ミランに続いてインテルもイングランド勢の前に敗退。2週続けてサン・シーロで敗退劇に立ち合う羽目になってしまいました。これでイタリア勢はローマだけ。

そんなこんなでこのアーカイヴも更新が滞ってしまいました。今回は、もう4年前の出来事になってしまったユーロ2004(ギリシャが優勝したのでした)に向けて意気上がる2003年秋のイタリア代表をめぐる、フランチェスコ・トッティのインタビューです。

ちょうど同じ頃、別のところに書いたイタリア代表の短いレビューも、イントロとしてつけておきました。インタビューの最後の方、人間は失敗から学ぶもの云々というコメントは、半年後にポルトガルで何が起こったかを思い出すにつけても、非常に示唆に富んだお言葉だと思います。ええ、人間なんだから時には失敗を繰り返すことだってありますとも。

トッティは結局、ポジティブな意味での主役になることができないまま、代表に自ら別れを告げることになったわけですが、イタリア人であるというアイデンティティよりも、ローマ人であるというそれの方がずっと強い人だけに、彼にとってはしごく自然な選択だったのだろうという気がします。

その結果として、ローマというクラブが近年にないほど質の高いサッカーをするチームに成長してCLで2年続けてベスト8まで勝ち進み、インテルとスクデットを争うところまで来たわけですから、彼も本望でしょう。アズーリの方もun potenziale problema in menoという側面があったりして……。

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<イントロ:攻撃志向でユーロ2004をめざすアズーリ>

10月11日の欧州選手権予選最終戦、イタリアはアゼルバイジャンを4-0と一蹴し、グループ9首位で本大会出場を決めた。ちょうど1年前の昨年10月、ナポリでセルビア=モンテネグロと引き分け(1-1)、カーディフでウェールズに1-2の完敗を喫した時には、グループ2位の座すら危ぶまれるほどだったことを考えれば、望外のハッピーエンドといってもいいだろう。

この試合の1週間ほど前に、イタリアのディフェンスを支えるアレッサンドロ・ネスタが面白いことを言っていた。

「アズーリというのは、結局その時々のイタリアサッカーを映し出す鏡なんだよ。ワールドカップ当時は、まだセリエAのクラブに攻撃的なメンタリティは浸透していなかった。代表だって、その頃はフォワード1人とトッティしか前線に置かなかっただろ。

でも昨シーズン、ミランやユヴェントスがそれを全面に打ち出したサッカーで成功を収めたことで、今年はカンピオナートでも多くのチームが攻撃的に戦うようになってる。代表も同じ。今はヴィエーリ、トッティ、デル・ピエーロ、カモラネージが一度にピッチに立っているからね」

トラパットーニ監督が、96年のマルディーニ監督就任以来続いてきたアズーリの3-4-1-2システムを、より守備的な4-4-1-1に突然変更したのは、2002年ワールドカップ前夜のことだった。結果はベスト16での屈辱的な敗退。

イタリア中から非難を浴び、チームの結束も乱れるという“ワールドカップ後遺症”から完全に立ち直らないまま臨んだ昨年秋のセルビア戦、ウェールズ戦では、ミランで売出し中だったピルロをボランチに起用したものの、付け焼き刃の印象は免れず、まったく組織的連携が欠けていた。

しかし今年に入ると、4-4-1-1の中盤両サイドにカモラネージ(フィオーレ)とデル・ピエーロ(デルヴェッキオ)を置くことで、システムは4-2-3-1に近くなった。さらに、元々はウイングだったザンブロッタが左サイドバックに入ったことで、攻撃志向はさらに強まっている。チームとしての一体感も戻ってきた。

トラップ自身は「システムも戦い方もワールドカップの韓国戦から変わっていない」と言い張っている。しかし、起用する選手、そしてチームとしてのメンタリティが変わったことで、アズーリの戦い方が、ワールドカップ当時とははっきりと異なるものになっていることは、誰の目にも明らかだ。

そしてこの変化は、ネスタが言う通り、この1年半にイタリアサッカーに起こった様々な動きと符合している。ミランはもちろん、3トップで戦うユーヴェやローマ、4-4-2ながら思い切り良く攻撃に人数をかけるラツィオやキエーヴォなど、今やセリエAは2、3年前とは比較にならないほど、攻撃的なメンタリティが幅を利かせているからだ。

アズーリがこの流れに乗って来年6月を迎えるとすれば、ユーロ2004はかなり面白いことになりそうな気がする。■

(2003年10月14日/初出:『スポマガWorldSoccer』)

<インタビュー:フランチェスコ・トッティ>

ヨーロッパ選手権予選グループ9。レッジョ・カラブリアでの最終戦でアゼルバイジャンを一蹴したイタリアは、グループ1位で本大会への出場権を獲得した。

結果だけを見れば順当に見えるかもしれないが、ここまでの歩みは決して楽なものではなかった。緒戦のアゼルバイジャン戦は楽々とクリアしたものの、ホーム(ナポリ)でセルビア=モンテネグロに引き分け、アウェイ(カーディフ)でウェールズに敗れるという躓きを見せて、3試合を消化した時点での勝ち点は4。

