冬の移籍ウィンドウも終わりに近づいて、移籍報道はまっさかり。その裏にはどんな事情があるかという話。特にウィンターブレイクの間は大変なんです。これは07-08シーズンの事例ですが、今シーズンも基本はまったく変わりませんでした。

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長い1年の終わりに訪れた聖なるクリスマスとともに3週間の冬休みに入っていたセリエAが、先週末にやっと再開を迎えた。

つい2年前までは、冬休みと言っても12月24日から26日か27日まで、クリスマスを挟んだ数日間に過ぎず、28日前後には練習再開、リーグ戦も1月最初の週末から再開するというスケジュール(中断期間は2週間前後)だった。だが、過密日程と冬の寒さ(北イタリアの内陸部はこの季節しばしば気温が零下に下がる)によるパフォーマンスの低下と故障者の増加を問題視したプロ選手協会の根強い訴えかけが実って、昨シーズンから冬休みが延長され、選手は3週間近いまとまった休養期間を得られることになった。

各チームとも、12月24日から1月1日までの9日間は完全オフ。インテル、ミラン、ユヴェントスといった金持ちクラブは、1月2日の練習再開に合わせて、気候温暖なドバイやマルタで1週間のミニキャンプを張り、後半戦に向けたフィジカルコンディションの再構築に取り組んだ。

ピッチ上の主役たちにとっては待ちに待ったリフレッシュの機会であるこの冬休みはしかし、イタリアのスポーツマスコミにとって地獄の季節である。すべてのチームが活動を休止しており、しかも読者は外国のサッカーにはほとんど興味を持っていない。つまり完全なネタ枯れ状態が10日以上も続くのである。だがそれでもスポーツ新聞は、毎日15ページ、20ページもの紙面を埋めないわけにはいかない。

そこで登場するのが移籍ネタである。記者たちはその情報網、そしてそれ以上にファンタジーを総動員して、冬の移籍マーケットで起こり得るあらゆる可能性を掘り起こし、それを極限まで膨らませて原稿を書き続けなければならない。それが実際に起こるかどうかなどということは、二の次、三の次。その情報の信頼度を表現する最も適切な四字熟語は「針小棒大」である。

ある友人の記者に言わせれば、この時期の移籍報道は「ある朝誰かが何の根拠もなくある移籍話を思いつくと、その日の夕方には明日実現してもおかしくないほど信憑性がありそうな内容の記事ができ上がっている」というものなのだそうだ。

試しに、冬休み中(12月27日から1月11日まで)に発行された『コリエーレ・デッロ・スポルト』紙1面の大見出しを以下に並べてみよう。
「ユーヴェはアマウリを狙っている」
「モラッティ:『補強する!』」
「ミラン:1月にロナウジーニョとザンブロッタ」
「ミラン:ロナウジーニョに5000万ユーロ」
「ミラン:新GKはゴメス」
「アマウリ:ミランとユーヴェが競争」
「ユーヴェ、アルゼンチン勢がターゲット」
「ブッフォンがアマウリを呼ぶ」
「ユーヴェ、ファン・デル・ファールト獲得」
「インテル、シッソコに迫る」
「ドログバ、ミランを選ぶ」
「インテル、マニシェ獲得」
「ユーヴェ、すぐにシッソコを」
「ユーヴェ、サパタも獲得」
「ユーヴェとインテル、マンシーニを狙う」

この15本の見出しの中で、1月のマーケットで実現する移籍は、多くて3つというところだろう(現時点ではマニシェのインテル移籍のみ)。

だが、某スポーツ紙の編集長によれば、移籍報道は内容の真偽に関わらず最も売れるコンテンツのひとつだそうで、実際、スポーツ新聞各紙の販売部数は、6〜8月のオフシーズンや年末年始も落ちるどころかむしろ伸びるほどなのだという。

だとすれば、信憑性よりもむしろ話題性を重視し、あらゆるファンタジーを動員してありもしない、しかしもしかすると実現してしまうかも知れない爆弾移籍をでっち上げる方が、記者も読者もずっとハッピーになれるというものである。実際、「スポーツ新聞の読者は理屈よりも感情で動くもの」と断言するこの編集長の新聞は、この種の創造性あふれる移籍報道(もちろん確信犯だ)で知られている。

まあそんなわけで、この時期の移籍報道については、しっかりした根拠がある情報は1割か2割、代理人やクラブが情報操作のために流す撹乱情報が2割か3割、残りはファンタジーと邪推と憶測と願望の産物(つまり単なるネタ)というつもりで接するのが、正しいリテラシーだろう。■

(2008年1月12日/初出:『footballista』連載コラム「カルチョおもてうら」)

By Michio Katano

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。