「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その8。ワールドカップ編の第3弾は、グループリーグ首位通過を決めたチェコとの第3戦。グループリーグの総括もついています。

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1)プレビュー

引き分けでもベスト16が決まるイタリアと、自力で勝ち抜けるためには勝利が条件のチェコ。双方の利害が完全に相反するガチンコ勝負である。

チェコのブルックナー監督にとって頭が痛いのは、攻撃陣の枯渇である。コラーが初戦で肉離れを起こし、その代役ロクヴェンツも出場停止。明るい材料があるとすれば、アキレス腱を痛めているバロシュに復帰の可能性が出てきたことか。

いずれにせよ、2列目の攻撃参加を最大の武器とするチェコにとって、前線でタメを作るポストプレーヤーの不在は由々しき事態。それを補うとすれば、ラインを高く保って前線からプレスをかけるか、引き気味の布陣からカウンターを狙うかのどちらかしかない。平均年齢の高いチェコが、前者を90分続けることは難しいだけに、後者を基本に、勝負どころと見た時間帯ではリスクを顧みず一気に前に出る、メリハリのある戦い方をしてくるだろう。

一方のイタリアは、USA戦で退場になったデ・ロッシの欠場に加え、太腿を削られたペロッタも出場が微妙と、中盤の再構築を迫られている。しかし、リッピ監督の迷いはむしろ、故障明けでまだベストとはいえないトッティの起用法にある。

ここ2試合を見る限り、運動量が求められるトップ下では1時間が限界。そこで、システムを[4-3-1-2]から[4-4-2]に変え、2トップの一角に上げる構想も浮上している。ただ、予選から基本としてきたシステムにここに来て手を入れるという「賭け」には、それなりのリスクも伴う。指揮官の判断が注目される。

初戦に楽勝して順調なスタートを切りながら2戦目で躓いた両チーム。一度は手に入れたかに見えた自信が揺らいでいるだけに、緊張と不安が勝った精神状態で試合に臨むことになるだろう。そこから、どちらが先に自分のリズムを掴んで試合の主導権を握るかが、勝負の最初の分かれ目になるはずだ。□

2)試合:イタリア2-0チェコ<2006年6月22日・ハンブルク>

イタリア(4-4-1-1)
GK:ブッフォン
DF:ザンブロッタ、ネスタ(17′ マテラッツィ)、カンナヴァーロ、グロッソ
MF:カモラネージ(74′ バローネ)、ガットゥーゾ、ピルロ、ペロッタ
OMF:トッティ
FW:ジラルディーノ(60′ インザーギ)

得点:26′ マテラッツィ(イタリア)、87′ インザーギ(イタリア)

3)マッチコラム:とりあえず勝ち上がったが……

立ち上がりから相手に押し込まれて主導権を奪われる苦しい展開の後、前半半ば過ぎに数少ないセットプレーから先制ゴールをもぎ取る――。ここまでの展開は、イタリアにとって5日前のアメリカ戦とまるで瓜二つだった。

違ったのはここから先。しかしそれは、イタリアが変わったというよりも、対戦相手のチェコが明らかに意気消沈し、それまでのアグレッシブな姿勢を失ってしまったことによる部分が大きいように見えた。

最前線に仁王立ちしてボールをキープし、チームの押し上げを助けるコラーの故障欠場で、FWはアキレス腱炎から復帰したバロシュの1トップ。スピードが持ち味でDFを背負ってのプレーが苦手なストライカーは、前線を走り回ってパスを引きだそうとするが、カンナヴァーロのタイトなマークに遭い、前を向いてボールを持つことがまったくできない。チェコは、前線の唯一の駒だったバロシュの消耗とともに攻め手を失って行った。

しかし、1点リードした上、前半終了間際にポラクが退場したため、後半45分を11対10で戦うという優位を手にしたイタリアの振る舞いも、決して褒められたものではなかった。変な余裕が出たのか、ペースを大幅にスローダウン、試合を“眠らせ”にかかる。

だが残り10分ならともかく、後半の早い時間帯から1-0で満足する姿勢は、決してポジティブなものではあり得ない。案の定、逆にネドヴェドのミドルシュートを浴びるなど、やらずもがなのチャンスを何度か与える羽目になった。

結果的には、後がなくなったチェコが最後の力を振り絞って攻撃に出たその裏を突き、途中出場のインザーギが2-0のゴールを決めたとはいえ、あまりに消極的な後半のゲームマネジメントは、成熟というよりもむしろ未熟さを感じさせるものだった。

R16の相手はオーストラリア。グループ1位抜けでブラジルとの対戦を回避した上に、準々決勝でも好調スペインの回避が間違いないとあって、マスコミは早くも「ベスト4までは高速道路」といった楽観的な観測を囃し立てている。まさか、4年前のR16でヒディンクに苦杯を喫したことを忘れたわけではないだろうが……。□

(2006年6月20-22日/初出:『El Golazo』)

