自国が出場していないことはもちろん、元々このレベルの大会があまり重視されていないこともあって、ワールドユースに対するイタリア・マスコミの関心は低かった。しかし、数少ない報道(ほとんどは「ガッゼッタ・デッロ・スポルト」などのスポーツ紙)の中で最も頻繁に、また多くのスペースを使って取り上げられていたのは、誰も予想しなかった快進撃を見せ、決勝まで進んだ日本である。

当初は、「二匹目のどじょう」を狙って小野を初めとする日本の若手に照準を合わせたペルージャの動きとセットで取り上げられることが多かったが(イタリアでは、ペルージャがウンブリアに日本人のためのトレーニングセンターを作り、15日単位で有望な若手選手の「研修」を行うというプロジェクトについて日本のスポーツ省!?と合意に達した、という話も伝えられている)、ポルトガル、メキシコを破りベスト4に進出したあたりから、そうした「ゴシップ」とは関係なく、日本の躍進が注目され始めた。
 
日本に関する報道の中で興味深かったのは、元ウルグアイ代表監督で、イタリアでもカリアリ、ミランを率いたオスカー・ワシントン・タバレスのコメント。

ボカ・ジュニオールズの監督時代には、若きバティストゥータをウイングからセンターフォワードにコンバートし、その才能を花開かせたことでもわかるとおり、若手の育成でも定評がある彼は今回、ウルグアイ代表スタッフの一員として、日本の試合を数試合観戦していた。「ガッゼッタ」紙が伝えた彼のコメントは次のようなもの。

「日本は、よく組織され、戦術的には成熟の域に達している。フォーメーションは、バランスの取れた3-5-2。それぞれ異なるキャラクターを持つ5人のMFが、お互いに補完しあっている。

プレーの中心となっているのは、中盤中央でプレーする遠藤。攻撃、守備の両面でチームにバランスを与える選手だ。右インサイドの小笠原は、スピード、技術、そしてとりわけスタミナがある。

小野は技術とファンタジーを持った最もレベルの高い選手だ。他の選手と比較するとちょっと“遅い”印象があるが、ダイナミズムの不足を補うだけの“クラス”が彼には備わっている。リーダーシップもある。この3人の外側に位置するのが2人の疲れを知らないアウトサイド、本山と酒井。

FWの2人ははっきりと異なるキャラクターを持っている。高原はよりブラジル人的なプレーヤー。柔らかいボールタッチと鋭いシュートを持ち、DFの1人や2人は簡単にかわす。100%ブラジル人。ワンツーにもフィニッシュにもスピードがあり、相手エリアの深いゾーンに簡単に姿を現すし、ゴールに背を向けている状態から振り向いてシュートを打つのも速い。

日本の選手たちの何人かはイタリアでもすぐに通用する潜在能力を持っている。もちろん、ユースのレベルからトッププロのレベルに飛躍するのは簡単ではないが。小笠原、小野、高原、中田、遠藤は、十分使えるだろう」。

今回、ナイジェリアにオブザーバーやスカウトを送っていたイタリアのクラブは、ミラン、パルマ、ペルージャ、ブレシアの4つ。しかし、ペルージャ以外のクラブは、日本の選手にはあまり興味を示しておらず、アフリカや南米の選手に関心が集中しているようだ。

この事実を見る限り、タバレスはちょっと誉めすぎ、という気がしないでもないが、少なくとも、この年代の日本の選手たちが、世界レベルで注目と評価を集めるだけのクオリティを備えていることは確かだろう。

「ガッゼッタ」紙は、「日本の選手の多くは、15-16歳からブラジル留学を経験しており、日本人の最大の長所である“完璧にコピーする能力”をサッカーでも発揮して、多くの選手がブラジル人のようにプレーする」と評している。

オリジナリティはないが、他人のアイディアをコピーして、それをもとにより優れたものを作ることに関しては一流、というのは、イタリア人が日本人を評する時の常套句(ま、イタリアが何かというと「アモーレ・カンターレ・マンジャーレ」と言われるのと似たようなものだ)。

これはほめる時にもけなす時にも使われるのだが、この件に関してはほめ言葉と受け取っておくべきだろう。ちなみに、「ガッゼッタ」紙によれば、小野は「日本のマンチーニ」、高原は「ロマーリオに似ている」と評されている。
 
決勝の結果については、実力差から見て順当、日本はここまでたどりついたことだけでも大きな賞賛に値する偉業―というのがイタリア・マスコミの論調。

ぼくは1試合も観ることができなかったので(なにしろ放映されていない)何ともいえないのだが、チャヴィを初め、スペインのトップクラブの準レギュラー・クラスが中心となっているチームが相手なら、実力差(とりわけ、技術的なこと以上に経験が物を言う部分での)があっても不思議ではないだろうとは思う。
 
選手たち以上に、日本の躍進の原動力として注目されていたのがトルシエ監督。コーチとしての手腕はもとより、アフリカの事情に通じており、選手たちを現地の環境に適応させるための手をぬかりなく打っていたところも、日本にとって大きなアドヴァンテージになった、と評価されている。最後に、彼がヨーロッパのマスコミに語ったいくつかのコメントを紹介することにしよう。

「私は日本代表の監督としては2番目の候補だった。彼らは最初にヨハン・クライフを招聘しようとした。クライフの次に声がかかったのは誇らしいことだと思っている」

「選手たちはみんな日本的で厳格な教育を受けて来ている。彼らが食事している姿は、まるで士官学校のそれのようだ。一度、私は立ち上がって言った。ここではチキンは手で食べるものだよ。その方が最後までちゃんと食べられるから。ナイジェリアの生活に苦しんではならない。この体験を積極的に生きなければ―とね」

「早くからアフリカに慣れているのが我々の強みだ。大会前にブルキナファソで合宿を行ったし、この大会にも、警察やホテルと交渉してもらうために、オンガドウゴウから友人を連れてきた。こういう人間がいないとアフリカでは上手くいかない。選手たちは、生きている鶏やワニを見るのも初めてだった。日本では何でもパックされて売っているからね。

カノでエレベーターが壊れたホテルの7階に送られたときには、選手たちにこう言った。『これで毎日、練習と食事の前にウォームアップ、後にはクールダウンのエクササイズができるというわけだ。とりあえずは用具係が荷物を運ぶのを手伝おう』。ある日など、薪がないから食事が3時間遅くなる、といわれたこともあったが、選手たちは不平も言わなかった。その時に、決勝に臨む準備はできていると確信した」。

「決勝は、ロマーリオを思い出させるFW・高原やヨーロッパで十分通用する安定感を持った左サイドのMF・本山と、バルセロナのMF・チャヴィとの対決になるだろう。実際、我々の選手たちはみんなブラジル人のようだ。ブラジル留学の経験以上に、Jリーグでプレーするブラジル人たちをその目で見て、真似をしながら育ったおかげだろう。右利きか左利きかもわからないくらい、みんな自由に両足を使える」

「中田(英寿)が私の選手たちの牽引車になったかって?私はそうは思わない。中田のイタリア行きは非常に危険な実験だった。もし彼が失敗していたら、日本の選手たちのヨーロッパへの進出を妨げることになっただろうから。中田はヨーロッパの監督と戦術の下で成長した。私に言わせれば、今のU-20の選手たちは彼よりももっと優れている。未来がそれを証明するだろう」

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。