1年前の今頃には、3連勝(勝ち点9)で首位を走るウェールズに5ポイントの差をつけられ、グループ1位での勝ち抜けはもちろん、プレーオフへの出場権確保すら危ぶまれていたのだ。

フランチェスコ・トッティは、当時をこう振り返る。
「ワールドカップの敗退からこっち、代表の周辺でゴタゴタが続いて、グループの結束も崩れていた。みんな自分のことばかり考えて全体の利害を考えなかった。それでチームがおかしくなって、思ってもみなかった醜態をさらしてしまったんです。1年前の今ごろは、グループ首位はもう絶対に無理だと思われていた」

ヴィエーリ、デル・ピエーロといった主力選手が、監督の采配への批判を口にして波紋を巻き起こしたことからもわかる通り、イタリアは2002年の秋になっても“ワールドカップ後遺症”を引きずっていた。そして当のトッティは、小さな故障に頻繁に襲われ、代表の大事な試合を欠場し続けていた。ナポリにもカーディフにも、アズーリの大黒柱たるトッティの姿はなかった。

「代表の試合が近づくと何故か、1週間、2週間前に必ず故障するというのが続いて、ずっとアズーリでプレーすることができなかったんです。チームがうまく行ってないのを外から見ているだけというのは、すごく歯がゆいし辛かった。そういうときはやっぱり、もし自分がいたら勝てたかもしれないのに、と思ったりもしましたよ。でも結果が出ている時には、そういうことは考えずに済むわけで……」

ユーロ予選でも結果を出せず、解任の危機に追い込まれたトラパットーニ監督は、意を決してチームの再構築に着手する。ワールドカップで採用した守備的な4-4-1-1システムに手を加え、中盤両サイドをより高い位置に上げて攻撃的にプレーさせる4-2-3-1へと変化させたのだ。

効果はすぐに表れた。今年3月にユーロ予選が再開すると、ホーム(パレルモ)でフィンランドを2-0で下し、6月にもアウェイのヘルシンキで再び2-0。やっと故障から逃れて“アズーリの10番”に復帰したトッティは、1ゴール3アシストと、この4得点すべてに絡んだ。

「以前とはシステムも変わったし、戦い方も変わった。今は、チームの攻撃的なポテンシャルを最大限に引き出そうとしています。ぼくは正しい選択だと思います。イタリアには攻撃的に戦うのにふさわしい選手がたくさんいるわけだから。トップレベルのアタッカーが揃っている以上、その力を生かそうとするのは当然だと思います。それによって、いつ何時にでも敵のディフェンスを窮地に陥れることができるし。

確かにワールドカップでは、こういう戦い方、こういうメンタリティが持てなかった。たぶん監督は、これだけ強力な攻撃陣を擁していることに自信が持てなかったんでしょう。ユーロ予選で再スタートを切った後一度追い詰められて、このチームの強みがどこにあるかを改めて見いだしたんじゃないですか」

そう、イタリアはトッティ、ヴィエーリ、デル・ピエーロ、インザーギと、世界的なストライカーを4人も揃える豪華な攻撃陣を擁している。世界を見渡しても、これだけ強力な、しかもバラエティに富んだアタックは他に例を見ない。ただし、攻守のバランスが重視される真剣勝負のヨーロッパ選手権で、トラップがこの4人を同時にピッチに送ることは考えにくいことも事実だ。
 
――最近あなたがアズーリでプレーした時には、2つの異なるシステムが採用されていました。ひとつは1トップのヴィエーリの下に3人の攻撃的MFが入る4-2-3-1、もうひとつは2トップの下にあなたが入る4-3-1-2。チームの戦い方も、あなたのプレーの内容も変わってくると思いますが。

「ええ。毎回少しずつ変わります。故障や出場停止で誰かしらメンバーが欠けて、監督はそれを解決しなければなりませんからね。その時々によって、前寄り、下がり目、やや外に開いた位置、いろいろなポジションでプレーしてきました。でもぼく自身にとっては大した違いはない。攻撃的なポジションならどこにでも対応できますから」

――1トップの後ろだと、より前寄りでプレーすることになりますよね。
「それは当然そうですよ。あの位置だとフィニッシュに絡む頻度が高いから、他のポジションと比べるとゴールを決めるチャンスも増える」

――2トップの後ろでプレーする時には、何を考えますか?
「前線のチームメイトをベストな形で生かすことを第一に考えますね。この間のアゼルバイジャン戦もそうだったでしょ。2トップの下だと、自分がシュートゾーンに上がっていくよりも、前の2人にアシストを送る機会の方が増えるから。中盤に戻って組み立てを助ける場面が多くなりますが、同時に前線もサポートしなければならない」