4)グループリーグ総括:アズーリ中間考査

終わってみれば勝ち点7でグループEを首位通過。
欧州・南米の強豪国が揃ってベスト16に進出するという波乱の少ない大会であることを考えれば、GL通過は最低限のノルマ以前、と言っていいかもしれない。イタリアも含め、決勝までの7試合を念頭に置いて準備を進めてきた国々にとって、ここは、まだ折り返し点にすら達していない場所なのである。本当の戦いが始まるのはこれからだ。

というわけで、決勝トーナメントを目前に控えたこの機会に、アズーリ主力選手のここまでの戦いぶりを、イタリアのマスコミではおなじみの(日本でもだいぶ浸透してきた)採点表方式でチェックしておくことにしよう。採点は10点満点で6点が及第点である。

◇ブッフォン(GK):6.5
3試合を通じて、飛び出し、セービングとも全くノーミス。今大会随一の安定度。スーパーセーブがないのは、単にDF陣がスーパーだから。
◇ザッカルド(右SB):5
初戦は無難にこなすも、2戦目に信じられないオウンゴールを決め、3戦目はスタメン落ち。もともとリザーブ要員だったことを考えれば、本来の場所に戻っただけともいえる。戦術的には申し分ないが1対1の守備スキルに大きな課題。
◇ネスタ(CB):6
最初の2試合は実力通りの活躍で敵FWを封じ込めるも、シーズン中から引きずる内転筋痛が再発し、第3戦途中でリタイア。まずは戦列復帰から。
◇マテラッツィ(CB):6.5
故障退場のネスタに代わってチェコ戦のピッチに立ち、10分後にはヘッドで値千金の先制ゴール。ラフプレーやファウルでチームに損害を与えなかった点も○。
◇カンナヴァーロ(CB):7.5
3試合を通してカウンターを浴びる頻度が高かったにもかかわらず、敵FWにほとんどシュートチャンスを与えず。危険察知能力、スピード、1対1の強さと駆け引きの上手さ。33歳にして今なお世界の五指に楽々入るCB。
◇グロッソ(左SB):5.5
初戦で守備に不安を残したことで、2戦目はベンチに格下げ。3戦目は先発したものの、まだ持ち味のメリハリある攻撃参加は見られず。次戦以降の成長に期待。
◇ザンブロッタ(左右SB):6
直前合宿での肉離れから復帰し、まだアイドリング状態。攻守のバランスを意識した堅実なプレーに徹する。ここから調子を上げて、強力なオーバーラップを炸裂させるか。

◇ペロッタ(MF):6.5
ピークにあるコンディションを生かして献身的に動き回り、中盤にダイナミズムをもたらす。アメリカ戦でハードタックルを受け太腿を痛めるも、3戦すべてに出場。
◇ピルロ(MF):7
中盤の底でメトロノームとして機能。攻撃のリズムを作りだす。SBの攻め上がりが増え、パスコースが広がれば、司令塔としての戦術センスがさらに際立つはず。シーズン終盤のもたもたが嘘のように、フィジカルコンディションも上々。
◇デ・ロッシ(MF):4
初戦で一発レッド相当のファウルを見逃してもらったにもかかわらず、2戦目では肘打ちを繰りだし退場、4試合の出場停止を受ける。攻守両面に高い才能を発揮し、今後10年イタリアの中盤を担うと評されるタレントだが、このラフプレー癖が直らなければ未来はない。
◇ガットゥーゾ(MF):6.5
開幕直前に痛めた太腿の肉離れから復帰したばかり。まだ完調とはいえなかったアメリカ戦では、退場したデ・ロッシの穴を埋めチームに魂を吹き込む。勝つか負けるかの決勝トーナメントでは、精神的支柱としての活躍を期待。

◇トッティ(FW):5
2月の足首骨折から復帰して、まだコンディションは75%。試合を重ねるごとに感覚を取り戻しつつあるとはいえ、運動量の少なさ、ラストパスの精度にまだまだ課題が残る。ここからの復調度合いが、イタリアがどこまで前進できるかの鍵を握る。
◇トーニ(FW):5
1トップでのプレーに慣れているため、なかなか2トップの感覚が掴めず、ジラルディーノとのシンクロニズムは今一歩。献身的に動いてポストプレーを繰り返すも、その疲労からかシュートの局面では明晰さを欠く。チェコ戦はスタメン落ち。
◇ジラルディーノ(FW):5.5
トーニよりコンディションがいい分、敵CBとの駆け引きで疲れを誘う下働きでは貢献度高し。流れの中での動きはまだ不満が残るが、チェコ戦でセットプレーから決めたゴールが、ブレイクのきっかけになるか。
◇イアクインタ(FW):6.5
運動量と戦術的有用性を買われてFW3番手に昇格。ガーナ戦で早速ゴールを決める。リードしている時の守備固めに投入されカウンターを狙うのが仕事か。
◇インザーギ(FW):6.5
イアクインタにも先を越され「第4のFW」にとどまるも、チェコ戦で途中出場した途端、すかさずゴールを決めて決定力の高さをアピール。決勝Tでは、スーパーサブとして活躍を期待。リードされている時にはやっぱりこの人でしょ。
◇デル・ピエーロ(FW):5
音信不通。

(2006年6月24日/初出:『Yahoo! スポーツ・WC2006』)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。