2014年10月15日 監督・戦術

イタリア通信110:ゼーマンの憂鬱 (09.2000)

ナポリが2年ぶりにセリエAに戻ってきた。しかも監督は、攻撃一筋のスペクタクルな4-3-3ゾーンサッカーで知られるズデネク・ゼーマンだ。ナポリとゼーマン。「危険なアウトサイダー」同士ともいえるこの組み合わせに、心を躍らせているファンの方も少なくないだろう。

だが、ここまでのところ、ナポリの戦いぶりは、結果的にも内容的にも決して芳しいとは言えないものだ。プレシーズンの練習試合では格下相手に精彩を欠いたゲームを続け、初の公式戦となったコッパ・イタリアでも、Bのサンプドリアとの1回戦にアウェイ0-1、ホーム0-0で早くも敗退。180分戦って無得点という結果だけではなく、試合内容も決して納得のいくものではなかった。

極端にコンパクト(30m以内)な3ライン、高い位置からのプレッシングと積極的なオフサイドトラップ、短い距離のトライアングルを基本にダイレクトパスを多用してスピードある攻撃を組み立てる―といったゼーマンサッカーのメカニズムが、まだチームに十分に浸透していないのである。

ホームのサンパオロにユヴェントスを迎える開幕戦まであと10日。しかし、果たしてゼーマンは、それまでに、自らの目指すサッカーをチームに植え付けることができるのだろうか?

もしかすると、これは正しい設問ではないかもしれない。というのも、実のところ今シーズンのナポリに対する最大の疑問は、むしろ次のような問いに集約されるように見えるからだ。果たしてナポリには、ゼーマンのサッカーを実現するのにふさわしいメンバーが揃っているのだろうか?

ゼーマンは、選手を選ぶときに、ネームバリューのある評価の確立した選手よりも、無名でもモティベーションの高い若い選手を好む監督である。ラツィオでも、ローマでも、人気のためにビッグネームを欲しがるクラブと摩擦を起こしたほどだ。

今回、ナポリに対してゼーマンが獲得候補としてリストアップした選手の多くも、セリエB、Cの若手や、国際的には無名の外国人選手だったという。もちろん、移籍金も年俸も低い「お買い得」な選手ばかりだ。ところが、彼らのうちナポリが獲得に乗り出したのはほんの一握りに過ぎなかった。

また、リストには、「無名でもモティベーションの高い若い選手」のほかに、マンチーニ(バーリ・GK)、ペトルッツィ(ローマ・DF)、ディ・フランチェスコ(ローマ・MF)など、「ゼーマン・サッカーを理解している、チーム作りの核となり得るベテラン」も何人か含まれていた。しかし、こうした選手もひとりとして獲得されることはなかった。

一部の報道によれば、このオフにナポリが獲得した15人のうち、ゼーマンのリストに名前があったのは、セーサ(レッチェ)、キローガ(S.リスボン)、ヤンクロウスキー(バニク・オストラヴァ)の3人だけに過ぎなかったという。

一見すると「目玉」のようにも見える、アモルーゾ(ユヴェントス)、モリエーロ、フレージ(インテル)、ペッキア(トリノ)といった、それなりに「名前のある」選手たちは、ゼーマンが望んだわけではなかったということである。 
 
結果として、今シーズンのナポリは、レギュラー候補のうち8-9人が新加入、ゼーマンの下でプレーした経験を持つ選手は皆無、という、チームとしての核を欠いた状態からスタートすることになってしまった。これが「ゼーマンのサッカーを実現するのにふさわしいメンバー」と言えるのかどうかは、甚だ疑問である。少なくとも、ゼーマン自身が構想した顔ぶれとは少なからずズレていることは間違いない。

こうなると、「約束ごと」が多いゼーマン・サッカーのメカニズムがチームに浸透し正確に機能するようになるまで、それなりの時間を必要とすることは避けられない。開幕からの出足とシーズン終盤の追い込みが、ゼーマンが率いてきたチームに共通する特徴だが、今シーズンばかりはそうなるかどうかちょっとわからない。

ところで、「一見すると目玉に見える」4人(アモルーゾ、モリエーロ、フレージ、ペッキア)にセーサを加えた5人にはひとつの共通点がある。それは、全員が同じ代理人のクライアントだということ。

その代理人の名前は、アレッサンドロ・モッジという。現在はユヴェントスのゼネラル・ディレクターであり、マラドーナ時代(87-90年)にはナポリのスポーツ・ディレクターを務めていたルチャーノ・モッジ(イタリアの移籍マーケットを仕切る黒幕という噂しきり)の子息である。

そして、信じられないことに、このモッジjrは、今シーズンからナポリの移籍マーケット・コンサルタントも務めているのだ。代理人とクラブのコンサルタント、立場が矛盾するこの二つの役割をひとりの人物が同時に務め、自分のクライアントを大量に雇い入れる、というのは、どう見てもまっとうではない。

ナポリのフェルライノ会長とR.モッジとの間に、今も太いパイプがあることは疑いない。モッジ自身、あるインタビューで「フェルライノからナポリの会長のポストをオファーされたが、ユーヴェに残りたいので断った」と語っている。何のことはない、自分の替わりに息子を送り込んだようなものだ。

実は、彼が送り込んだのは息子だけではない。ナポリのスポーツ・ディレクター(チーム部門の総責任者)に就任したのは、かつてモッジの下でナポリ、トリノの事務責任者を務めた「片腕」のルイジ・パヴァレーゼである。こうなると、ナポリを事実上牛耳っているのはモッジだ、といわれても反証は乏しい。

こういうことが公然とまかり通ってしまうのが、カルチョの世界の不透明で胡散臭いところである。

About tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。

監督・戦術の最新記事

最新記事