イタリアもそろそろ寒くなって来て、本格的なカルチョの季節です。ユーロ高の折り、ヨーロッパ旅行の割高感が高まっているとはいえ、これから来年の春までの間に、現地観戦に訪れようという方もいるはず。

今年の1月、『ワールドサッカーダイジェスト』に別冊付録としてつけられた「ヨーロッパサッカー観戦ガイド」のイタリア編を書いたのですが、今回はその中から、今でも通用すると思われるティップスの部分だけを抜粋して公開します。北イタリア編だけですが、多少でもお役に立てば幸い。

元々の記事は、2007年3月2日イタリア着、12日発という具体的な日程に合わせ、インテル、ミラン、ユーヴェのサポーター向けに3パターンのスケジュールを組むという懇切丁寧な内容だったのですが、原稿を送った後にカターニア暴動事件が起こり、多くのスタジアムがクローズドになったため、スケジュールの大半が役立たずになるという残念な結果になったのでした。

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<ベースキャンプの設定>
北イタリアで複数の試合を観戦するなら、主な滞在地となるのはミラノだろう。ミラノのホテルをひとつ決めてそこをベースキャンプとし、それ以外の都市に移動するときは必要な荷物だけ持ち歩いて、大きなスーツケースはそのホテルに預けてしまうようにすれば、かなり身軽に動けるようになる。荷物の数が多ければ多いほどフットワークが悪くなり、スリや引ったくり、置き引きといった不幸な出来事に遭う確率も高まることは、一般論として頭に入れておくべきだろう。

ミラノでベースキャンプとするホテルは、移動に便利な中央駅(スタツィオーネ・チェントラーレStazione Centrale)付近が一番無難。駅の北西側は雰囲気があまり良くないので、できるなら避けて東側、南側を探した方がいいだろう。

ミラノから移動しないのであれば、中心部に宿を取ると市内が動きやすい。もうひとつの選択肢は、サン・シーロに近いロット広場Piazzale Lotto付近だが、ホテルの数はあまり多くない。いずれにしても、中心部から遠かったり、地下鉄の駅から遠いホテルは、移動が不便なので避けるべきだ。

<TIPSその1:旅の必需品>
何がなくともクレジットカードと携帯電話は必須。
クレジットカードは、たくさんの現金を持ち歩かなくていいというのが、安全上何よりも大きい。ホテルやレストランの支払いはもちろん、ネット経由でのホテル予約やチケット購入、そしてとりわけ鉄道のチケット購入時に自動販売機が使えて時間が大幅に節約できるというメリットがある。ミラノ中央駅の窓口に並んででチケットを買おうとすれば、最低でも15分待ち、時間帯によっては30分待ちを覚悟しなければならない。自販機ならば混雑時でも2人か3人待てばチケットが買える。

携帯電話は、同行者と別行動したときの連絡はもちろん、練習場などアクセスの悪い場所に行った時に、帰りのタクシーを呼ぶのに欠かせない。イタリア語が話せなくとも、近くの誰かに頼んで呼んでもらえばいいのだ。3Gの国際携帯電話を持っていなければ、レンタルすることになるが、ミラネッロやピネティーナに行くなどタクシーを呼ぶような状況が予想される場合には、最悪の場合路頭に迷わないためにも最後の手段として持っておくべきだろう。

<TIPSその2:ホテル予約>
ホテルは、航空券と一緒に旅行代理店で押さえてもらってもいいし、インターネット経由で自分で予約してもいい。ネット予約サイトは数多くあるが、ほとんどは予約時にクレジットカードから料金が引き落とされ、キャンセルが利かない仕組みになっている。その中で、以下に挙げる2つのサイトは、予約後も直前までキャンセルが可能(キャンセル期限は各ホテルのキャンセルポリシーによる。サイト上で予約時に確認できる)なのでお勧めだ。
BOOKING.COM :日本語あり
VENERE.COM :英語

<TIPSその3:空港からミラノ市内までの移動>
ミラノのマルペンサ空港から市内(中央駅)までの移動は、シャトルバスが一番無難。Marpensa Express(薄緑色の車体)とMarpensa Shuttle(白い車体)、2社が同じ乗り場で競合しているが、料金はExpressが6.5ユーロ、Shuttleが6ユーロ。ただしExpressには「3×2」といって、チケットを3枚買うと2人分の値段でOKという割引があるので、3人ならこちらを選んだ方が安くつく。所要時間は1時間弱だ。ちなみに、ミラノ市内までタクシーを使うと100ユーロくらいかかる。

