今シーズンもセリエAではぼちぼち監督交代が始まっています。とはいえ11月はじめの時点で一番下の2つだけですから、例年と比べるとまあまあましな方かもしれません。監督交代のメカニズムについて2年半ほど前に書いた、比較的新しいテキストを。本文最後の方で、監督交代に慎重なクラブの典型としてミランが挙げられているのはご愛嬌w

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ヨーロッパのトップリーグの中でも、シーズン中の監督交代が際立って多いのがイタリア・セリエAだ。

今シーズン(12-13)も4月半ばの現時点で、全20チームの4割にあたる8チームで、計13回も指揮官の首が飛んだ。複数回の解任を行ったのは3チーム。中でも残留争いのまっただ中にいるパレルモは、今季新たに迎えたサンニーノをたった3試合で更迭したのに始まって、ここまで計4回もの途中解任を繰り返している。その結果、現在チームを率いているのが最初に解任されたサンニーノだというのだから、もうわけがわからない。

これは極端なケースだが、リーグ全体を見ても、今シーズンが特に解任頻度が高いというわけではない。07-08から11-12シーズンまでの5年間を平均してみると、監督交代に踏み切ったチーム数は全体の半分弱にあたる9.6、解任の合計回数は13.6。今シーズンの数字も、まずまず「平年並み」の水準ということになる。

他の主要国を見ると、フランス・リーグ1が今季ここまで4チーム、プレミアリーグ、ブンデスリーガはいずれも5チームしか監督交代を行っていない。リーガ・エスパニョーラは7チームとイタリアに近い数字だが、トータルの解任は8回だからセリエAと比べればずっと少ない。

では、イタリアではどうして監督交代がこれほど頻繁に行われるのだろうか?

最大の理由として挙げられるのは、カルチョの世界全体を支配する極端なまでの結果至上主義だろう。よく言われることだが、この国においては、クラブ、チームから監督、選手まで、すべてを評価し判断する唯一の基準は勝ち負けであり、それ以外では決してない。

サポーターがチームに要求するのも、ただただ結果である。チームがどんなにスペクタクルなプレーを見せても、試合を落とせば負けたという結果だけが大きく取り上げられ、いいサッカーをしたことは忘れられてしまう。

ユヴェントス、ミラン、インテルというメガクラブは、スクデットを獲得できなければそれだけでそのシーズンは失敗とみなされるし、どのクラブにとってもセリエB降格は絶望的な悲劇だと受け止められる。

現在パリ・サンジェルマンを率いるカルロ・アンチェロッティから、以前こんな話を聞いたことがある。

「ヨーロッパの他の国々では、サッカーの試合は人々にとってひとつの祝祭であり、何よりもこのスペクタクルを楽しもうという気持ちがあるように見える。しかしイタリアのサポーターにとって試合は敵との戦争であり、関心はひたすら勝ち負けだけに集中してしまう。ピッチ上のプレーをスペクタクルとして楽しむという発想はまったくないと言っても過言じゃない。

クラブを取り巻く環境、雰囲気は常に緊張しているし、チームはひとつひとつの試合を巨大なプレッシャーの下で戦うことを強いられる。我々にとって最大の問題は、こうしたストレスの大きな環境の中では、長期的な視点から計画的に一歩ずつチームを作り上げていくことは許されないということだ。

新しいチームに就任したり、選手を大幅に入れ替えて刷新したりしても、短期間で結果が出せなければすぐにマスコミやサポーターからのプレッシャーが高まり、クラブとしても何か手を打たなければ収まりがつかない状況に追い込まれて行くんだ」

カルチョの世界全体を取り巻くこうした空気は、監督の在任期間にも反映されている。途中解任されることなくシーズンを全うする監督が全体の約半分だとすれば、それを2年、3年と続ける監督の数はもっと少なくなる。

現在のセリエAで、在任期間が足かけ3シーズン目以上という監督は、マッザーリ(ナポリ・4年目)、アッレーグリ(ミラン・3年目)、グイドリン(ウディネーゼ・3年目)、コラントゥオーノ(アタランタ・3年目)と、たった4人に過ぎない。27年目のファーガソン(マンチェスター・ユナイテッド)を筆頭にヴェンゲール(アーセナル・17年目)、モイーズ(エヴァートン・12年目)と在任10年を超える監督が3人もいるプレミアリーグとは比較にもならない。

実際セリエAでは5年以上の長期政権ですら、過去10年ではわずか3例。01-02途中から08-09まで足かけ8シーズンに渡ってミランを率い、CL優勝2回を含む黄金時代を築いたアンチェロッティは、例外中の例外である。セリエAの歴史を紐解いても、それ以上の長期政権は76-77から85-86までの10シーズンでユヴェントスに6度のスクデットをもたらしたトラパットーニ(現アイルランド代表監督)ただ1人だ。