――どっちのポジションが好きですか?
「どっちともいえないな。それぞれ違う楽しさがあるから。フォワードはゴールを決めるのが仕事になる。ゴールを決めるのは大好きですからね。でもチームメイトにゴールを決めさせるのも同じくらい好きだから、2トップの後ろでプレーするのも悪くない。どっちもOKですよ」

――個人的にはどっちのシステムが代表に合っていると思いますか?
「ぼくは今のシステムがいいと思いますね。1トップの下に3人並ぶ形。その方が前線にスペースができて、ぼくたちの直観的なコンビネーションが生かしやすいですから」

――どちらのシステムで行くにしても、一度にピッチに立つのは4人の攻撃陣のうち3人までですが……。
「まあそれはそうですよ。4人のアタッカンテを同時にピッチに送るのは簡単じゃありません。チーム全体のバランスも必要ですからね。監督は今のシステムにそのバランスを見いだしたと思うし、あとは一番コンディションがいい選手がプレーするということです。普通のことですよ」

――他の3人はそれぞれタイプが違う選手ですよね。
「ヴィエーリはフィジカルがすごく強い。インザーギは特別なゴールセンスを持っています。デル・ピエーロは真のタレントですね」

――ひとりひとりに対して出すパスの質も違うと思います。
「ぼくはいつも相手がプレーしやすい、いいボールを送ろうと考えながらやっています。ひとりひとりプレーの特徴も違うわけだから、それによってパスの出し方も変わってくるのは普通ですよ。

例えばフィジカルが強くてボールをキープできるヴィエーリには、ゴールに背を向けたその足下にパスを送ることが多いし、いつも裏に抜けることを狙っているインザーギには、スペースにボールを出すことが多い。デル・ピエーロの場合も足下ですね。その先は彼が考えるから」

――デル・ピエーロは、今のシステムだと左にやや開いたポジションでプレーしています。
「ええ。彼の好みのポジションじゃありませんけど、レギュラーとしてピッチに立つためには、多少の犠牲を払うことも時には必要だし、それは彼も分かっていると思います」

4-2-3-1と4-3-1-2、どちらのシステムでも定位置を確約されているのは、ヴィエーリとトッティのふたりだけだ。この事実ひとつを取ってみても、トラパットーニ監督が寄せる信頼の大きさがわかる。

そしてトッティ自身、その信頼にふさわしいプレーヤーに成長したことを、強く自覚しはじめている。10月のアゼルバイジャン戦を前にした代表合宿での記者会見では「27歳を迎えて、そろそろ絶頂期に入ったと感じている」、「今年のバロン・ドールにふさわしいのはトッティ」とまで明言した。

「絶頂期という言い方をしたのは、自分の成長が高原みたいなところに達した感じがするということです。自分が変わってくるのを見てきて、プレーヤーとしてもひとりの人間としても、十分成熟した感覚があるというか。歳をとって、経験を積んで、いろんな意味で成長したと思います」

――自分のプレーも歳を経るにつれて変わってきたと?
「経験を積み重ねるにつれて、プレーヤーとして成長するのは当たり前のことですよね。以前にはできなかったことが、普通にできるようになる。でも、ある年齢を過ぎると今度は衰えが始まるわけで。

今のぼくはまだそこまで行っていなくて、でもたくさんの経験を積んで成長し、成熟してきた。頂点と言ったのはそういうことです。以前は難しかったことも今では自然に、簡単に、そして直観的にできるようになった」

ユーロ2004まであと7ヶ月。トッティがライバルに挙げたのは「いつもの相手」、つまりフランス、イングランド、ドイツ、そしてスペイン(もしプレーオフで勝てば)だった。チェコは「意外な主役になる可能性がある」し、ポルトガルは「ホームだから勝ち進む条件は整っている」が、上の4チームよりは1ランク落ちるという。

「今はまだユーロのことは何も考えません。1ヶ月前は、出場権を勝ち取ることを第一に考え、代表の一員としてそれを勝ち取った。今からシーズンが終わるまでは、まずクラブのことを考えながらプレーする時期です。今はそっちの方が重要ですからね。5月になったら代表のことを考えますよ」

――ワールドカップの失敗を経て、いまのあなたは人間的にも一回り大きくなった印象があります。
「さっきもいったように、人間は経験を積み重ねて成長するものですからね。失敗から学ぶことは少なくない」

――多分トラパットーニ監督もそうですよね。今のイタリアはワールドカップの頃よりもずっと攻撃的になった。
「ええ。これだけ攻撃的に戦ったことはこれまで一度もなかったと思います」

――失点のリスクを冒してもね。
「そう。というのも、これだけの攻撃陣が揃っていれば、1点、2点を取り返すのは難しくありませんから。だから、常に相手よりも1点多く取ることを目指して戦うことができるし、そうするべきだと思います」

――イタリアは優勝できると思いますか?
「そう願っていますよ。簡単じゃないと思うけど。手強い相手もたくさんいるし、運もある。どんな時でも、最後の審判を下すのはピッチなんです」■

(2003年11月19日/初出:『SPORTS Yeah!』)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。