4年前のドイツワールドカップ期間中に書いた原稿の棚卸しその3は、タイトル通り、どうしてアフリカ勢はワールドカップで躍進できないのか、という話です。

つい最近発売された『ワールドカップ「戦術」最前線』(洋泉社)というムックのために、すごく久しぶり(8年ぶりくらい)にアリーゴ・サッキ御大にインタビューしたのですが、御大も「もう40年前からずっと同じことが言われている。私が死ぬ頃になってもそれは変わらないだろう。これは文化的な問題だ」と同じようなことを申しておられました。

インタビューでは、もはや現代サッカーの古典となった御大のサッカー理論が炸裂しているので、ぜひご一読下さい。

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グループリーグが終了して出揃ったベスト16の顔ぶれは、ヨーロッパ10、南米3、中米、アフリカ、オセアニア各1。過去20年間(6大会)の結果を見ると、アジアから開催国2つが入った前回の日韓大会を除き、ヨーロッパ10、南米2~4、その他2~4という構図は常に同じ。変わる変わると言われて久しい世界のサッカー勢力地図だが、実際には大きな変化は何ひとつ起こっていないことがわかる。

ペレだったかが「2010年までにはワールドカップでアフリカ勢が優勝するだろう」と語ったのは、もう10年以上前のことだ。しかしアフリカ勢は、86年にモロッコが初めてベスト16進出を果たして以来今大会まで、勝ち残るのは毎回1ヶ国で、一度の例外もない。

サッカーの選手やチームを分析する時のフレームワークに、フィジカル(身体/運動能力)、テクニカル(技術)、タクティカル(戦術)、メンタル(精神)という4つの側面から切って行くやり方がある。

それをあてはめていえば、アフリカ勢の「将来性」が高く評価されたのは、何よりもまずそのフィジカルな資質の高さが理由だった。今大会でも、アフリカの選手たちのスピードや跳躍力、柔軟性、バランス感覚といった身体能力は、目を見張らせるものがあった。

テクニカルな側面でも、アフリカ勢のレベルは高い。タクティカルな側面についても、ほとんどの選手はヨーロッパのクラブでプレーしているし、監督も多くの場合ヨーロッパ人だけに、少なくともチーム戦術の面では、もはや顕著な差はないように見える。

ヨーロッパや南米と最も大きな差があるように見えるのは、最後のメンタル面だろう。アフリカのチームを見ていていつも気付くのが、強引でエゴイスティックなプレーやつまらないポカミスの多さ、そしてチームとしてのバラバラ感である。

勢いに乗ると強いが、試合をコントロールしてバランスを取ることが苦手。90分を通して集中力を維持できるか、困難な状況で落胆することなく忍耐力を保てるか、試合の流れや局面の重要性を集団として“感じ”、ひとつの共通理解の下で対処できるかといった、状況判断や駆け引き、ゲームマネジメントが未熟なのだ。

サッカーをめぐる年季の違い、といえばいいだろうか。トレーニングや学習で解決する問題というよりも、サッカーというゲームをどう咀嚼しどうプレーするか、哲学とか文化とか、そういうもっと大きなバックグラウンドにかかわる問題のような気がする。

アフリカ勢だけでなくアジア勢にも、別の意味で同じ議論が当てはまるかもしれない。もう少し掘り下げて考えてみたいテーマである。■

(2006年6月25日/初出:『El Golazo』)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。