6月にW杯を控え、セリエAはすでに例年より早く終盤戦に突入している。4月5日の第28節、1位のユヴェントスがわずか2ポイント差に迫っていた3位のラツィオを敵地での直接対決で下し(1-0)、2位のインテルも絶不調のサンプドリアをホームで 3-0と一蹴、優勝争いは、月末にトリノでの直接対決を控えるこの2チームに絞られつつある。

その一方で、これまた見逃せないのが、セリエA残留を巡る下位グループの熾烈を極めた争いである。今シーズンは、過去35年間に渡ってセリエAの座を守ってきたナポリが、シーズン序盤のムッティ監督解任をきっかけに悲惨な状況に陥り、シーズン半ばですでに降格が確実視されるという波乱があった。

また、セリエC1から2シーズン連続で昇格を果たしたレッチェも、チーム作りに失敗して序盤から振るわず、降格がほぼ決定的となっている。しかし、残る2つのポストを巡る(というか避けるための)争いは、アタランタ、ブレッシァ、ピアチェンツァ、ヴィチェンツァ、バーリ、エンポリの6チームがわずか5ポイント(25~ 30)の中に固まる混戦状態。残る6試合、優勝争い同様、こちらも最後の最後まで目が離せない。

イタリアのプロサッカークラブの中で、安定してセリエAの座を確保できるのは、大都市を拠点とし、大金持ちの実業家をオーナーに擁するほんの10足らずに過ぎない。そして、これらのいわゆるビッグ・クラブを除けば、セリエAの下位からセリエBの中位あたりまでの20以上のクラブは、レベル的には事実上ほとんど横並びといってもいい。

毎年、入れ替わり立ち替わりAとBを行ったり来たりしているこれらの大部分は、人口がせいぜい20万人程度の、地方の中小都市のクラブである。何十億円もする外国人選手を買って戦力を強化することが財政的に不可能なことはもちろん、主力選手が活躍したり、監督の采配が評判になったりすると、翌年はあっというまにビッグクラブに引き抜かれてしまう。

しかも、セリエAとBは、毎年4チームずつが自動的に昇降格するという、新陳代謝の激しいシステム。たとえ前年に残留を果たしたり、セリエBから破竹の勢いで勝ち上がってきたとしても、翌シーズンにセリエA残留を勝ち取れる保証は全くない。一方で、一旦Bに落ちてしまえば、熾烈な競争を勝ち抜いてAに復帰するのは至難の業である(Bで苦戦を続けるトリノ、ジェノアといった長い歴史と伝統を誇るクラブがそれを証明している)。

その意味で、毎年のA残留は、彼らにとってはそれこそ「スクデット」(セリエA優勝チームが翌年左胸につける盾のエンブレム)にも値する偉業なのである。

普段、日本では紹介されることの少ないこれらのクラブのなかには、明確なポリシーを持った個性的なクラブも少なくない。例えば、ミラノの北東にある美しい小都市・ベルガモを本拠地とするアタランタは、ユース部門の充実度ではトリノ、ローマなどと並び、イタリアでも五指に入るクラブ。最近もモルフェオ(フィオレンティーナ)、タッキナルディ(ユヴェントス)といった選手を輩出している。

また、レッチェ同様C1から2年連続の昇格で10数年ぶりのセリエA復帰を果たしたエンポリも、モンテッラ(サンプドリア)やビリンデッリ(ユヴェントス)を育てた、選手育成では定評のあるクラブである。今期はB降格の一番手と目されながらも、まだ30代と若いスパッレッティ監督(手腕が認められ、サンプドリアを初めいくつかのクラブから声がかかっている)の下、C1時代からの選手を軸に善戦を続けている。

一方、予想外の苦戦が続いているのが、セリエA定着3年目、昨年はコッパ・イタリアも勝ち取ったヴィチェンツァ。初出場のカップウィナーズ・カップではベスト4に残っているにもかかわらず、セリエAでは後半に集中力が途切れて失点を喰らうというパターンが多く、ここに来てずるずると順位を落としている。

選手たちはもちろん、やはり新世代の旗手として評価の高いグイドリン監督にとっても、週半ばに欧州カップ、週末にリーグ戦というスケジュールは初めての経験で、フィジカル、メンタル両面のコンディショニングがうまく行っていないためだろう。

2年前にクラブ史上初のA昇格を果たして以来、唯一、外国人抜きの「メイド・イン・イタリー」で戦い、Aに踏みとどまっているのがピアチェンツァ。毎年、シーズンの大半を降格圏内で過ごしながら、終盤に驚異的な粘りを見せて貴重なポイントを稼ぎ、首の皮一枚残して残留を決めるという、英雄的な戦いを続けている。

今年は、DFにセリエA最年長(38歳)のヴィエルコウッドを得て、堅い守りをベースに鋭いカウンターを繰り出すというイタリア伝統の戦術で、上位チームからもポイントをもぎ取っている。

最後に、セリエBの昇格争いにも触れておこう。ナポリの降格と入れ替わりで、同じカンパーニア州からA昇格を確実にしたのが、サレルニターナ。ザッケローニ(ウディネーゼ)、マレサーニ(フィオレンティーナ)と並ぶ若手の理論家、デリオ・ロッシ監督の下、ラツィオ育ちのFW、ディ・ヴァイオが大爆発しての優勝戦線独走である。

続いて昇格が濃厚なのがヴェネツィア(ノヴェッリーノ監督の手腕が大きい)とカリアリだが、残り試合はまだ10試合あり、予断は許せない。最後のポストに至っては、トリノ、レッジャーナ、ジェノア、ペルージャといった「常連」から、トレヴィーゾ(あのベネトンの本社がある町)、キエーヴォ(ヴェローナにあるもうひとつのクラブ)、レッジーナといった「新顔」にまで、十分なチャンスが残されている。

こちらも、Aの残留争いと同じくらい、興味にあふれた戦いなのである。

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。