非常にありふれた病気でちょっとばかり入院したりして、また間が空いてしまいました。「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その2は、ユーロ2004の後、マルチェッロ・リッピが監督に就任して半年あまり過ぎた後に戦った、ワールドカップ予選・スコットランド戦のマッチレポートです。

この頃は、イタリアの未来はジラルディーノとカッサーノの2トップにあるように見えていたわけですが、それから3年経った今、アズーリの前線を支えているのは、彼らより5歳も年上ながらこの当時まだ代表ではまったくの新顔だったルカ・トーニだったりします。

ジラルディーノは技術的・メンタル的な限界を露呈してミランからも代表からも失格の烙印を押され、カッサーノはせっかく復活してキレまくっていたのに、別の方でもキレちゃってスイス/オーストリア行きのドアはほとんど閉ざされてしまいました。

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「やっとカッサーノを招集できた。チームに創造性と意外性、そしてクオリティを与えてくれる選手だから、じっくり試してみたいと以前から思っていた」

代表合宿初日の記者会見、マルチェッロ・リッピ監督は、ローマの天才児、アントニオ・カッサーノへの期待を隠さなかった。

代表招集は、昨年6月のユーロ2004以来。屈辱的なグループリーグ敗退を喫したイタリア代表の中で、全3ゴールのすべてに絡み、ひとりまばゆい輝きを放ったことは今も記憶に新しい。だが今シーズンは、その放縦な性格が災いして所属するローマで監督とのもめ事が絶えず、また故障で戦列を離れるなどして、代表でプレーするタイミングを逸してきた。

トラパットーニ政権下の4年間に大きなメンバーの変動がなかったイタリア代表は今、ドイツ2006、そしてその先の未来に向けて、本格的な世代交代の時期を迎えつつある。フランス98からユーロ2004まで、7年間に渡ってセンターフォワードの重責を担ったビエリも今や31歳。デル・ピエーロも気がつけば30歳の大台に乗っている。そして、今回の招集リストの中に、彼らの名前はない。

「デル・ピエーロと私は10年来の付き合いだ。ワールドカップに向けたプロジェクトに彼の名前が含まれていることは、本人も良く知っている。当然ビエリも同じだ」

その言葉とは裏腹に、リッピ監督がこのスコットランド戦のピッチに送り出したメンバーは、彼らの時代を過去に追いやるような顔ぶれとなっていた。

2トップを組むのは、期待のカッサーノと、アルベルト・ジラルディーノの22歳コンビ。ジラルディーノは、ここまでのワールドカップ予選4試合すべてに先発しており、もはやエースストライカーの座を手に入れた感すらある。チーム全体の平均年齢も25.7歳と、ユーロ2004の28.2歳から2歳半も若返った。

もうひとつ、トラパットーニ時代とはっきり異なっているのは、テクニックのある攻撃的なプレーヤーを躊躇なくピッチに送り、積極的に試合の主導権を握ってゴールを狙う布陣となっていることだ。

前線の構成は、若い2トップに加えて、1・5列目に不動のエース、フランチェスコ・トッティを配した強力なトライアングル。これまでなら、それを支える中盤には守備的なプレーヤーが並んだものだが、今回は違う。相手の攻撃を潰す“壊し屋”は、センターレフトに入ったガットゥーゾひとり。

卓越したゲームメイク能力を持ちながら、守備に不安があるという理由で代表ではあまり起用されなかったミランの頭脳・ピルロが中央に陣取り、守備よりは攻撃で持ち味を発揮するカモラネージがセンターライトに入るという、3センターハーフのテクニカルな中盤である。

システムは4ー3ー1ー2。マスコミの中には、「あまりに“前輪駆動”に過ぎる。中盤の守備が手薄にならないか」と不安視する向きすらあったほどだった。

だが、この日の対戦相手スコットランドは、FIFAランキング88位(北朝鮮のひとつ上)というデータが示す通り、明らかに格下のチームだ。アウェーだけに、がちがちに守りを固めて引き分けの1ポイントをもぎ取りに来ることは、容易に予想できた。リッピ監督が、それを力ずくでこじ開けるための布陣を選んだことは明白だった。

試合が行われたのは、ミラノのサン・シーロ。ちょうど、キリスト教の暦でクリスマスの次に重要な復活祭の連休と重なった上に、夕方から雨が降り出したこともあり、スタジアムの入りは今一つ。約8万人収容のスタンドは半分程度しか埋まらず、しかもそのうち1万5000人は、はるかスコットランドからわざわざ飛んできた、陽気な“タータン・アーミー”の皆さんだった。

ビール腹をレプリカユニで隠し、下はタータンチェックのキルト、白いハイソックスになぜかワークブーツという彼らだけの定番に身を包んで、ゴール裏を埋め尽くし大声で声援を送る。残りのスタンドを埋めた2万5000人ほどのイタリア人は、応援ではむしろ押され気味だった。

