リッカルド・ガローネ会長

2002年2月に、前オーナーのエンリコ・マントヴァーニからクラブの経営権を買い取ったガッローネ会長は、イタリア最大の独立系石油精製会社ERG(サンプ黄金時代には胸のスポンサーだった)のオーナー。ちなみにERGは、事業規模からいえばインテルのモラッティ家が経営するSARAS(サルデーニャ石油精製所)を上回る大企業である。

――今日の練習試合に集まった人々の盛り上りをごらんになってどんなお気持ちですか?

「この盛り上りが生まれたのはここ1年のことですよ。それまではサンプドリアはほとんど存在しないようなものでしたからね。私たちは、クラブを生き返らせ、強力なチームを作り上げて、セリエAへの復活を果たした。そしてここには本当に素晴らしいサポーターがいます。

今日試合を見に来た人々は、モエナやファッサ渓谷の近場からだけではなく、ドロミテ地方全域、さらにもっと遠くから集まっているようですよ。素晴らしいことです」

――たった1年ちょっとで、C1降格の危機から、セリエAで中位を狙うチームを作り上げるところまで来た。会長であるあなたにとっても大事業だったと思います。

「ええ。とりわけサッカーにはあまり縁がなく、この世界のことをあまり知らなかった私にとってね。ただ、私がやったのは、クラブ経営のビジョンを明確に打ち出し、マロッタGMのように優秀なマネジャー(経営幹部)を選ぶこと、そしてとりわけ、それぞれの役割、責任と権限をはっきりと規定することでした。そうすることで、ひとりひとりが自らの責任をより強く意識するようになるからです。

ですから私も……、自分の役割以外の領域に足を踏み込んだり口を出したりするつもりは一切ありません。これがサンプドリアの強みのひとつだと思っています。カルチョの世界は、私がこれまで実業家として生きてきた世界とはまったく異なっていますが、経営の大原則は同じですし、それによって結果を得られるのも同じです」

――カルチョの世界にビジネスにおけるマネジメントの考え方を持ち込んだのが成功の秘密、といっていいでしょうか?

「ええ。ここにはとても有能なマネジャーがいます。しかしこのサンプには、以前よりもずっと厳格なマネジメントの規範があることも事実です。残念ながら以前のサンプドリアにはそれがほとんどなかった……。いずれにしても、この1年が素晴らしい経験、素晴らしいストーリーだったことは間違いありませんよ」

――どうもありがとうございました。

ヴァルテル・ノヴェッリーノ監督

――会長は今日の記者会見で、今年のサンプドリアは10位以内を目指せる戦力がある、と言っていました。監督はいつも、第一目標は残留だ、とおっしゃっていますが、その先まで行くためには何が鍵になると思われますか?

「イタリアには、明日のニワトリより今日の卵、ということわざがあります。私もとりあえずは卵を取るというわけです。その先はその時に考えますよ。会見でも言ったことですが、1週間前からキャンプに入って、今は順調にトレーニングを重ねているところです。

負荷の大きい練習をしているのでその影響もありましたが、今日の試合(アマチュアのボルツァーノ戦)でもみんなよく動いていたし、新加入の選手たちも非常によかった。正しい道を進んでいるという確かな感触を得ることができました。しかし、実際にどうなるかはシーズンが始まってみないとわからない。それはいつものことです」

――去年と比べるとレギュラー11人のうち6~7人が変わることになりそうですが、戦術的なプロジェクトに変化はあるのでしょうか?

「いや。戦術的にはまったく変化はありません。変わるのは人の方ですよ。今日非常に言い試合を見せたドーニのように、質の高い選手が加わりましたからね。彼だけでなくゼノーニ、ファルコーネ、ドナーティ、アントニーニ、新加入の選手はみんな良かった。

もうひとつ変わるのはスピリットです。今シーズンはセリエAですからね。選手たちを初めとして、もちろん私も含めて誰もがいい仕事をしたいという意欲に満ちている。有望な若手を多く揃えてくれたクラブには感謝しています。あとは私がどれだけ彼らをモティベートできるかですね」

――今日の試合でドーニには具体的な指示を与えたのでしょうか、それとも自由にやらせたのですか?

「ドーニは自由にプレーすることが許されています。しかし彼は非常に頭のいい人間なので、組織の中でどう動けばいいかも知っている。私が発掘したわけじゃない。代表にも選ばれた選手ですからね。今日もよかったですよ」

――柳沢のようにまったく違う環境から来た選手が、チームに馴染むまで時間を必要とするのは当然だと思います。レギュラー争いに加わるまでどのくらいの時間がかかると思われますか?

