2014年5月に刊行した、通算(たしか)9冊目の翻訳書。

9784309275079

カルロ・アンチェロッティ監督とは、2010年に『アンチェロッティの戦術ノート』を共著という形で出していますが、今回は彼がイタリアで元片腕のジョルジョ・チャスキーニとの共著という形で出した本の翻訳です。

今回は共著者ではなく翻訳者としての参画ですが、ぼくの中では『モウリーニョの流儀』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『監督ザッケローニの本質』、『チャンピオンズリーグの20年』に続く、「の」シリーズ第5弾という位置づけになっております。
以下、「訳者あとがき」から。

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本書は、2013年11月にイタリアのRizzoli社から出版されたカルロ・アンチェロッティ著『IL MIO ALBERO DI NATALE』(私のクリスマスツリー)の全訳である。

「クリスマスツリー」というのは、彼が最も愛着を持っている4-3-2-1システムの愛称。ピッチ上における選手の配置が、センターフォワードを頂点とする三角形となり、クリスマスツリーを連想させることからこう呼ばれている。ちょうど原書の発売時期がクリスマスシーズンと重なっていたことも、この書名が選ばれた理由のひとつかもしれない。

アンチェロッティにとっては、2010年に河出書房新社から出版された『アンチェロッティの戦術ノート』(筆者との共著)に続く、日本での2冊目の著書にあたる(母国イタリアでは2011年に、ジャーナリストのアレッサンドロ・アルチャートとの共著による自伝『Preferisco la Coppa』が出版されているが、こちらは今のところ未邦訳)。

前著は、『ワールドサッカーダイジェスト』誌での長期にわたった連載企画を元に、「戦術論」、「選手論」、「監督論」という3つの切り口から多角的に彼のサッカー哲学をまとめた「アンチェロッティの監督論・初級編」とでもいうべき1冊だった。本書の内容はその続編というにふさわしい充実したものだ。より専門的な領域にまで踏み込んで監督の仕事を掘り下げた、いわば「中級編」である。

とはいえ本書も、前著と同じようにサッカーを愛するすべての読者に興味深く読んでいただける内容になっていると思う。欧州プロサッカーのトップレベル、すなわち世界をリードする最先端の現場で何が起こっているのかを、当事者である監督の立場からここまで深くかつ具体的に描き出した本は、他にはまったく例がないからだ。

共著者のジョルジョ・チャスキーニは、アンチェロッティが監督として独り立ちした1995年以来、レッジャーナ、パルマ、ユヴェントス、ミランと、イタリアでの全キャリアを通して彼をアシスタントコーチとしてサポートしてきた古くからのパートナー。

アンチェロッティはその盟友と共に、20年近いコーチングキャリアをチーム単位で時系列的に振り返りながら、その間にサッカーの世界が、そして監督という仕事の内容がどのように変化してきたかを、豊富な図版とともにわかりやすく明らかにしてくれる。

システムや戦術はどのように構想されるのか。毎日のトレーニングはどのようなメソッドに基づき、どのように組み立てられるのか。テクノロジーの進歩はそこにどのような変化をもたらし、何を可能にしたのか。プライドの高い選手たちをグループとして統率して行くためには何が必要なのか――。

監督の仕事に関して我々が普段目にすることができるのは、試合という「アウトプット」、つまり仕事の成果物だけに過ぎない。しかし、その本質はむしろ、そこに至るまでに毎日チームを相手に積み重ねる膨大な「インプット」の方にあるのだということを、本書は教えてくれる。それを理解した上で改めて「アウトプット」に目を向けると、見えてくるものはまた違ってくる。

2014年3月 片野道郎

By admin

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。