乗り継ぎ便の場合は、マルペンサではなくリナーテ空港に着くケースもあるだろう。こちらはミラノ市内から20分ほどと近い。やはりミラノ中央駅までのシャトルバスがある。タクシーでも20ユーロ前後で収まるはずだ。

直行便にせよ乗り継ぎするにせよ、ミラノに着くのは、日本時間でいえば出発翌日の朝方になる。間違いなく疲れているので当日はさっさとホテルに入って休むのが吉。どうせ翌朝は時差ボケで早起きすることになるので、活動開始はそれからでも遅くない。

<TIPSその4:鉄道の切符購入>
ミラノから他の都市に移動するために必須の鉄道時刻表は、イタリア国鉄Trenitaliaのホームページから、日時を指定して検索できるので、これをフル活用しよう。英語のトップページに検索ウィンドウが出ているので、ここに出発駅と目的駅を入れて、プルダウンメニューで日時を指定すれば、利用可能な列車が表示される。

切符の購入は、窓口(いつも長蛇の列)に並ぶよりも主要駅にある自動販売機の利用が便利。タッチスクリーン式の大きな機械で、6カ国語で利用できる(日本語はないが、英語はある)。最初の選択画面で英国旗(ユニオンジャック)に触れれば、英語のメニューが出てくるので、後は画面の指示に従って進めばいい。プロセスがわかりにくく、慣れるまでやや手間がかかるので、最初に利用する時には発車時刻よりも30-40分余裕を見て駅に行き、使い方を覚えるのがいいかもしれない。ポイントは、目的地の駅名入力を間違えないことと、料金fareの選択画面(やたらに種類が出る)でStandardを選ぶこと。支払いは、クレジットカードならばPINコードなしでOKだ。
 
<TIPSその5:ミラノ市内からサン・シーロへの往復>
最も速いのは、地下鉄M1(赤)のロ・フィエーラRho Fiera行きでロットLottoまで行き、地上のロット広場Piazzale Lottoからシャトルバスでスタジアムまで行くやり方。M1の南行きは、ロ・フィエーラ行きとビシェリエBisceglie行きが交互に来るが、後者はLottoに行かないので要注意。地下鉄の改札を出て直進し、少し行ったところで右に曲がって地上に出ると、目の前にオレンジ色のバスが待っている。街の中央・ドゥオーモ広場からの所要時間はトータルで20分ほど。

もうひとつの行き方は、ドゥオーモ広場からすぐのコルドゥシオ広場(M1のコルドゥシオCordusio駅の真上)から、16番のトラムに乗って終点まで行くこと。1本で行けるので楽ちんなのだが、平日のナイトゲーム(チャンピオンズリーグ)だとラッシュと重なって道が渋滞するため、下手をすると1時間近くかかる可能性がある。試合開始数時間前に行くというのでなければ、行きはロットからシャトルバスというルートがお勧めだ。

ただし、サン・シーロからの帰りは、ロット広場までのシャトルバスがないため、ミラン側ゴール裏の外(シャトルバスで到着した場所とスタジアムをはさんで反対側)にたくさん止まって待っている16番のトラムを利用した方がいいだろう。夜は道が空いているので、コルドゥシオ広場まで30分もかからずに着く。
 
<TIPSその6:サン・シーロB級グルメ>
チャンピオンズリーグやダービーのように20:30キックオフのナイトゲームの場合、試合終了後、街の中心まで戻ると23時近くになってしまう。開いているレストランやピッツェリアを見つけるのが難しくなる。かといって、普通のレストランが店を開けるのは早くても19:30で、キックオフには間に合わない。

ゆっくり食事をするのは諦めて、ロット広場のマクドナルドで手早く済ませてしまうという手もあるのだが、それならばむしろお勧めは、スタジアムの周辺にたくさん出ているトレーラー式屋台でパニーノ(イタリア風サンドイッチ)を食べること。ほとんどの屋台では、鉄板でグリルしたサルシッチャSalsiccia(生ソーセージ)のパニーノを食べることができる。かなり脂身の多い(つまり安い)部位を使っているので、決して上品な味ではないが、その分ワイルドな味わいだ。