「今日の試合でも見せたように、彼は非常に興味深いプレーヤーですよ。興味深い、そして頭のいいプレーヤーです。我々イタリア人が外国に行った時には環境に馴染むまですごく苦労するものだけれど、彼は順調に新しい環境に馴染みつつあると思います。

それに私は、今日試合で見せたようなプレーができる若手に信頼を与え、ピッチに送ることには慣れています。この調子で続けてくれれば……。これからさらに難しいテストが待っていますから、そこでどうなるか見てみるつもりです」

――トレーニングの中では、もうひとりのFW、さらに他の選手とのコンビネーションの動きについて、柳沢にしはしば指示をされていましたが……。

「頭のいい選手だ、と私がいったのは、練習の中で指示したことをさっそく試合で見せてくれたからですよ。非常に、本当にすごく良かったと思います」

まだコミュニケーションの問題があるようですが、実際難しいですか?それともなんとか乗り越えられる?

「いや、乗り越えられますよ。ここは言葉ではなくジェスチャーでもコミュニケーションが取れる国ですからね。ヤナはチームメイトからも好かれるように振る舞っているから、チームにも溶け込むのも早いだろうと思いますよ。イタリア語も徐々に覚えているし」

――どうもありがとうございました。

チッチョ・ペドーネ選手

――あなたは多くのチームでいろいろなカテゴリーを経験しています。セリエBからAに上がった時に一番変わるのはどんなところでしょう?

「全体のテクニックのレベルがより高くなることですね。セリエBでは、ちょっと調子が悪くても勝てることはあるけれど、セリエAではレベルの低いプレーは許されない。

セリエAにはレベルが1ランク違うチームが5~6チームあります。レギュラー11人だけでなく控えのメンバーですら、どこででもレギュラーを張れるような選手ばかりですからね。この5~6チームは彼らだけでリーグ戦を戦うようなものです。毎年そうですよ。

そして残りのチームがある。だから常にベストのプレーを見せなければならない。最後には降格するようなチームも、力は十分に強いですし。セリエAはすごく難しいリーグだから、どのチームにとっても残留を勝ち取るというのは大仕事なんです」

――サンプドリアは、スクデットを狙ういくつかのチームを除いた中では、その次、7~9位くらいの上位を狙える位置にいると思うのですが、そこまでたどり着くためには何が必要だと思いますか?

「確かに、その次のゾーンは、すごく激しい戦いになると思います。サンプは昇格したばかりだし、今はそこが目標だとはいわないでおいた方がいいでしょうね。もちろん、心の中でみんながそれを望むのは当然のことだと思います。

今年はいいチームができ上がったと思うし、みんなやる気に満ちている。ホームのサポーターも素晴らしい。できる限り上にいけるようにベストをつくして頑張るつもりです。結果としてその順位までたどりつけるかどうか、その答えはいつものようにピッチが出してくれるでしょう。

でもまあ、まだシーズンも始まっていないわけですから、あまり大きなことはいわないでおきましょう。さっきもいったように、セリエAは本当に難しいリーグですからね」

――あなたの個人的な目標は?

「この3シーズンはセリエBでプレーしていたので、4年ぶりのセリエAなんですが、まずはこのサンプドリアの一員としていい仕事をすることが目標です。このクラブにはかつての姿を取り戻したいという強い意欲があるし、少しずつそこに近づいて行くことに貢献できればと思います。

その第一歩は、セリエBで偉大なシーズンを戦い、昇格を果たしたことで記したわけですが、ここからさらに前に進んで、いつの日かサンプドリアがイタリア、そしてヨーロッパで最も重要なクラブのひとつになることを祈りたいですね。そのために一歩ずつ進んで行きたいと思っています」

――柳沢についてはもういろいろ質問を受けたと思いますが、彼から受けた一番強い印象は何ですか?ピッチの上で、あるいは日常の中で。

「ピッチの上で一番印象が強かったのは、スペースに走り込む動きが非常にいいことです。ボールのないところでスペースに走り込む動きは、イタリアでは非常に重要ですからね。優秀なディフェンダーが揃っていますが、彼のスピードや敏捷性があれば彼らを困難に陥れることもできる。

ただ、ゴールを背にしている時のプレーにはまだ改善の余地があると思います。あそこでボールを失うのは絶対にまずいですからね。でもスペースに走り込んだ時には決定的なプレーができると思う。

ピッチの外では、われわれの中に積極的に入り込もう、馴染もうという姿勢にとても好感を持っています。アクティブで明るくて、冗談やいたずらにも乗ってくるし。そういう、われわれと少しでも一緒に時間を過ごしたいという意欲はすごく大事だと思います。それだけ早くイタリア語も学べるでしょうからね」

――今日はたくさんのサポーターがジェノヴァからここまでやって来ていましたが、この盛り上りを見ていかがですか?

