。焦り始めたイタリアが、攻撃に人数をかけて前がかりになったところを逆襲し、1-0のジャイアントキリングを決める、というのが、最も美しいシナリオだろう。その確率は非常に低いと言わざるを得ないが。□

2)試合:イタリア3-0ウクライナ <2006年6月30日、ハンブルク>

イタリア(4-4-1-1)
GK:ブッフォン
DF:ザンブロッタ、カンナヴァーロ、バルザーリ、グロッソ
MF:カモラネージ(68′ オッド)、ガットゥーゾ(77′ ザッカルド)、ピルロ(68′ バローネ)、ペロッタ
OMF:トッティ
FW:トーニ

得点:6′ ザンブロッタ(イタリア)、59′ トーニ(イタリア)、69’トーニ(イタリア)

3)レビュー:墓穴を掘ったブロヒン

ウクライナのブロヒン監督は、イタリアの2トップ(トーニ、トッティ)をマンツーマンでマークし、その背後にルソルをリベロとして余らせるという、自身の現役時代のように古くさい戦術でイタリアの攻撃を凌ごうと目論んだ。ところが皮肉なことに、まさにこのマンツーマンの守備戦術が、ウクライナを窮地に陥れることになる。

前半6分にイタリアが先制した場面、中盤でトッティとワンツーを交わした後ドリブルで持ち上がり、そのままミドルシュートを叩き込んだのは、左SBのザンブロッタだった。敵陣のど真ん中を20mも誰にも邪魔されず攻め上がることができたのは、前線から引いてきたトッティ、ライン際に流れたカモラネージに、それぞれのマーカーが引っ張られて、ゴール前に広大な「空白地帯」が生まれたおかげ。ゾーンで守っていればできるはずのない穴だった。

タイトなマンマークでイタリアの攻撃を封じ、カウンターに望みを託して1-0の勝利を狙おうというブロヒン監督の目論見は、たったの6分間で脆くも崩れてしまう。早くも前半20分、DFスヴィデルスキを下げて、攻撃的MFヴォロベイを右サイドに投入し、流れを変えようと試みたが、守り倒そうという気持ちで試合に入ったチームが、気持ちを切り替えるのは簡単ではない。サイドを使ってシンプルに素早く攻めるという本来の戦い方を取り戻すためには、ハーフタイムというブレイクが必要だった。

後半開始からの10分あまりは、ウクライナが積極的な攻勢で何度かイタリアゴールを脅かした。結果的には、イタリアの逆襲に遭って後半14分に決定的な2点目を喫してしまうのだが、最初からこういう戦い方をしていれば、もう少しいい勝負ができたかもしれなかった。

ワールドカップも、一発勝負の決勝トーナメントに入ってくると、チームを率いる指揮官は、何よりもまず敗北への不安や恐怖と戦わなければならない。ハイリスク・ハイリターンの戦い方を貫くよりも、リスクを抑える手堅い方向に采配が向かうのは、ある意味で仕方がないことだ。

しかし、この試合のブロヒン監督のように、あるいは1-0の残り30分でリケルメを下げ、同点にされた後の攻め手を失ったアルゼンチンのペケルマン監督のように、弱気な采配が命取りになることもある。では、勇気を持って積極的に戦い抜けばそれでいいのかといえば、オフサイドトラップの失敗ひとつでリードをふいにし、結局フランスに敗れてしまったスペイン(内容的には今大会で一番いいサッカーを見せていた)のような例もあるから難しい。

イタリアのリッピ監督も、「どんな相手に対しても3人のアタッカーをピッチに送る」という宣言はどこに行ったのか、この試合でピッチに送った布陣は、トーニを1トップに据えた[4-4-1-1]だった。やはりアズーリが最後に頼るのは攻撃力ではなく、DNAに刻み込まれた守備力のようである。□

(2006年6月28-30日/初出:『El Golazo』)

4)コラム:次のドイツ戦が正念場

優勝を狙う強豪国の中で、決勝トーナメントの組み合わせに最も恵まれたイタリア。R16ではオーストラリア相手に、後半を10人で戦うことを強いられた末、最後の最後で「棚ボタ」のPKをもらって辛勝と、危ない橋を渡ったが、準々決勝のウクライナ戦は、3-0と文句なしの完勝だった。

