06-07シーズンの終わりに『footballista』に書いた、CLの未来像についての原稿。同誌の最新号に寄せた原稿と内容が同じじゃないか、という声もあるかと思いますが、そこは、(手前味噌ながら)意見にブレがないとか先見の明があったとか、そういうポジティブな側面に目を向けてお許しいただければと。

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今年の1月にUEFA会長に選任されたミシェル・プラティニは、会長選挙への出馬にあたって「スペイン、イングランド、イタリアからCLに各4チームは多すぎる。予備予選枠をなくす代わりに3チームを上限として、その枠を中堅国に回すべき。ポーランドやブルガリアにもCLに出場する権利はある」と語り、この改革を半ば公約のような形で掲げるなど、現在のビジネス・オリエンテッドなCLのあり方に否定的な見解を表明してきた。

さる5月28日にチューリッヒで開かれたUEFA特別総会では、各国のリーグ、クラブ、選手の代表からなるプロサッカー戦略評議会を設置し、メガクラブと中小クラブ、強豪国のスター選手と弱小国のセミプロ選手が同じテーブルに着いて、欧州サッカーの未来について話し合っていく仕組みがセットアップされた。CLの改革案も、そこで取り上げられることになるものと見られる。

もしプラティニが提唱してきた改革案が実現するとなれば、CLはいったいどんな方向に向かうことになるのだろうか。

表3は、UEFAが過去5年の欧州カップにおける成績を元に算出しているカントリーランキング上位20ヶ国のリーグ優勝クラブがそれぞれ、UEFAクラブランキング(元になっているデータは同じ)で何位にいるかを示したもの。ウクライナ以下の中堅国チャンピオンは、軒並み50位以下である。レベル的には、53位のアンデルレヒトが今シーズンのGLで軽く敗退したくらいだから、それ以下は推して知るべし。

強豪国の参加枠が減り、これら中堅国に本戦出場のチャンスが増えればCLはどうなるのか。明らかに予想できるのは、グループリーグの試合の質が低下することだ。強豪同士が同じグループに入る可能性が減り、1強3弱のグループが増える。マスコミが注目するビッグカードは少なくなり、強豪はもっぱら格下と戦って、早々と勝ち上がりを決めることになるだろう。

逆に、グループ2位争いは白熱するかもしれない。だが、例えばレフスキ・ソフィア対FCチューリッヒの試合が、どれだけ世界中の人々の関心を引くだろうか。セヴィージャ対ラツィオほどでないことは確かだろう。世界市場全体で見れば、グループリーグへの注目度は下がる可能性が高い。

ベスト16はともかく、ベスト8に勝ち残る顔ぶれは、強豪国のメガクラブに固定化されたままだろう。準々決勝から先に、ヨーロッパの頂点を争う最高レベルの戦いが凝縮されるという点でも、今とまったく変わらないはずだ。とはいえ総合的に見ると、エンターテインメント・コンテンツとしての市場価値は、グループリーグの興味が薄れる分低下することになりそうだ。

一方、間接的な波及効果としては、強豪国の国内リーグ活性化(CL出場枠がひとつ減れば競争は激化する)、そしてUEFAカップの再活性化が予想される。これまでCLの常連だったメガクラブも、ひとつ間違うとUEFAカップに格下げになるわけで、CL拡大と反比例して権威と注目度が低下し、今や「欧州カップのセリエB」と化していたUEFAカップが、かつてのような魅力を取り戻す可能性がある。もし本当にそうなって、CLへの一極集中が緩和されるのだとしたら、欧州サッカー全体にとっては悪いことではないだろう。

チャンピオンズリーグを、エンターテインメント・コンテンツとしてのみとらえ、ビジネスの論理を徹底して貫こうとするのならば、UEFAクラブランキングの上位32チームを集めた、文字通りの「欧州最強クラブ決定戦」にするのが一番いいはずだ。

現在のランキングをもとにした時の国別の出場クラブ数は、スペイン7、イングランド6、イタリア5、ドイツ4、フランス3、オランダ3、ポルトガル2、ギリシャ1。それ以外の国の弱小クラブはお呼びでない、ということになる。これならば、試合のレベルはグループリーグから今よりもずっと高くなるし、毎週注目カードの連続になるだろう。

しかしこのコンペティションの元々の姿は、UEFA加盟各国のリーグ優勝チームが、トーナメント方式で欧州チャンピオンを決める欧州チャンピオンズカップである。つい10数年前までは全UEFA加盟国に、それこそルクセンブルグやマルタのクラブにだって出場権があったのだ。

CLというコンペティションは、UEFAの収入の8割以上を占めるほど巨大なビジネスとなっている。しかし、そのビジネスが生む利益を、ごく一握りのメガクラブが山分けし、その後にはペンペン草すら生えない(というのは言い過ぎだが)現在のあり方は、欧州サッカー界全体の発展にとって、好ましいことなのだろうか。プラティニがCLの改革を提唱する背景にあるのは、まさにその問いかけである。

プラティニはUEFA特別総会のスピーチで、こう語っている。「ビッグクラブに対して、公にこうお願いしたい。数多くの対立や訴訟を引き起こした自己中心的なエリート主義を捨て、他の全てのクラブに手を差し伸べてほしい。あなた方の経験と考えを欧州サッカー発展のために提供してほしい。全てのメンバーが民主的に力を合わせることによって初めて、サッカーの世界をより良くしていくことができるのだから」。

資本の論理による競争と寡占から、協調主義的な共存共栄へ。限られたエリートを潤すビジネスの拡大よりも、欧州全体におけるスポーツとしてのプロサッカーの総合的な発展へ。プラティニの思想は明確である。

CLのフォーマットが次に変更されるのは、09-10シーズンから。もし本当にプラティニの提唱する方向で改革が行われるのであれば、92年のCLスタート以来、初めての「揺り戻し」ということになる。

ヨハンソンからプラティニへの政権交代によって、欧州サッカー界は、ビジネス化一辺倒の時代から、ビジネスの論理とスポーツの論理のせめぎ合い(あるいはバランス)の時代へと入った。それは、決して悪いことではないように見える。□

(2007年5月31日/初出:『footballista』)

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。