「素晴らしいことですよね。ぼくがサンプドリアに移籍してきた去年も、大きな盛り上りがありましたが、今年はそれがまた倍になった感じです。たくさんの人たちが車やバスで長い時間をかけてこんな山の中まで来てくれたのを見るのは、とても嬉しいことです。

これは、われわれが彼らに何かをもたらすことができたということでしょうから。昨シーズンの戦いを通じて、その前の何年か辛い思いをしていたサンプドリアのサポーターたちを呼び戻すことができました。

これからも、彼らに夢を与え、喜びを分ち合って行きたいですね。彼らは、われわれがピッチの上ですべてを出し切っていることをわかってくれています。そうやって戦うことで、サポーターもよりチームに近づき、より強くサポートしてくれるものなんです。

ホームで戦う時の彼らのサポートは素晴らしいですからね。困難に陥った時にも、彼らの声援やコールに支えられて、試合を引っ繰り返したことが何度かあったくらいですよ」

――個人的には、セントラルMFとしてプレーしてみてどうですか?
※ペドーネは中盤ならどこでもこなす貴重なユーティリティ・プレーヤーだが、サンプではサイドでプレーしてきた。しかしこの日の試合では中央でドナーティとペアを組んでプレーした。

「いいですよ。監督の下ではずっとサイド、右と左でプレーしてきたけど、もともと戦術的には柔軟性のある方だから、真ん中でも問題なくプレーできますよ。

監督とはもう何年もやっているし、彼はぼくがどこでもプレーできること、いつでも準備OKの状態でスタンバイしていることを知っているから、まったく問題ありません」

――今シーズンはサンプのサッカーが少し変わりましたよね。今日もドーニがかなり頻繁に前線に上がっていたし。

「ええ。クリスティアーノはぼくとはプレースタイルが違いますからね。彼の方がずっとボールを持った時のテクニックがあって、FWにアシストを送るのを得意にしているから。

もう少し、監督の求めるサッカーに合わせる必要があることも確かですが、それは徐々に身につけて行くでしょうし、今も毎日の練習で、動き方やコンビネーションを高めている最中ですからね。

いずれにしても、彼が持てる力をチームのために提供してくれることは間違いないでしょう。サンプドリアにとってすごく重要なプレーヤーですから」

――実際、今日の試合でも彼の背後にスペースができていました。あれはまずいですよね。

「ええまあ。こういう練習試合は、前線と中盤、中盤とディフェンスの組織的な動きができているかどうかを確認する機会なわけだし。これはすごく重要なことです。セリエAでは、ちょっとでもミスをして隙を与えると、あっというまにやられてしまいますからね。

だから監督はいつも、試合の後には必ず全員で内容を分析する機会を作るんです。確かに守備の局面ももっと改善していく必要があるでしょうね。今日のような相手はほとんど攻めてこないからあまり問題はないけれど、これから毎日の練習の中で、小さな修正を繰り返して行くことになると思います」

――柳沢もバッザーニとドーニの間でやや戸惑っていたというか、どう動けばいいのか自信を持って判断できない場面が多かったように見えました。

「まだ最初だから、どう動けばいいのかを瞬時に判断するのが難しくても不思議じゃありません。お互いを理解することがまず必要ですからね。一緒にプレーしている相手とは、それこそ目を見ただけでなにをしたいのか、どう動くべきかわかるけれど、新しいチームメイトとは、寄ってほしいのか、それとも裏に走ってほしいのか、すぐにはわからないものですから。

だから、そういう動きをシンクロさせて行くために、これからたくさん練習を重ねて行かなければなりません。ピッチの上では、それこそ100分の1秒判断が遅れただけでもミスにつながってしまうものですから。敵のディフェンスを困難に陥れるために一番重要なのはスピードだし」

――時間が解決してくれる問題でしょうか?

「ええ。監督とは毎年そうですよ。彼は戦術的な部分をすごく重視してたくさん練習するし、常にチーム全体がバランスよく布陣していることを要求します。それは時間とともに良くなって行くものですからね。

大事なのはわれわれが監督の要求に応えて、それを実現するためにベストをつくすことです。監督のいう通りにやろうという姿勢を持つこと、自分の殻に閉じこもって監督の要求をはねつけたりしないことが重要なんです。戦術的な動きというのは、練習を積み重ねる中で、自然に身についてくるものですから」

――あなたは以前ヴェネツィアで名波のルームメイトでもあったわけですが、その経験と今回の経験を踏まえて、外国人選手がイタリアの環境に溶け込む上で一番重要なのはなんだと思いますか?

「ヤナと名波はだいぶ違います。名波は内向的な性格で、あまりわれわれとは……、いやグループの一員としては振る舞っていたんだけれど、いつもひとり離れていて、ロッカールームでもあまりわれわれと一緒に騒いだりすることはなかった。内向的な性格でしたからね。

でもヤナはもっと早く馴染めると思いますよ。彼を見ていると、イタリアに来て成功したい、結果を出したいという強い意欲をもっていることがわかります。

その意欲は、毎日の練習の中にもはっきりと表れています。そういうのはいつか必ず報われる、結果に表れると思いますよ。実際、いまの練習はすごくきついし、彼もかなり苦しんでいるのがわかるけど、一度も弱音は吐きませんからね。そのことひとつとっても、強い性格の持ち主だということはわかりますよ」

――長々とどうもありがとうございました。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。