2011年に完成したユヴェントス・スタジアムは、イタリアで唯一、クラブが自前で建設した最新のスタジアムです。ミュージアムやショッピングモールも併設されたこのイタリア王者の新たなフラッグシップを体験しつつ、歴史と現代が同居するトリノの街も楽しめるコースを紹介したガイド的なテキストをどうぞ。

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トリノは、1861年のイタリア統一後最初の首都となった由緒ある都市だ。この都市を長く支配したサヴォイア家が、元々はアルプスの向こう側、フランスにルーツを持つこともあってか、イタリアには珍しく碁盤の目状に道路が交差する整然とした都市計画がなされており、街並みもパリなどフランスを思わせるところがある。

市内探訪の出発点は、ターミナル駅のポルタ・ヌオーヴァ。まずは古くから残る中心街の街並みを探訪しよう。

駅と王宮のあるカステッロ広場を結ぶローマ通りをはじめ、メインストリートの多くは両側の建物の1階が広いアーケードになっており、様々なショップが並んでいる。カステッロ広場の手前でちょっと脇にそれると、ヨーロッパ最大規模、世界でもカイロに次いで二番目の充実度を誇るエジプト博物館が。カルチョとは何の関係もないけれど、古代エジプトに少しでも興味があるならこの機会に入ってみて損はない。

首都だった時代(19世紀)のトリノは、フランス的なカフェ文化が花盛りで、今も当時の雰囲気を残したエレガントで時代がかったカフェがいくつも残っている。カステッロ広場に近いBaratti&Milanoもそのひとつ。バロック風の豪華な店内で濃厚なホットチョコレート(甘い!トリノは近代チョコレート発祥の地でもある)を味わってみる。

カステッロ広場からは、ユヴェントスストアがあるガリバルディ通りを散策。落ち着いた街並みを楽しみ、小さな教会前の広場で17世紀から続く老舗のカフェAl Bicelinでまたも一服した後は、トリノのランドマーク的シンボル「モーレ・アントネッリアーナ」へ。

内部には興味深い映画博物館もあるが、もし天気が良ければエレベーターで展望台に上ろう。西から北に広がる雄大なアルプス山脈、そして東に見えるスーペルガの丘(1949年にグランデ・トリノを乗せた飛行機が墜落した場所)までを一望できる。
 

ユヴェントス・スタジアムに唯一難点があるとすれば、トリノ市内からバスか市電で30分以上かかるその立地。郊外で回りには何もないので、あまり早く行き過ぎると試合までの時間を持て余すことになる。

スタジアムに併設されたミュージアムを見学するという手はあるのだが、試合当日は3-4時間前に行っても長蛇の列で、30分から1時間待ちは覚悟しなければならない。それならばむしろ、ミュージアムは翌日にでもスタジアムツアーとセットでゆっくり見ることにして、試合の日はトリノの街歩きを楽しむ方が賢明だし効率的かもしれない。

ただ、スタジアムとミュージアムに隣接して「Area12」というショッピングモールがあって、試合前の数時間は観戦に来たユヴェンティーノで一杯になるので、その群衆の中でサポーター同士交流したり、イタリアの庶民的ショッピング事情に触れるのもまた一興かも。

内部にはいくつか飲食施設もあるのだが、なぜかイタリア以外の国の料理が中心。その名も「mishi mishi」という謎の日本食レストランもあって、日本食がどのように国際化されているのかを知るいい機会だったのだけれど、ちょっと怖くて入れませんでしたゴメンナサイ。

肝心のスタジアムは、1歩足を踏み入れれば圧倒的なユヴェントスワールド。前身だったスタディオ・デッレ・アルピのがらがらぶりとは打って変わって、毎試合ほとんど常に満員なので、事前のチケット購入(オフィシャルサイトで可能)は必須です。□

工業都市トリノの顔・リンゴット地区

都市トリノのもうひとつの顔は、ユヴェントスのオーナー・アニエッリ家の本業である自動車メーカーFIATが本社を構える、イタリア自動車産業の中心地。

Porta Nuova駅から地下鉄で南に下った終点Lingotto駅周辺には、屋上にテストコースが残る旧FIAT本社(現在はホテルだが宿泊すればテストコースの見学も可能)、イタリアのみならず世界の名車を100台以上並べて自動車の歴史を振り返る、クルマ好きには堪えられない国立自動車博物館、そしてイタリアの高級食材を一同に揃えて飲食コーナーも充実した、食のデパートeatalyの巨大な本店など、現代的な工業都市としてのトリノを代表する施設が集中している。駅からだとスタジアムとは逆方向になるが、こちらのゾーンだけでも少なくとも半日は飽きずにつぶせるだけの充実度。

Lingottoからは、地下鉄でBernini駅まで移動し、地上に出たところから試合当日のみ出ているスタジアムアクセス専用のトラム「9/」に乗り継げば、全行程1時間ほどでユヴェントス・スタジアムに着くので、トリノのモダンな側面に興味がある方には、こちらのコースもお勧めだ。

ちなみに、Porta Nuova駅からスタジアムまでの主なルートは2通り。上のBernini駅経由トラム9/のルート(試合当日のみ。キックオフの2時間前から運転)に加えて、地下鉄でXVIII Dicembreまで行き、そこから72番のバス(Macchiavelli行き)に乗り換えても、約30分でスタジアム/ミュージアムの正面に着きます。□

(2014年4月21日/初出:『footballista』)

By Michio Katano

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。