とはいえ、降りしきる雨の中、ピッチ上の戦いが幕を開けると、押し込んだのはもちろんイタリアの方である。スコットランドが、1トップのミラーを残して9人で自陣に引きこもったこともあり、最初の20分はボールこそ支配するものの、なかなかフィニッシュまでたどりつけない。

きっかけを掴んだのは、25分、ピルロがラインの裏を狙って蹴り出したピンポイントのロングパスに反応したカッサーノが、ダイレクトでボレーシュートを放ったところから。これはGKの好セーブに阻まれたものの、ここからイタリアが勢いづく。

攻撃の土台になっているのは、ピルロを核とする中盤の安定したボールポゼッション。ここから前線にクサビの縦パスが入ると、一気に局面が加速する。DFを背負ったジラルディーノが正確なポストプレーでカッサーノやトッティにボールを落とすと、そこから速いダイレクトパスをぽんぽんとつないで狭いスペースに入り込み、そのままシュートまで持ち込んでしまうのだ。

「トッティ、カッサーノと一緒にやるのは初めてだったけれど、ダイレクトでボールが動かせるのでやりやすい。タイミングが合えば、狭いスペースでもこじ開けてシュートを打つことができる。今日は何度かそれがすごくうまく行った。またこのメンバーでやってみたい」

試合後にジラルディーノが振り返ったように、29分から34分までの5分間に3度、スピードに乗った華麗なコンビネーションからカッサーノが裏に抜け出す場面が生まれた。しかし残念ながら、いずれもギリギリのオフサイド。その間には、ジラルディーノも惜しいヘディングシュートを1本放っている。

そして35分、そのジラルディーノがポストでパスを受けたところを潰され、絶好の位置でフリーキックを得る。

「ああいう質の高い攻撃を続けていれば、シュートにつながるか、セットプレーのチャンスが得られるものだ。我々にはFKの名手がいる。相手の固い守備にはね返され続けても、その頭越しにゴールを決める別の手段があるということだ」

そうリッピ監督が試合後に語った通り、それまで脇役だったピルロがここで登場、壁を巻いてゴール左隅に飛び込む狙いすました一撃を決めて、やっと1ー0と先制。その後も勢いに乗ったイタリアが一方的に攻め続け、スコットランドは一本のシュートすら打てないまま、前半終了のホイッスルを聞くことになった。

後半もこのままの流れでイタリアが追加点を挙げ、楽勝するだろうと誰もが思ったに違いない。ところが、立ち上がりから流れに乗ったのはスコットランドの方だった。リードして安心したのか、集中を欠いたイタリアの隙を突き、52分、53分と立て続けにフリーでシュートを放つ。しかしこれはGKブッフォンが好セーブ。危ないところでピンチを逃れた。

その後はイタリアも気を引き締めたものの、コンディションが万全ではなかったトッティの運動量が目に見えて落ちたこともあって、攻撃に前半のような鋭さが戻らず、試合は膠着状態に入っていく。

リッピ監督は、72分にトッティを下げてデ・ロッシを中盤左サイドに入れ、システムを4ー4ー2に変更、間延びしがちだった陣形をコンパクトに修正。これでチームが引き締まり、イタリアがペースを手元に引き戻す。そして85分、1点目と同じような位置で得たFKを、ピルロがリプレイを見るように瓜二つの弾道で決め、戦いの幕を引いた。
 
イタリアはこの勝利でグループ5首位の座を固め、ドイツに大きく近づいた。とはいえ、この国にとって本大会出場は当然の義務。リッピ監督にとっては、目先の結果はもちろんだが、それ以上に本大会に向けたチーム作りが関心事であるはずだ。その点からいえば、カッサーノという希有なタレントが、すんなりとチームの組織に収まり機能したことは、間違いなく大きな収穫だったといえるだろう。

的確なポストプレーとスペースを作る動きで、コンビネーションの基準点として機能するジラルディーノ。頻繁に中盤に戻り、そこからワンツーで攻め上がり、あるいは絶妙のアシストを送るトッティ。そして、左寄りの位置を起点にタイミング良く中央に走り込み、トリッキーなプレーでDFを翻弄してシュートを狙うカッサーノ。

これが初めての“共演”にもかかわらず、三者三様の個性を発揮しつつ連携し合い、立て続けにチャンスを演出した前半のプレーは、このトリオが秘める底知れぬ可能性を感じさせるに十分な内容だった。試合後、リッピ監督は次のように語っている。

「カッサーノは曲芸じみたプレーを狙いすぎる? いや、あれは狙っているのではない。その時にはそれこそがベストの選択だという確信があるから、自然にそういうプレーが出てくるだけのことだ。満足しているか?もちろんだ。彼も含めて前の3人のプレーには心から満足している。あれだけ守りを固められてほとんどスペースがない中、それを崩してチャンスをつくるのは、本当に難しいことだったのだから」

アズーリ攻撃陣の世代交代は、彼の中ではすでに完了しているのかもしれない。■

(2005年3月31日/初出:『SPORTS Yeah!』)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。