日本の移籍制度に関する考察シリーズその4です。
今年もJリーグの全日程が終わり、契約更新の季節がやってきた。この時期になると、スポーツマスコミでは「戦力外通告」とか「解雇」とか、そういう言葉が頻繁に飛び交うことになる。
毎年、スポーツ新聞のサイトなどでこの種のニュースを目にするたびに、何とも言えない気持ちになる。「戦力外」となった選手が気の毒だというのはもちろんなのだが、それ以上に、Jリーグの契約を巡る諸手続きについて、どうも納得の行かない理不尽さを感じるからだ。
現在のJリーグの契約・登録・移籍に関するルール(*1)は、クラブに対して非常に有利な、ということは、選手にとって非常に不利な内容になっている。アンフェア、という言葉を使ってもいいくらいだ。
契約満了にあたって、クラブから契約更新の意思表示を受けた選手は、「専属交渉期間」という規程によって、12月末までの1ヶ月間、残留と契約更新を暗黙の前提とした交渉を強いられる。
しかも、この期間中にサインをしないと、契約更新を拒否したと見なされ、所属クラブとの交渉権を失うから、契約切れの時期に、所属クラブを含めた複数のオファーを比較検討して次のキャリアを決める、ということができない。
さらに、かの「30ヶ月ルール」があるため、契約満了を迎えても「自由の身」になれるわけではない。自由意思による移籍の可能性は、著しく制限されている。
問題は、そのように拘束力の強い関係で選手を縛りつけているにもかかわらず、クラブが契約更新をしないと決めれば、選手はシーズン終了直後に突然「戦力外」というレッテルを貼られて「解雇」され、路頭に放り出されるという点にある。
1996年のボスマン判決以降、契約満了=フリーという基本ルールが浸透しているヨーロッパでは、契約の残り期間が1年を切ると、クラブ側に契約更新の意志が薄いと見なされ、契約切れ6ヶ月前から、選手、代理人が他のクラブと接触することが許されている。
これは、所属クラブと契約を更新しない可能性のある選手には、その6ヶ月前から次の「仕事場」を自由に探す可能性を与えられているということだ。
それと比べると、選手の側に「転職(=移籍)の自由」どころか「転職の可能性を探る自由」すらほとんど認められてないにもかかわらず、クラブには「解雇の自由」が保証されているというJリーグの現状は、選手にとってアンフェアな雇用関係だと言うしかない。本来この2つの「自由」はセットになっていて然るべきだからだ。
「戦力外」になった選手にもトライアウトというチャンスがある、という反論もあるかもしれない。しかし、以前も書いたことだが、オフシーズンに、わずか1日、2日の機会で選手の採否を決めるという、一発勝負の入学試験的発想が、プロスポーツの世界で真面目に受け入れられていること自体、あり得ない話である。
実は日本サッカー協会は今年の6月、移籍に関する世界標準であるFIFAの「選手のステイタスと移籍に関する規程」との文言上の矛盾点を解消するために、JFA規約の移籍関連条項を改正している。
これによって、以前本誌でも取り上げた「FIFA規程第17条」(クラブまたは選手からの一方的な契約中途解除の可能性)の原則がJFA規約にも盛り込まれたほか、「30ヶ月ルール」「移籍金算定基準」という、FIFA規程に抵触するローカルルールが、規約の文言から削除された。
それでは、このオフからは日本の移籍市場にもついに「ポスト・ボスマン」時代がやって来るのか、と言えば、まったくそんなことはない。国内移籍に関するローカルルールを定めた「プロサッカー選手に関する契約・登録・移籍について」が、内部規程として手付かずで残っているからだ。
つまり、一般原則たるべきJFA規約からは削除されたが、Jリーグのローカルルールとしては100%生きているわけだ。
この一件で明らかになったのは、JFAとJリーグには、少なくとも国内移籍に関しては当面、「移籍の自由」というポスト・ボスマン時代の世界標準を受け入れる意志がないということである(もし違っていたらぜひご指摘いただきたい)。その理由をぜひ伺いたいと思っているのは、筆者だけではないはずだが。■
(2007年11月30日/初出:『footballista』連載コラム「カルチョおもてうら」