ブラッターに足を引っ張られて共倒れの形で失脚してしまったミシェル・プラティニですが、このGー14解散からCLやEUROの門戸拡大、そしてファイナンシャルフェアプレーまで、UEFA会長として実現した「ビジネスとスポーツのアンバランスを是正する」一連の施策が、フットボールの世界にとって大きな意義を持つ偉業であることに変わりはありません。プラティニが失脚したとたんに、ECA(下のテキスト参照)がスーパーリーグ構想を蒸し返してきたのは象徴的です。

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「G-14が解散」。
この予期せぬニュースが突然飛び込んできたのは、1月15日夕方のことだった。

読者の皆さんなら御存じの通り、G−14は欧州サッカー界の主役ともいえる各国の主要クラブ18チーム(1997年の結成当初は14チームだった)が参加する利益団体である。「THE VOICE OF THE CLUBS」というキャッチフレーズが示す通り、メガクラブの利害を代表してFIFAやUEFAに要求を突きつける圧力団体のような存在で、チャンピオンズリーグの拡大をはじめ、欧州プロサッカーのビジネス化を進めてきた張本人と言ってもいい。

そのG-14が解散するというのだから、これは欧州サッカー界の枠組みを左右する大事件と言うべきだろう。

解散が決められたのは、この日チューリッヒのFIFA本部に、FIFA、UEFA、そしてヨーロッパを代表する12のメガクラブの首脳陣、それぞれの代表計29人を集め、「サッカー統括団体とクラブとの新たな関係を確立するため」(FIFAニュースリリースより)に開かれた会合の席において。この会合で確認された合意事項は、これまで多くの点で立場と意見を異にしていたG-14とFIFA、UEFAの間に、文字通りの「歴史的和解」をもたらすものだった。

その合意の内容は、簡単に整理すると以下のようになる。

1)欧州クラブ連盟(ヨーロピアン・クラブ・アソシエーション=ECA)の設立
UEFA公認のこの組織には、UEFA加盟53カ国から100を超えるクラブが参加し、クラブの利害を代表してUEFAの意思決定プロセスに参画する。

2)G-14の解散
ECA設立に伴って、制度的な正当性を持っていなかったG-14は解散する。

3)対FIFA、UEFA訴訟の取り下げ
サッカー界内部の問題を一般の司法機関に持ち込まず、ECAを通した意思決定への参加を通じて内部で解決するものとする。現在クラブがFIFA、UEFAを相手取って行っている訴訟はすべて取り下げる。

4)代表選手に対するクラブへの報償金
FIFA、UEFAは、ワールドカップと欧州選手権に出場した選手について、クラブに報償金を支払う仕組みを確立する。
 
「フットボール界全体の勝利」。FIFAとUEFAが当日に出したニュースリリースのタイトルが、この合意の重要性を端的に示している。ニュースリリースは、その意義を次のように要約している。

「この展開は、ジョゼップ・ブラッターFIFA会長とミシェル・プラティニUEFA会長の政治哲学、すなわちサッカー界の意思決定プロセスには重要なステークホルダーすべてが参加するべきであり、すべての問題はフットボールファミリーの内部で解決すべきであるという考えに正しく沿ったものである」

これは実のところ、フットボール界全体というよりは、ブラッターとプラティニの勝利というべきだろう。

この合意によってFIFAとUEFAが得たものは、決して小さくない。G-14を通じて自らの経済的な利害を強引に押し通そうとしてきたメガクラブとの対立関係を、ECAという形ですべてのメガクラブを自らの内部に取り込むことによって解消しただけでなく、ボスマン判決から現在係争中だった代表での故障についての補償問題(G-14は過去10年に所属選手が代表で被った故障への補償金として8億6000万ユーロ—約1兆3700万円—をFIFAに要求する訴訟を欧州裁判所に起こしていた)まで、外部の司法機関を通じてサッカー界のルールに重大な変更を強いられるというリスクを、全面的に排除することにまで成功したのである。

今回の合意は、昨年末に発表された09-10シーズンからのチャンピオンズリーグ新フォーマットに続き、UEFA会長としてプラティニが実現した大きな成果である。注目すべきは、クラブ側もこの合意を(少なくとも表向きは)はっきりと歓迎していること。会合に出席したバルセロナのラポルタ会長は「友情と信頼はスポーツの基盤。プラティニが会長就任時に約束した変革を実現しつつあることを評価したい」とコメントしている。

この10年間、ビジネス一辺倒に向かっていた欧州サッカーの流れは、ビジネスの論理とスポーツの論理との適正なバランスに向けて、揺り戻しの局面に入った。プラティニの手腕は確かである。■

(2008年1月18日/初出:『footballista』連載コラム「カルチョおもてうら」)

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。