[コモ発]11月19日、コモで行われたコモ1-0モデナ(セリエC1グループA)の試合終了約1時間後、ほとんど人がいなくなったスタジアム地下の更衣室前廊下で、コモのキャプテン、マッシミリアーノ・フェリーニョ(MF・27)がモデナのフランチェスコ・ベルトロッティ(FW・33)の右こめかみを拳で殴打。殴られたベルトロッティは倒れた拍子に壁あるいは階段に頭を強く打ち、そのまま昏睡状態におちいった。

フェリーニョは意識を失ったベルトロッティを残して現場を離れた。現場を目撃していたコモの用具係夫人の叫び声を聞いて、階上の廊下にいたコモのチームドクターが駆けつけ、呼吸が止まり白目をむいていたベルトロッティに応急処置を施したが、呼吸は戻ったものの意識不明のまま。

救急車でコモ総合病院に運ばれCTスキャンなどの検査を受けた結果、頭部に血瘤ができていることがわかり、脳神経外科の設備が整っているレッコ総合病院に移送。その夜すぐに、血瘤を除去する手術が行われた。▼ベルトロッティは、事件から9日後の28日に昏睡から覚めたが、まだ絶対安静の状態が続いている。▲

フェリーニョの血迷った行動の背景にあったのは、試合中に起きたエピソード。後半9分、コモの選手に激しいバックチャージを行ったモデナの選手がイエローカードを受け、その場で両チームの選手がもみ合いになった時に、フェリーニョがベルトロッティの顔を肘で押し(肘打ちというほど強くはなかったように見える)、ベルトロッティは大げさに顔を押さえてピッチに倒れ込んだ。

これを見ていた主審はフェリーニョを退場に処した。これで向こう2試合の出場停止が確実となったフェリーニョが、試合直後のプレスルームで、ベルトロッティに「ふざけた芝居をしやがって。覚えてろよ」と声をかけたのを、その場にいた多くの記者が目撃している。

事件の翌日、コモのプレツィオージ会長は「フェリーニョの責任は重い。彼が今後コモでプレーすることは一切ないだろう」と明言。サッカー協会もフェリーニョの無期出場停止を決めた。

自宅に引きこもったフェリーニョは弁護士を通じて「こんな結果を引き起こすつもりはまったくなかった。ベルトロッティと家族に心から謝罪したい」と語っている。ふたりは3年前、ブレシェッロ(セリエC1グループA)でチームメイトだったこともある。
 

[トリノ発]同じ11月19日にトリノで行われたトリノ1-0クロトーネ(セリエB)の試合終了直後、ピッチから更衣室に続くトンネルの入り口で、クロトーネのフランス人DFジャンピエール・シプリエン(31)がトリノのFWステファン・シュヴォック(31)を殴打。シュヴォックはちょうど隣にいた副審を巻き添えにして倒れたが、怪我はなかった。

シプリエンは、試合中シュヴォックにファウルをした際に、相手から「汚らしい黒ん坊め。アフリカに帰りやがれ」という人種差別的な侮辱を受けたため、その報復として思わず手が出た、すぐ近くにいた副審はそれを聞いていたはず、と主張。しかし副審は試合後の報告書でこの件に言及せず、数日後にリーグの懲罰委員会はシプリエンの4試合出場停止を決めた。

[ペルージャ発]10月14日にローマで行われたラツィオ3-0ペルージャ(セリエA)におけるドーピング検査で、ペルージャで検査対象となったクリスチャン・ブッキ(FW・23)、サルヴァトーレ・モナコ(DF・28)の2人ともが「非・陰性」だったことが、11月21日に判明した。

検出薬物は最近多くのスポーツで話題になっている筋肉増強剤ナンドロロン。現在結果が待たれている再検査の内容と懲罰委員会の判断によっては、両選手に長期間の出場停止処分が下る可能性がある。

翌日開かれた記者会見で、両選手は薬物の使用を全面的に否定、ペルージャのチームドクターは「試合前日、夕食に食べた鶏肉が薬物で汚染されていたために、検査で反応が出たのではないか」と主張した。

