今季ミランに復帰して途中出場で存在感を見せつつあるマリオ・バロテッリ。気がついたらデビューしたのはもう7年近く前のことなんですね。その当時のテキストを。書き出しでわかる通りパトのデビューも同時期でした。ちなみに、もし今夏バロテッリの復帰が実現しなかったら、現在サンパウロでプレーしているパトが戻ってくる予定だったそうです。

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冬休み明けのセリエAは、デビュー戦からその才能を見せつけた18歳のブラジル人ストライカー、アレシャンドレ・パト(ミラン)の話題で持ち切りだった。ところがここに来て今度は、同じミラノのライバル、インテルがデビューさせた17歳の黒人ストライカーが、主役の座をさらった感がある。

その名は、マリオ・バロテッリ・バーヴア。189cm87kgという恵まれた体格に、黒人ならではの圧倒的なフィジカル能力(スピード、パワー)、そして高いテクニックを備えたトップクラスのタレントである。

一躍脚光を浴びるきっかけとなったのは、1月30日に行われたユヴェントスとのコッパ・イタリア準々決勝。スタメンに名を連ねたバロテッリは、先制ゴールと3-2の決勝ゴールの2発を叩き込み、ベスト4進出の立役者となったのだ。

しかも1点目は快速で知られるビリンデッリをぶっちぎっての独走、決勝点はエリア中央でDFを背負って受けた縦パスを、トラップ一発で反転して叩き込んだ美しいゴールだった。このユーヴェ戦の前にも、コッパ・イタリアでレッジーナに2得点を決めている。パトに続いてインテルにも恐るべきタレントが現れた、とマスコミが色めき立ったのも無理はない。

バロテッリは、1990年8月12日、シチリア島のパレルモでガーナ人の両親の下に生まれ、1歳半で北イタリア、ブレシア近郊の町に住むイタリア人の家族に養子として受け入れられた。バロテッリは養父母の、バーヴアは実の両親の姓である。肌の色は黒いが、生まれも育ちも完全なイタリア人。ブレシア訛りの完璧なイタリア語を話す。

ブレシア県にあるセリエC1のクラブ・ルメッザーネで育ち、15歳(!)でトップチームにデビュー。ヨーロッパ中のスカウトから注目を集め、バルセロナ、マンU、フィオレンティーナなどのオファーを受けたが、学業も含めて最も説得力のあるプロジェクトを提示したインテルを移籍先に選んだ。

イタリアは、帝国主義の時代にアフリカや南米に植民地を持たなかった(持てなかった)こと、近年まで移民の受け入れをあまり積極的に進めてこなかったことなどもあって、欧州のサッカー強国の中では、スペインと並んで比較的、単一民族度の高い国である。

それは代表チームにも端的に表れている。1998年のワールドカップ優勝時に「ブラック・ブラン・ブール」(黒人、白人、アラブ人)と呼ばれ代表チームが多民族統合のシンボルとされたフランスや、黒人選手が何の違和感もなくメンバーに交じっているイングランドと比較にならないのはもちろん、代表の主力に東欧やトルコ、アフリカからの移民二世、三世が増えてきたドイツと比べても、まだ純血度が高い。

だが、最近になってようやく、このバロテッリのような「外国系イタリア人」が増え始めている。ローマの育成部門で育ち、今季はセリエBのモデナでプレーしているステーファノ・オカカ、トリノ育ちで今季はやはりBのクロトーネでプレーしているオグボンナは、両親ともにアフリカ人。この冬の移籍マーケットでブレシアからナポリに移籍したU-21代表ファビアーノ・サンタクローチェ、ローマのDFマッテオ・フェラーリ、フィオレンティーナのMFファビオ・リヴェラーニなど、ハーフの選手もいる。

こうした変化は、移民の増加による多民族社会化の進行という、イタリアという国に起こっている変化の直接的な反映である。EU統合や世界情勢の変化によって、この国でも移民は増加の一途を辿っている。アルバニア、ルーマニア、コソヴォなど東欧圏から、モロッコやチュニジアなど北アフリカ、そしてブラックアフリカ、さらに最近は中国からの移民も急増している。低所得者向け住宅が多い都市部郊外の小中学校では、多ければクラスの半分近くが外国系という話も聞く。

必然的に、プロクラブのユースセクションやサッカースクールにも、移民二世、三世が増加している。ボスマン判決直後は、代理人が「青田買い」してきたアフリカ人選手が多く見られたが、今では、この国で生まれ育ち文化的にもほぼ完全に同化している、バロテッリやオカカのような「外国系イタリア人」が増えてきつつある。

フランスやイングランドとは行かないまでも、ドイツのようにアフリカ系やアラブ系のプレーヤーが代表の主力を担う日は、イタリアでもそう遠くない日のことかもしれない。■

By Michio Katano

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。