アンチェロッティが言う「短期間で結果が出なければすぐにプレッシャーが高まり、何か手を打たなければ収まりがつかない状況に追い込まれていく」というのは、もちろん一般論だ。監督交代の頻度を左右するのは、そういう状況に追い込まれたクラブ、もっと具体的に言えば唯一の最終決定権者であるオーナー会長の振る舞いである。

07-08から今季まで、足かけ6シーズンの監督解任回数をチーム別に見てみると、冒頭で取り上げたパレルモが12回というとんでもない数字を叩き出しているのに加えて、ジェノア、カリアリも各6回と、1シーズン平均1回を超える頻度で監督を替えていることがわかる。この3クラブはいずれもオーナー会長がもはや病的としか言いようのない監督解任癖に冒されており、特殊事例と考えるべきケースである。

事実、この3クラブを除くとシーズン平均の監督解任回数はだいぶ下がって、スペインとどっこいどっこいという感じになる。もちろんそれでも、イングランド、ドイツ、フランスという「アルプスの北にある国々」と比べれば歴然とした差があるわけで、そのあたりはやはり目先の結果に一喜一憂する感情の起伏が大きく、また忍耐力にも乏しいラテン気質の賜物と言えるのかもしれない。

さて、監督が途中解任されるケースにはいくつかのパターンがある。王道、というのも何だが最も一般的なのは、降格をはじめとする深刻な危機に瀕したチームが、悪い流れを変えるための「カンフル剤」「ショック療法」として行うもの。

セリエBへの降格は、耐え難い不名誉であるという以上に、クラブに大きな経済的打撃を与えさらなる衰退の契機となることが少なくないため、サポーターにとっても、そしてもちろんオーナー会長にとっても最大の恐怖である。チームの不振が長引き「降格の予感」が高まってくると、クラブとチームを取り巻く空気は緊張を増し、不満のはけ口を求めて「犯人探し」が始まるというのが典型的なパターン。

一旦膨れ上がった不満と不安が収まるためには、チームの成績が好転するか、そうでなければとりあえず誰かを「生け贄」にして目先を変える以外にはない。前者が起こるためには多少の忍耐と時間が不可欠だが、その忍耐が必ず実る保証があるわけではない。そういう状況で最も立場が弱く、それゆえターゲットになり易いのは監督である。

イタリアで良く使われるのは「チーム全員を入れ替えるわけには行かない以上、流れを変えるためには監督を替える以外にない」という言い方。もちろん、監督を替えたからといってそれで全てが解決するかといえば、まったくそんなことはないし、むしろ性急な監督交代が事態のさらなる悪化をもたらす可能性も小さくはない。確率は良くて五分五分というところだろう。

問題は、マスコミやサポーターを敵に回した状態で監督が落ち着いて仕事を続けるためには、クラブが断固たる態度で監督を守ることが不可欠だということ。しかし、それは攻撃の矛先がクラブのトップに向かうことを意味する。残念ながら会長たちのほとんどには、高まるプレッシャーや抗議に怯むことなく自らが矢面に立って監督を守り、忍耐を促すほどの度量は備わっていないのが現実だ。

かくして、監督の首を差し出すことでその場をしのぎ、その先は神に祈る、という解決が選ばれることになる。今シーズンで言えば、降格ゾーンに低迷するペスカーラ(ストロッパ→11/19ベルゴーディ→3/4ブッキ)、シエナ(コズミ→12/16イアキーニ)がこのパターンに当てはまる。 

セリエAで特徴的なのは、開幕から2~3ヶ月、あるいはもっと早いタイミングであっけなく監督が解任されてしまうケースが多いこと。昨シーズン、長友祐都が所属するインテルのガスペリーニがわずか5試合で更迭されたのをご記憶の読者は少なくないだろう。今シーズンも、9月半ばに開幕からたった3試合でサンニーノ(パレルモ)が、10月にはディ・カルロ(キエーヴォ)、フィッカデンティ(カリアリ)、デ・カーニオ(ジェノア)と3人の監督が立て続けに解任の憂き目に遭った。

こうした解任に当たって使われる常套句は「事態がさらに悪化する前に早めに手を打つ必要があった」というもの。外部からではなかなかわからないが、監督が一部の選手と反目したり、戦術や指導法が受け入れられなかったりといった形でチームマネジメントに問題を抱えた場合には、放っておいても問題が解決する可能性は低いし、逆にチームが内部崩壊してしまう危険も高まる。上述のガスペリーニ(インテル)、今シーズンならばキエーヴォのディ・カルロがそのケースだ。

もうひとつ、早めの監督交代を促進するインセンティブの働きをしているのが、イタリア監督協会が独自に定めている「監督は1シーズンにつき1チームでしか指揮を執ることができない」というローカルルール。