またペルージャのコズミ監督は「レッチェのカヴァジンなどのように、選手の食事を管理し総合栄養剤など―もちろん合法的なものだ―を摂取させている監督もいるが、私は何もしない主義だ」と語っている。

ちなみにペルージャでは昨シーズン、アンジェロ・パゴット(GK・27)がコカインで2年間、セルジョ・カンポロ(MF・30)がマリファナで2ヶ月間の出場停止処分を受けている。

[ベルガモ発]8月27日にベルガモで行われたアタランタ1-1ピストイエーゼ(コッパ・イタリア予選リーグ)をめぐる八百長疑惑で、サッカー協会懲罰委員会のポルチェッドゥー検査官は、11月23日、アタランタのクリスティアーノ・ドーニ(MF・27)、セバスティアーノ・シヴィーリア(DF・27)、ジャコモ・バンケッリ(FW・27)、ピストイエーゼのアルフレード・アリエッティ(FW・30)、マッシミリアーノ・アッレーグリ(MF・33)、ジローラモ・ビッザーリ(FW・33)の計6名に、3年間の出場停止処分を求める報告書を委員会に提出した。

これは、昨シーズンからイタリアでも認められたブックメーカー方式のギャンブルで、この試合の特定の結果(前半1最終結果X:賭け率は11倍だった)に、イタリア各地で例外的な金額が賭けられたことに対し、「胴元」にあたるSNAIが不審な点があるとして告発したもの。

この告発によれば、試合の前日、賭けを受け付けている同社の窓口で上記の結果に賭け、高配当を受け取った人々の中には、シヴィーリアの父親と弟、アリエッティの父親、アッレーグリの友人などがいたとされる。

ポルチェッドゥー検査官は、このアタランタ―ピストイエーゼのほか、昨シーズンの5月7日に行われた3試合(レッジーナ1-1ヴェローナ、ヴェネツィア0-1バーリ、キエーヴォ1-1アタランタ)にも、八百長の疑いがあるとして捜査を続行中である。

[ローマ発]11月20日、ローマのイタリアサッカー協会本部で行われた、任期切れに伴う会長選挙の再投票で、ルチャーノ・ニッツォーラ現会長は、対立候補のジャンカルロ・アベーテ元副会長に投票数では大差をつけられながら、唯一(ほぼ)全面的に彼を支持するイタリアプロサッカーリーグ(セリエAとB)の拒否権行使によって、何とか1ヶ月後の再々選挙に持ち込むという屈辱を味わった。

サッカー協会会長選挙は、プロサッカーリーグ、セリエC、アマチュアリーグ、プロサッカー選手協会、監督協会の5団体を代表する選挙人(260名強)による投票で行われるが、会長として選出されるためには、この5団体の選挙人のそれぞれ2/3以上から支持を受ける必要がある。

「セリエAのクラブもどこかの村のアマチュアクラブも、協会の構成員としては同等」という立場から、ビッグクラブの利害に偏重している現在のイタリアサッカー界の構造改革を掲げるアベーテ元副会長は、セリエC、選手協会、監督協会のほぼ全員とアマチュアリーグの半分強、全選挙人の62.3%から支持を得ながら、セリエA、Bの利害を代表するプロサッカーリーグの強硬な反発と拒否権行使によって、会長就任を阻止された格好。

注目されるのは、ピッチの上の主役である監督、選手がいずれも、自分たちの「雇用者」であるクラブが支持する現会長に公然と叛旗を翻したことである。

面目丸つぶれのニッツォーラ会長が1ヶ月後の再々投票に再び立候補できるかどうかは微妙だが、イタリアプロサッカーリーグは、「カルチョの世界で最も重要なセリエAの利害に反する人物を会長として認めるわけには行かない」(ミランのガッリアーニ副会長)と、アベーテ氏の会長就任を拒否する姿勢を貫いている。

一部では、12月18日の再選挙までの間に、FAから独立した組織であるイングランドのプレミアリーグに倣い、サッカー協会から脱退して独自のリーグ団体を結成する意志を固め、具体的な作業に入ったという説も流れている。 

以上はいずれも、この1週間ほどのあいだにイタリアサッカー界を騒がせたニュースである。コメントはあえてしないことにする。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。