「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その6。ここからは、ワールドカップでの歩みを1戦1戦振り返って行こうという趣向です。『エル・ゴラッソ』に寄せたプレビューとレビュー、コラムがメイン。まずはグループリーグ初戦のガーナ戦(2-0)から。
1)プレビュー
イタリアは、一次合宿で肉離れを起こしたザンブロッタに加え、スイスとの親善試合で太腿を打撲したガットゥーゾも戦線離脱、さらにネスタも内転筋痛で出場が微妙と、本番直前の大事な時期になって故障者が続出している。
それ以上の誤算は、前線の一角を担うべきデル・ピエーロが予想外の不振に陥っていること。リッピ監督は、当初構想していたスタメンから、多ければ4人を入れ替えざるを得ない状況に立たされている。
金曜日に地元のユースチームと行った練習試合では、レギュラー組と控え組をミックスした2つのチームで前後半を戦った。リッピ監督は
「あと2日間練習を見て、前日にスタメンを決める」と語っており、まだメンバーの顔ぶれはもちろん、採用するシステムにも迷いを残している様子。アズーリの周辺から、一次の楽観的な空気はすっかり消え去った。
数少ない好材料は、故障明け間もないトッティの順調な復調。デル・ピエーロの不調もあり、初戦からスタメンに名を連ねる可能性もある。
対するガーナは、故障者もなく順調に準備を進めている。前線とディフェンスはやや難ありと見られるものの、アッピアー、エッシェン、ムンターリという、フィジカルとテクニックを高いレベルで兼ね備えたMF陣はイタリアにとって脅威。デュイコヴィッチ監督はトッティの出場を予想してか、4バックの前にヴァイタルエリアをケアする守備的MFを置く4-1-3-2システムを試しているようだ。
ポテンシャルからいえば明らかにイタリア有利の試合だが、ガーナがアグレッシブな出足でイタリアの中盤に圧力をかけ、組み立てを寸断するようだと、試合の展開はわからなくなる。しかし攻防のポイントはむしろ両サイド。ガーナの中盤は中央では強力だが、システム上サイドにはスペースを残すことになる。オッド、グロッソの両SBがそこを突いて敵陣に進出し、頻繁に攻撃に絡むことができれば、主導権はイタリアの手に収まるはずだ。□
2)プレビューコラム:デル・ピエーロの憂鬱
「もし代表に呼んでもらえなかったら?リッピの車のタイヤに穴を空けて、大事な船も沈めてやる。それで、その辺の壁に『リッピはホモだ』って書きまくってやる」
これは今年の1月、あるラジオ番組に出演したデル・ピエーロが冗談で口にしたセリフである。
95年に21歳でデビューして以来、イタリア代表通算74試合・26得点。しかし、肝心のビッグトーナメントでは、2度のワールドカップと3度のユーロ、いずれも期待を裏切り続けてきたことは周知の通り。3度目の、そして最後のワールドカップに賭ける意気込みがどれほどのものかは、容易に想像がつく。
23人枠を争うライバルと目されていた野生児カッサーノは、1月のレアル移籍後も復調の兆しが見られず早々と脱落。ドイツ行きの切符はすんなりと手に入った。しかも、アズーリ攻撃陣の大黒柱トッティは、足首骨折による長期離脱から復帰したばかりで、本人いわく「コンディションは70%」。トッティに無理をさせたくないリッピ監督の構想では、少なくとも初戦、第2戦は不動のレギュラーが約束されていた。
ところが、本番を目前に控えた先月末、スイス、ウクライナとの親善試合で、デル・ピエーロはまったく精彩を欠いたプレーしかみせることができなかった。シーズン中ベンチを暖めることが多かったがゆえに、まだバッテリーの残量は十分あるはずなのだが、蓄積疲労以前に、パワーやスピードの点でコンディションが落ちている印象だ。
当初、オランダやドイツを破った時と同様、トーニとジラルディーノの“Wセンターフォワード”をデル・ピエーロが左にオフセットした位置から支える、変則的な4-3-3システムでガーナ戦に臨むことを考えていたリッピ監督も、構想の見直しを強いられている。
金曜日の練習試合で試したシステムは、前後半とも2トップ+トップ下の4-3-1-2。トッティのスタメン起用を想定していると見るのが、最も自然だろう。現地に詰めている番記者たちの予想は、本命がトッティをトップ下に置いた4-3-1-2、対抗が中盤に右からカモラネージ、ピルロ、デ・ロッシ、ペロッタと並べた4-4-2。
いずれにせよデル・ピエーロはベンチスタートという見方が強い。このチャンスを逃すと、長年にわたる代表での不完全燃焼に落とし前をつける機会は、もう巡ってこないかもしれないのだが……。□
3)試合:イタリア2-0ガーナ<2006年6月12日、ハノーファー>
イタリア(4-3-1-2)
GK:ブッフォン
DF:ザッカルド、カンナヴァーロ、ネスタ、グロッソ
MF:ペロッタ、ピルロ、デ・ロッシ
OMF:トッティ(56′ カモラネージ)
FW:トーニ(82′ デル・ピエーロ)、ジラルディーノ(64′ イアクインタ)
得点:40′ ピルロ、83′ イアクインタ
4)マッチコラム:攻守のバランスに課題を残すイタリア
「脱カテナッチョ」を宣言し、自らが主導権を握ってゴールを狙う攻撃サッカーを打ち出してこのワールドカップに臨んだイタリア。大事な初戦で何より重要だった“結果”を勝ち取ったことは、何よりも大きな収穫である。
立ち上がりこそガーナの勢いに押されたものの、中盤の底に位置するピルロを起点に、サイドにボールを散らしてリズムを作れるようになって以降、試合の主導権は一貫してイタリアのものだった。
MFペロッタのダイナミックな走り込みやSBグロッソのオーバーラップからクロスを折り返し、何度となくチャンスを作り出す。序盤はボールに触る機会が少なかったトッティも、相手との間合いを掴んだ後は、得意のダイレクトパスによる素早い縦の展開で攻撃にアクセントをつけた。
前半の45分間だけで、シュート12本(うち枠内8本)、コーナーキック11本。得点こそ40分にピルロが決めた1点だけにとどまったものの、攻撃のボリュームに関しては十分に及第点をつけられる出来だったといえる。
ただしその一方で、ディフェンス面には少なからず課題が残った。両サイドバックやペロッタがしばしばボールのラインを越えて前線に進出するため、ボールを失った時にはしばしば、数的不利の状況が生まれている。
中盤にだけはトップレベルのプレーヤーが揃っているガーナは、ボールを奪うたびにスムーズなパスワークでプレスをかわし、一気にイタリア陣内に攻め込んで危険な状況を作りだした。被シュート数は前後半合わせて14。これだけ頻繁にカウンターを喰らうイタリアを見たのは初めてである。
ガーナの攻撃陣がシュートの精度を著しく欠いたせいで、本当に危ない場面は皆無といってよかったが、相手のレベルが上がってくると、無失点で90分を戦い切ることは難しそうだ。次のアメリカ戦、続くチェコ戦に向けて、リッピ監督が攻守のバランスをどのように修正してくるか、注目したいところだ。□
(2006年6月10-12日/初出:『El Golazo』)