このサルシッチャのパニーノには、いろんなトッピングを加えることができる。一般的なのはペペロナータPeperonata、すなわち赤黄ピーマンの炒め物、それかチポッラCopolla(オニオン。これも炒めてある)。この2つは両方頼む人もいる。ドイツ風が好きな人のために、クラウトKraut(千切りキャベツの酢漬け)もあり、さらに、マヨネーズ、ケチャップ、マスタードなどをかけることもできる。

ミラノに限らず、この手の屋台ではどこでも、ハムやチーズやチキンカツなんかを挟んだ、出来合いのパニーノも売っているが、そういうのは街中のバールとかでいつでも食べられるので、わざわざスタジアムで食べなくともいいだろう。

<TIPSその7:ミラネッロへの行き方>
ミランの練習場ミラネッロは、ミラノの隣県ヴァレーゼ県コルナーゴという田舎にある。残念ながら練習は通常公開されておらず、敷地内に立ち入ることもできないが(練習ピッチは、敷地外の高台から眺めるくらいならば可能)、選手の顔を間近に見て運が良ければサインのひとつももらいたい、というのであれば、ミラネッロの入り口で「入り待ち」「出待ち」をするのもひとつの手だ。「入り」はギリギリで急いでいて素通りする選手も少なくないので、「出」を狙う方が確実だ。

ミラネッロまでは、ミラノ中央駅から地下鉄M2(緑色)で2駅目のポルタ・ガリバルディPorta Galibardiの地上駅からヴァレーゼVarese行きの列車でガッララーテGallarateまで行き(所要時間は35分ほど)、そこからタクシーを利用(片道20ユーロ前後)するのが、ほぼ唯一の手段だ。同じポルタ・ガリバルディの地下駅あるいは地下鉄M3(黄色)のレプブリカRepubblica駅から出ている近郊線S5(これもヴァレーゼ行き)もガッララーテに行くが、各駅停車なので所要時間が倍近くかかるのが難だ。

練習スケジュールは可変的だが、土曜、水曜に試合がある場合、試合翌日の日曜日と月曜日は午前11時から、試合前日の火曜日は午後3時からでそのまま合宿、というのが基本パターン。午前中が練習の場合、練習を終えた選手が帰るのは14時から15時くらいまでの間。ミラネッロの正門の前で待っていれば、多くの選手が車を止めて窓を開け、サインに応じてくれる。

帰りは、ミラネッロの門衛を大声で呼んで「ガッララーテまで行きたいのでタクシーを呼んでもらえますか? 」と英語でお願いしてみよう(日本語は通じない)。親切な人たちなので大丈夫のはず(100%保証はできないが)。最悪の場合は、無線タクシー<199.177.177あるいは0332.241.800>に電話して、イタリア語でタクシーを呼ぶ。「ウン・タクシー・ダ・ミラネッロ・ア・ガッララーテ・ペル・ファヴォーレUn taxi da Milanello a Gallarate per favore」と連呼すれば、きっと伝わるだろう。それをできる自信がない人は、行かない方が無難。

<TIPSその8:ピネティーナへの行き方>
インテルの練習場(通称ピネティーナ)があるのは、ミラノの北30kmほどにあるコモ県の小さな村アッピアーノ・ジェンティーレ。ピネティーナはミラネッロとは違い、練習ピッチに観客用の仮設スタンドが設置してあり、マンチーニ監督の方針もあって練習はほとんど常に公開されている。ただし、アクセスはミラネッロ同様に悪いのが難。練習時間は、オフィシャルサイトのsquadra(英語版ならsquad)のページ右上にあるAGENDA(英語版はTRAINING SCHEDULE)を参照のこと。

地下鉄M1(赤)とM2(緑)が交差するカドルナCadorna駅で下りて地上に上がると、そこが私鉄FNM(ミラノ北部鉄道Ferrovie Nord Milano)のカドルナ駅。ここからサロンノSaronno(Canzo-Asso行きを除くほとんどすべての列車が止まる)まで行き、そこからタクシー(約20ユーロ)というのが最も簡単な手段。「ラ・ピネティーナ。インテル」と行き先を言えば通じるはずだ。

