前回からの2週間で、セリエAの順位表にも多少の変動があった。アタランタは依然、2位で粘っているものの、ウディネーゼ(ミラン、ローマに連敗)とボローニャ(ヴィチェンツァに引き分けバーリに敗れる)が足踏みしている間に、2連勝したラツィオとミラン、1勝1分のユヴェントスとパルマが、順位を上げてきた。

セリエA順位表(第10節まで)

これで“並び”としてはだいぶ“普通”になった一方、ローマの独走ぶりがますます際立ったようにも見える。事実、勝利に3ポイントが与えられるようになった94-95シーズン以降、開幕からの10試合でこのローマ以上の成績を残したのは、唯一、97-98シーズンに8勝2分けで26ポイントを稼ぎ出した「シモーニの(あるいはロナウドの)インテル」だけだ。

あの時は、ユヴェントスが3-4ポイント差でついていって前半戦の最後に逆転、結局そのまま終盤までマッチレースが続くことになった。

前回お伝えした8節の時点で3ポイントだった2位との差は、現時点で6ポイントにまで開いている。とはいえ、スクデットに迫る可能性のあるビッグクラブ勢との差が開いたわけではない(6-8ポイントと変わらないまま)。

ここ2シーズンとも、終盤戦に入ってからこれ以上の差をひっくり返してスクデットが決まっていることを考えると、大騒ぎするほどのアドバンテージだとはいえないだろう。

ローマが、ダービー、ユーヴェ戦と続くクリスマス前の2試合、そして年明け早々のアタランタ戦を終えてどんな状況に立っているか。スクデットの可能性を云々し始めるのは、それを見てからでも遅くはない。
 
さて前回は、結果はともかく内容、つまりサッカーの質からいうと、個人能力への依存度が高いビッグクラブよりも、アタランタやウディネーゼなどのように、チームとしてよく組織された中小クラブの方がむしろ高度だ、という話だった。

それは何故なのか、その一端を明らかにしてくれるのが、インテル解任後の沈黙を経て、最近マスコミの前に戻ってきたマルチェッロ・リッピの次のような発言である。

「ビッグクラブの予想外の苦戦には、今シーズンの変則的なカレンダーがもたらした、プレシーズンのトレーニングの困難さが、大きく関わっている。

ビッグクラブが抱える代表クラスのほとんどは、昨シーズン終了後に、ワールドカップ南米予選かヨーロッパ選手権を戦い、その後にやっとヴァカンスを取ったため、シーズンインが遅れる結果になった。その一方では、8月上旬からすでに、チャンピオンズ・リーグの予備戦がスタートしている。

にもかかわらず、セリエAの開幕は、例年より1ヶ月も遅い10月から。しかもその間に、オリンピックという不規則なイベントを挟んでいる。結果として、ビッグクラブはどこも、チーム全員が揃った形でプレシーズンのトレーニングをすることがまったくできなかった。チームとしての仕上がりが大きく遅れた原因は、そこにある」
 
現在首位を走るローマも、9月下旬にはコッパ・イタリアでアタランタに完敗ともいえる内容で敗退し、トリゴーリアの練習場を“襲撃”したサポーターに激しい抗議を受けるという事件を経験している。

当時のローマは、ザネッティと中田をオリンピックで欠き、バティストゥータは故障中、さらに、中盤の柱として期待をかけていたエメルソン、ベテランのディ・フランチェスコも不在と、惨憺たる状況だった。

一方のアタランタは、昨シーズンとほとんど変わらない顔ぶれのチームを、7月半ばからじっくり時間をかけて仕上げてきていた。ある意味で、ローマの敗退は必然だったのだが、人々がそれに気づいたのは、セリエAが開幕しアタランタがだれも予想しなかった大躍進を収めてからのことだ。
 
そのアタランタと並んで、この2ヶ月、予想以上の健闘を見せたウディネーゼ、ボローニャも、リッピが指摘するプレシーズンの混乱とは無縁だったチームである。メンバーがほぼ全員そろった状態でプレシーズンのトレーニングに臨み、じっくりとチームを仕上げることができたことが、内容・結果ともに充実した序盤戦を送った大きな要因だろう。

つけ加えれば、この3チームに共通しているのは、チームの組織的なメカニズムを重視し、相手がどんなチームでも積極的に自分たちのサッカーを展開しようというポリシーを持った監督に率いられていること。こうしたタイプの監督が、時間をかけて納得のいく仕事をできる舞台は、もはやウディネーゼ、ボローニャよりも下のクラスにしかないのかもしれない。

プレシーズンのトレーニングに選手が揃わず、シーズンが始まれば3つのコンペティション(セリエA、コッパ・イタリア、欧州カップ)に振り回されて、試合と移動の連続で毎日を送らなければならないビッグクラブでは、監督がチームのメカニズムをじっくりと仕上げている時間などはないからだ。

常に結果を出すことを要求され、試行錯誤すら許されないビッグクラブの監督たちが、試合に勝つための解決策を、「組織」よりも「個人」に見出しながら、序盤戦をなんとか乗り切ってきたのは、事実上それが唯一に近い選択肢だったからに違いない。
 
しかしその彼らも、ここにきてようやく、セリエAでの戦いに集中できる状況になった。欧州カップは2月まで休みだし(ユーヴェはすでに敗退)、コッパ・イタリアでも勝ち残っているのはミランとパルマだけ。これから冬休みをはさんだ2ヶ月弱の間に、ビッグクラブもようやくチームの“点検整備”に取り組むことになる。

こうなると、質・量ともに圧倒的に優位な選手層を誇るビッグクラブと、そろそろ息切れしてきた中小クラブの力の差が、はっきりと結果にも表れてくるのは仕方のないことだ。両者の戦力格差はあまりにも大きい。ペルージャやヴィチェンツァが2位になったり、ヴェローナがスクデットを獲ったりした時代は、もはや遙か彼方である。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。