用語集が好評みたいなので少し続けましょう。今日のお題はカウンターアタック。イタリアではコントロピエーディcontropiediと言います。その理由はこちら。

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contropiediコントロピエーディ=カウンターアタック

英語のカウンターアタックをイタリア語に直訳するとコントラタッコcontrataccoとなるのだが、それでは直接的過ぎてつまらないと考えたのか、ひねり出されたのがコントロピエーディcontropiedi(英語に直訳するとカウンターフット!?)という言葉。イタリアサッカーの伝統が金科玉条とする攻撃の戦術ゆえ、それにふさわしい特別な名前が求められたのかもしれない。

カウンターというくらいだから、この技を繰り出す大前提は「相手に攻められている」ことである。自陣で相手の攻撃を受け止め、奪ったボールは素早く縦に展開、最短距離と最短の手数で一気に敵のゴールを陥れる。それが「点を取る」という目的を達成するためには最も効果的かつ効率のいい手段だと、イタリア人は考えてきた。

かの有名な「カテナッチョ」、すなわち数少ないカウンターのチャンスを生かして得た虎の子の1点を自陣深くに引きこもって守り倒す戦い方は、今やさすがに過去の遺物である。

しかし、ボールを奪ってからできる限り速く縦に展開し、相手の守備陣形が整う前にシュートまで持って行くのが最も効率が良く効果的な攻撃、という「ダイレクトプレー至上主義」の考え方は、今なおイタリア的なサッカー観の基本となっている。

例えば、最終ラインを極端なまでに押し上げたプレッシングサッカーで、80年代末の欧州サッカー界に革命を引き起こした「アリーゴ・サッキのミラン」にしても、奪ったボールはパス3本で一気にシュートまで持ち込むのが常だった。いわゆるショートカウンターである。現在(*2007年当時)のローマやインテルの戦い方も、その流れの延長線上にある。

サッキは、敵陣での激しいプレスでボールを奪って鋭く反撃に転じるという自らの戦術を、カテナッチョ式の伝統的なコントロピエーディと一緒くたにされるのを嫌って、リパルテンツァripartenza(英語に直訳するとリスタートだが、ここでは繰り返し攻撃をスタートさせるという意味)という言葉を発明して執拗に使い続け、遂には専門用語として定着させた。

したがって今は、コントロピエーディといえばカウンターアタック一般、リパルテンツァはプレッシングとセットになったショートカウンターを指して使われることが多い。□

(2007年8月23日/初出:『footballista』)

By Michio Katano

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。