帰りは改めてサロンノから無線タクシーを呼ばなければならない。電話番号は<02.962.80.113>。念のため、このページをプリントアウトし、ピネティーナの門衛に見せて「サロンノまで行きたいのでこのタクシーを呼んでもらえますか?」と言えば、呼んでくれるはずだ。

タクシー代を節約したいのであれば、コモ・ラーゴComo Lago行きの列車でロマッツォLomazzoまで行き、そこからバスという手もある。ただし、下りてから15〜20分歩くことになる。駅構内のバールでアッピアーノ・ジェンティーレまでの往復切符を購入、踏切を渡って64、66のバス停から、アッピアーノ行きのバスに乗る。運転手に「ヴァ・アッラ・ピネティーナVa alla Pinetina?インテルInter?」と確認し、終点で降りる。そこからは、「GOLF CLUB LA PINETINA」という看板を頼りに、15分ほど歩くと(後半は畑の中の田舎道。不安がらずに突き進もう)突き当たりが練習場だ。

見学用のスタンドには、門の外からフェンスの穴をくぐって入ることができる。正式な入り口がどこかは不明。入り待ちより出待ちの方が選手に余裕があるのは、どのチームでも同じである。

<TIPSその9:トリノのスタディオ・オリンピコ>
ミラノからトリノまでは、鉄道で2時間弱。
ユヴェントスは、昨シーズンから2年ないし3年間、ホームスタジアムであるスタディオ・デッレ・アルピ改装のため、市南部にあるスタディオ・オリンピコStadio Olimpicoでホームゲームを戦っている。

市内からトラムで30分以上かかる僻地にあったデッレ・アルピと違い、オリンピコは、ポルタ・スーザからなら10番、ポルタ・ヌオーヴァからなら4番のトラムでわずか10分と、アクセスは非常にいい。10番のトラムはスタジアムの真ん前に着くが、4番の方はやや離れたところに着くので要注意。フィラデルフィアFiladelfiaという停留所で降りて、進行方向右に向かって歩けば、すぐにスタジアムが見えてくる。

デッレ・アルピと違い、オリンピコは実質キャパが約2万人と少なく、ユーヴェの試合はほとんど満員となる。ダフ屋もあまり目にしないため、チケットは事前に押さえておくのが吉。クラブのオフィシャルサイトからリンクが張られているlisticketというサイトで事前にオンライン購入が可能だ(英語あり。ユーザー登録とクレジットカードが必要)。

オリンピコは市街地の中にあり、周辺にはピッツェリアなどもあるので、試合後にスタジアム周辺で食事をしてからホテルに戻ることも可能。帰りのトラムも深夜0時過ぎまである(ただし30分1本)。

<最後に>
ひとつお断りしておきたいのは、ここに書いてあることをすべて鵜呑みにはしないでいただきたいということ。イタリアは不確実性に満ちた国だ。鉄道やバスの遅れは日常茶飯事。突然ストが起こって交通がマヒしたり、バスの運行ルートが変更になったりすることも珍しくない。そうした突発的な状況には、臨機応変に対応する以外にはない。

そうでなくとも、鉄道、地下鉄には、発車のベルやアナウンスもないし、バスやトラムは停留所の名前さえはっきりしない。そういう中でなんとかやっていくためには、回りの人に声をかけて助けてもらうのが一番なのだが、その時には、この人は信頼できそうかどうかという見極めが必要になる。一般的にイタリア人は世話好きで親切だが、全員がそうとは限らない(これはどこに行っても同じことだ)。

ミラネッロやピネティーナなど、公共交通機関が当てにならない場所は、行くだけなら何とかなるが、帰りの足の確保にはそれなりのリスクがある。正直言って、自分の携帯電話でタクシーを呼ぶことができなければ、他人の親切に期待する以外にはないのが現実だ。最低限、タクシーを呼んでもらえるよう見も知らぬ門衛さんに英語で頼めるくらいのコミュニケーション能力は必要だ。

つまり、これはガイドではあるが、最後はあくまでも「自己責任」だということ。ここに書いてある通りにやってみて、それでうまく行かないことがあっても、筆者にできるのはお詫びすることだけである。□

(2007年1月30日/初出:『ワールドサッカーダイジェスト』別冊付録「ヨーロッパサッカー観戦ガイド」)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。