ダービーらしいナーヴァスな内容にお決まりの小競り合いなども挟みつつローマの勝利に終わった先週末のローマダービー。9年前に書いた関連のテキストがもう1本残っているのでここで出しておきます。ゴール裏のウルトラスの状況は、今もこの当時からそれほど大きくは変わっていません。最近はローマウルトラスまでボイコットを始めていますが……。

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スコアこそ3-2の僅差だったが、内容的にはローマが終始主導権を握る、実力通りの試合となった(07-08シーズン秋の)ローマダービー。それぞれのゴール裏も、トラブルを起こすこともなく、試合後も拍手と声援で両チームの健闘を讚えるなど、お行儀のいい振る舞いに終始した。

かつてこの両チームのゴール裏には、険悪な対立関係があった。ウルトラスのムーブメントが生まれた70年代から90年代はじめまで、クルヴァ・スッド(ローマ側)は極左系、クルヴァ・ノルド(ラツィオ側)は極右系と、正反対の政治的指向を持っていた。

だが、現在の両者は、表向きは対立しているものの、水面下では友好関係に近い結びつきを持つようになった。「政治の季節」が終わった90年代以降、左翼的な政治運動から若者が遠ざかり、その一方でネオナチ、ネオファシストといった極右系の政治団体が若者を集めるようになると、ローマのゴール裏もそれを反映するように、極左系グループが勢力を失い、それに変わって極右系グループが台頭してきたからだ。現在の最大勢力であるASRウルトラスは、極右系政治団体フォルツァ・ヌオーヴァと深いつながりを持っている。

一方、クルヴァ・ノルドの最大勢力であるイリドゥチービリは、ネオファシストを公然と標榜し、反ユダヤや人種差別の横断幕をしばしば張り出す、イタリアでもっともたちの悪いグループのひとつ。近年は、政治的なコネクションを使ってロティート会長を追い落とし、クラブの経営権を握ろうという動きすら見せている。

ロティート会長は、就任当初からウルトラスへの利益供与を拒否するなど、ゴール裏ビジネスに非協力的な態度を取り続けてきた。これに苛立つイリドゥチービリは、しばしば応援をボイコットするなど、反ロティートの姿勢を明確に打ち出し嫌がらせを続けている。

両クルヴァのひそかな友好関係が象徴的に表れたのが、2004年春のダービーで起こった中断事件だった。両ゴール裏が示し合わせて「警官隊に子供が殺された」というデマを流し、スタジアムにパニックの種を蒔くことによって試合を中断に追い込んだこの事件は、「共通の敵」警察に対する悪質な示威行為だったのだ。

今、オリンピコのゴール裏を支配しているのは、ウルトラスの歪んだ論理に支えられた不気味な平和である。■

(2007年10月31日/初出:『footballista』)

By Michio Katano

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。