グループリーグから通算5試合で、8得点・1失点。その1失点も、アメリカ戦でザッカルドが決めた冗談のようなオウンゴールであり、まだ相手には1ゴールも許していない。
 
リッピ監督はかねてから「どんな相手に対しても3人のアタッカーをピッチに送り、常に自分たちが主導権を握って戦うことを目指す」と宣言して、攻撃サッカー路線を打ち出してきたが、蓋を開けて見れば、イタリアの前進の原動力となっているのはやはり、攻撃力ではなく、堅固きわまりない守備力の方である。
 
事実、この5試合の歩みを振り返ってみると、イタリアの布陣と戦い方は、多少のリスクがあっても攻撃を優先するそれから、攻守のバランスを重視したリスクの少ないそれへと、徐々に修正が施されてきていることがわかる。

最初の2戦は2トップの下にトッティを置いた4-3-1-2だった。ガーナ戦では2-0と幸先のいいスタートを切ったが、不用意にカウンターを浴びる危険な場面が思ったよりも多かった。続くアメリカ戦は、前線からの激しいプレスに一方的に押し込まれ、両軍合わせて退場者3人という乱戦を招いた末に引き分け止まり。

2トップ+トップ下というこのシステムは、攻撃に人数をかけられるという長所がある反面、陣形が縦に間延びしやすく、ボールを奪われた時にカウンターを浴びやすい、またトップ下が守備参加をサボると、中盤が数的不利に陥って相手に押し込まれやすい、という欠点も持っている。

トップ下のトッティが故障明けで運動量に欠けるおかげで、長所よりも欠点が強調されたこの2試合を見て、リッピ監督は当初からの構想だった4-3-1-2を諦めざるを得なくなった。GL最後のチェコ戦は、1トップの下にトッティとカモラネージを並べた4-3-2-1にシステムを変更、マテラッツィのゴールで先制した後は、カモラネージを中盤に下げて4-4-1-1と言った方がいい布陣で手堅く戦った。
 
R16のオーストラリア戦では、何とトッティをスタメンから外し、前線をトーニとジラルディーノの2トップ、デル・ピエーロを左サイドハーフに据えた4-4-2(一般的には4-3-3という表記が多いが、デル・ピエーロは実質MFとしてプレーしていた)。そしてウクライナとの準々決勝は、トーニとトッティの2トップを縦に並べた[4-4-1-1]だった。
 
「どんな相手に対しても3人のアタッカーをピッチに送る」という宣言は、今となっては空証文に過ぎない。リッピ監督は、DF4人、MF3人、FW3人という布陣を前提にメンバーを招集したため、4-4-1-1という布陣を敷くと、FWがだぶつく一方でMFが駒不足になってしまうという問題もある。

だがアズーリはそれと引き換えに、4DFと4MFがコンパクトな2ラインを自陣に敷き、相手にほとんど攻撃のスペースを与えない堅固な守備、そして前線で守備の負担から解放され、持ち前のテクニックと創造性を存分に発揮して攻撃を演出するトッティという、攻守両面にわたる大きな武器を手に入れた。おそらくこれが、今大会におけるアズーリの最終形になるだろう。
 
現在のイタリアの戦い方は、決して「カテナッチョ」、つまり専守防衛の受動的なサッカーではない。しかし、無理をせずに攻守のバランスを保ち、辛抱強くチャンスを待つという意味で、イタリアサッカー伝統のメンタリティを色濃く反映した戦い方であることは確かだ。
 
我々はすぐに「攻撃的/守備的」という二分法でサッカーを語りがちだが、今のイタリアは、そのどちらでもない絶妙なバランスを見出し、チームとして成熟を果たしつつあるように見える。今大会出場国の中では、フランスと一番似たポジションかもしれない。

次の相手は開催国ドイツ。ホームの大観衆のバックアップを受けた、若くて勢いのあるチームに、成熟したアズーリがどう応えるかが見物である。□

(2006年6月30日/初出:『Yahoo! スポーツ・WC2006』)

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

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