2011年9月に刊行し、2014年4月に新たな書き下ろしを加えた「増補完全版」として再刊した3冊目の著書です。

「20人の証言で探る知将の戦略」というサブタイトルが示す通り、ザッケローニがそのキャリアの中で関わりを持ってきたクラブ会長、選手などの豊富な証言を下に、監督としての歩みを再構成したバイオグラフィです。関係者の取材はザックと20年来旧知の関係にあるイタリア人記者アントニオ・フィンコが、本文は筆者がそれぞれ担当した共著。

例によって以下にあとがきを再掲します。bar

本書は、2011年9月に出版された『監督ザッケローニの本質』に、日本代表監督就任以降の3年間を振り返った第7章、およびザックの母国イタリアでプレーする長友、本田について取り上げた第8章を新たに書き下ろした「増補完全版」である。

第1章から第6章までは、アルベルト・ザッケローニの監督としての歩みを、そのキャリアの中で彼と様々な形でつながりを持った関係者へのインタビューをもとにニュートラルな視点から再構成したバイオグラフィ。日本代表監督就任以降を取り上げた第7章、第8章は、著者の主観に基づく「解釈」も交えた一種のレポートという体裁を取っている。

著者はイタリアに住んでイタリアを活動の拠点としているため、日本代表の活動に密着して追うことができる立場にはない。そのかわり、ザッケローニとその背景にあるイタリアサッカーを知る立場から、一定の距離を置いて日本代表の動向を注視してきた。その意味で日本のジャーナリスト、メディアとは異なる視点からの解釈・分析を提供できるのではないかというのが、この「増補完全版」を改めて上梓する動機となっている。

インタビューにはザッケローニ本人へのそれも含まれているが、これはあくまで共著者アンオ・フィンコとの個人的な関係に基づき好意で応じていただいたもので、本書はいわゆる「オフィシャル・プロダクト」とはあらゆる意味で一線を画したインディペンデントな本であることをお断りしておく。

ザッケローニについての本を書きたいと思い立った時、パートナーとしてすぐに頭に浮かんだのが、10年来の友人であり非常に顔の広い同業者の顔だった。

TV局のスポーツ記者としてイタリア北東部のクラブを長くカバーしてきたアントニオには、ヴェネト州で活躍した元サッカー選手を訪ね歩いてインタビューした興味深い著書がある。しかもザッケローニとの親交はヴェネツィアを率いてセリエBで戦っていた当時から20年以上にも及ぶ。13年前、筆者と彼が出会ったのがほかでもないウディネーゼの練習場だったというのも、何かの縁かもしれない――。

筆者にとってもザッケローニは、ウディネーゼがUEFAカップ出場を決めた96-97シーズンの最終戦をローマで観戦して以来、最も気になる監督/人物のひとりであり続けてきた。アントニオが様々な形でザッケローニと関わりを持った人々をインタビューし、片野がそれを翻訳した上で、その内容をベースに監督としての足跡をまとめた各章本文を執筆するという役割分担は、ごく自然に定まった。

アントニオが集めた数多くの貴重な証言は、マスメディアを通じた情報だけでは決して知ることができないザッケローニの仕事、そして人物像を様々な角度から理解し掘り下げるための重要な鍵になった。ザック本人と家族へのインタビューが実現したことも含めて、本書が他の類書と一線を画す内容になっているとすれば、それは彼の貢献によるところが非常に大きい。

インタビューは、ただ2つの例外(元コゼンツァ会長パリウゾ、イタリア代表監督プランデッリ)を除き、すべて本人との面談によって行われた。第6章のザッケローニは著者2人の共同、アグレスティ、ロッシが片野、それ以外はすべてアントニオ・フィンコが担当した。日本語への翻訳、そして各章の本文も含めた本書の最終的な文責はすべて筆者にある。

2014年4月 片野道郎

By Michio Katano

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。