ちょっと長めの一時帰国を終えて、日本からイタリアに戻ってきた。今週から、看板通り「イタリア特派員情報」の再開ということになる。今後ともよろしくご愛読のほどを。
 
8月も終わりに近づいたとはいえ、イタリアはまだまだ夏休みである。ミラノなどの大都市は、ヴァカンスに出かけた住民がやっと帰って来はじめたところで、観光客の集まる中心街以外は、商店もまだ半分以上が休業。世の中がぼちぼち動き出すのは来週からだろう。

しかし、そんなことにお構いなくどんどん動き出しているのが欧州サッカー界。7月初めのヨーロッパ選手権終了まで「昨シーズン」が続いていたというのに、実は6月半ばには、インタートトの1回戦とともにもう「今シーズン」が始まっていたというのだから、ちょっと呆れてしまう。

イタリアでも、“アッズーリ”がフランスとEURO2000の決勝を戦った前日、7月1日には、ペルージャがスタンダード・リエージュとインタートト2回戦を戦って「今シーズン」に一番乗り……と思ったら、その1週間後にはとっとと敗退してしまった。

セリエAからインタートトに参加したもうひとつのクラブ・ウディネーゼも、7月半ばの3回戦から早くも「公式戦」に突入。8月に入ると、チャンピオンズ・リーグ(以下CLと略記)の予備戦3回戦(第1戦)にミラン、インテルが登場し、予想通りあまりぱっとしない戦いぶりで、サポーターをやきもきさせた。
 
―とまあこんな感じで、イタリアに戻ってきてみると、ずるずると「今シーズン」が始まってしまっていた。にもかかわらず、肝心のセリエA開幕は遙か先の10月1日というのだから、締まらないことこの上ない。

とはいえ、8月も20日を過ぎると、ヨーロッパのほとんどの国ではリーグ戦がスタートするから、そろそろ2000/2001シーズンが本格的に始まったと考えた方がいいのだろう。

事実、今週は、イタリア国内でコッパ・イタリアがスタート(といってもまだセリエBとCのクラブだけ)、ヨーロッパの舞台でも、ミラン、インテルがCL予備戦、ウディネーゼがインタートト決勝(いずれも第2戦)と、シーズンの行方を少なからず左右する重要な試合を戦うことになった。

結果からいえば、ディナモ・ザグレブ(クロアチア)と戦ったミランは、ホームでの第1戦(3-1)に続いて、アウェイでも3-0と圧勝し、CL本戦への出場権を獲得したが、ヘルシンボリ(スウェーデン)との第1戦(アウェイ)を0-1で落としたインテルの方は、ホームのメアッツァでも0-0の引き分け止まり。

3ヶ月前にせっかくロベルト・バッジョ(現在失業中)がプレゼントしてくれたCLへの切符を、むざむざとドブに捨ててしまった。

チェコのシグマ・オロモウツと戦ったウディネーゼ(アウェイの第1戦は2-2)は、1点リードされた後に一旦追いついたものの、試合終了直前に1-2にされ絶体絶命、ところがロスタイムに再び追いついて延長に持ち込んだ末、4-2でやっと勝つというドタバタで、どうにかこうにか4シーズン連続のUEFAカップ出場権を手に入れている。
 
結果を分けた最大の要因は、相手チームの強さではなく、フィジカル・コンディションの違いだったように見えた。

インテルが戦ったヘルシンボリはスウェーデンのチーム。春に開幕したリーグ戦は今がたけなわで、コンディション的には完全に出来上がっている。技術的に目立った選手はおらず、一見したところ手強い相手ではまったくなかったが、スピードと運動量では、明らかにヘルシンボリが上回っていた。

第1戦に0-1で不覚を取っているインテルとしては、何とか早く1点欲しいところだったが、とにかく守り切ることしか考えていない相手を崩すのは簡単なことではない。組織としてのまとまりなど期待できる段階ではないから、必然的に、ボールは支配するものの、肝心の最終局面では個々の選手が個人勝負を挑むという展開になる。

しかし、インテルの選手たちにはまだ、そこを切り開くだけのキレとスピードが欠けていた。プレシーズンのキャンプは、まず持久力やパワーを高めるトレーニングから入るのが常道。スピードや敏捷性に焦点を合わせるのは、そうした「土台」を作った後の段階だから、いくら早めに始動しているとは言っても、8月半ば過ぎのこの時点でピークからほど遠いのは仕方がない。

残り時間は刻々と減り、0-0のまま終わるのかと思った90分、相手のDFがエリア内でハンド。これを決めればとりあえず延長戦、というPKを神様から授かった。しかしレコーバのシュートはGKに阻まれ、万事休す。UEFAカップには出場できるから、これでヨーロッパとおさらば、というわけではないが、クラブの財政にとっても、チーム(とサポーター)のモラールにとっても、出足から大きな打撃であることには違いない。

インタートトのウディネーゼ対シグマ・オロモウツも、展開は似たようなものだった。ウディネーゼはすでにここまで5試合を戦ってきたとはいえ、フィオーレなど一部の選手はまだチームに合流してから10日あまり。

明らかに格下の相手(しかしこちらもコンディションだけは十分出来上がっている)を攻め切れないもどかしさの中で、焦りだけがどんどん増幅されてプレーが雑になっていく。ウディネーゼにとっては、たまたま点が入って試合が動き出したのがかえって幸いだった。最後は、殴り合いの乱戦を地力に勝るウディネーゼが制した、という格好である。

この2試合と比べると、ディナモ・ザグレブ対ミランは、お互いまだプレシーズンということもあるのだろう、コンディションの差よりもチームとしての力の差が素直に出た試合だった。3-0というスコア通り、ミランが終始ゲームを支配し続けたから、ガッリアーニ副会長あたりは「サッキ時代のミランを見るようだ」と大げさに持ち上げていたが、内容的にはむしろ、双方ミスの多い大味な試合に見えた。
 
結局のところ、3試合とも、この時期ならこの程度だろう、という内容だったわけだが、気の毒なのは、以前ならばまだ調整の段階だったこの時期に、すでにシーズンの行方を左右する重要な試合を戦わなければならなかったこと。

ミランとウディネーゼは、結果が吉と出たからよかったものの、CL出場権を失ったインテルは、10億円単位の減収と高まる周囲のプレッシャーに耐えつつ、セリエA開幕を迎えなければならないのだから大変である。

さて、こうしてずるずると始まった「今シーズン」。9月に入ると、早速3日にはワールドカップ欧州予選の幕が開き(イタリアはハンガリーとアウェイで対戦)、その翌週からは欧州カップ(CL、UEFA)が本格的に開幕し、続いてはシドニー・オリンピックが待っている。セリエAの開幕は、それが終わった10月1日。

そして、この長い「今シーズン」が終わるのは、何と来年の6月17日である。きっとその頃には、早くも「来シーズン」が始まっていることだろう。やれやれ、である。

ともあれ、欧州サッカー・2000/2001シーズンへようこそ。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。