ひとりでも多くの監督が契約=仕事の機会を得られるようにというきわめて民主主義的な考え方に基づいて定められたこのルールがあるせいで、ドイツやイングランドでしばしば起こるシーズン中の監督引き抜きは、イタリアでは不可能になっている。

だがその一方では、途中就任で招聘できるのは開幕時点でフリーだった監督に限られるため(ただし外国のクラブを解任された場合は別)、その中に意中の監督がいる場合には早めに動かないと他に取られてしまう可能性がある上、シーズンが進むにつれて選択肢がどんどん減っていくというジレンマも生まれてくる。

パレルモのザンパリーニ会長、ジェノアのプレツィオージ会長は共に、少しでも気に入らないことがあると何か手を打たないと気が済まなくなる重度の監督解任癖の持ち主だが、今シーズン序盤の監督交代(サンニーノ→ガスペリーニ、デ・カーニオ→デル・ネーリ)はむしろ、次期監督を他に取られたくない一心で踏み切ったようなところがあった。

ガスペリーニとデル・ネーリはいずれも、経験と実績を兼ね備えているだけでなく、自らの明確なスタイルを持ったベテラン。今シーズンの「選択肢」の中では、12月にサンプドリアに招聘されたデリオ・ロッシと並んで、最も評価の高い監督だった。

皮肉なのは、この2人が揃って、途中就任というハンディキャップの中で自らのスタイルを根付かせることができないまま、逆にチームを降格ゾーンの泥沼に引きずり込んで解任されるという運命をたどったこと。

ずるずると順位が下がっていったにもかかわらず、異例とも言える我慢強さでガスペリーニを引っ張ったザンパリーニだったが、ついに見切りをつけてからはその反動からか、さらに二度にわたって監督の首をすげ替え、最後には開幕直後に解任したサンニーノを呼び戻すことになった。そのサンニーノが今、4ヶ月近く勝ち星のなかったパレルモに奇跡的な連勝をもたらし、降格ゾーンから引きずり出そうとしているのは、さらなる皮肉としか言いようがない。

このサンニーノのケースもそうだが、セリエAに特徴的なもうひとつのパターンは、一度解任した監督の呼び戻しである。今シーズンはパレルモが2回(ガスペリーニ、サンニーノ)行ったが、昨シーズンもジェノア(マレサーニ)、ノヴァーラ(テッセル)、カリアリ(フィッカデンティ)がそうだった。1シーズンに複数回の監督交代を行う場合、大半はこのパターンだと言っていい。

これは、たとえ監督の職を解いても、双方が合意の上で契約を解除しない限り、クラブは契約満了まで給料を払い続けなければならないというルールと密接に関わっている。監督交代を行ったクラブは、少なくともシーズン終了までの間(もし前監督と複数年契約を交わしている場合にはそれが切れるまで2年でも3年でも)、2人の監督に給料を払い続けなければならなくなるわけだ。

もし2人目の監督でもうまく行かなかった場合、新たに3人目と契約を交わせばさらなるコストがかかるが、1人目を呼び戻せばコストは変わらない。チームが窮地に陥っている場合、監督交代の最大の目的は「流れを変える」ことであり、前任者を呼び戻すだけでもそれは達成可能だというエクスキューズもある。昨シーズンのインテル(ストラマッチョーニ)や2年前のローマ(モンテッラ)のように、シーズン3人目の監督は下部組織からの内部昇格というケースも時折起こるが、これも理由は同じである。

こうして、毎年半数前後が監督を途中解任しているセリエAだが、パレルモのようにそれが年中行事と化しているチームがある一方で、ほとんど途中解任をしないチームもある。これは、クラブのトップが明確なポリシーを持ち、それをサポーターやマスコミに対してもはっきりと打ち出すことで、よほどのことがない限りそうした決断は下さないという合意形成に成功しているから。

その代表と言えるのがミラン。ベルルスコーニ会長は何かと言えば監督を批判するような言動でマスコミを騒がせるが、チームの経営権を委ねられているガッリアーニ副会長がそれをすぐに否定して監督を擁護し、結局は途中解任することなくシーズン終了にこぎつけるというのがお決まりのパターン。公の場で2人が掛け合いを演じることで、巧妙にマスコミやサポーターの「ガス抜き」をしているのではないかとすら思えるほどだ。

同じミラノのライバル・インテルが、過去2シーズンに3度も途中解任に踏み切っているのに対し、こちらは最後の途中解任が今から12年前、01-02シーズン(テリム→アンチェロッティ)というのだから立派なものである。

ミランだけでなく、ラツィオ、ナポリ、ウディネーゼ、キエーヴォといったクラブも、避けられない状況に陥らない限り途中解任はしないという姿勢をはっきりと打ち出している。何か手を打つよりも、何もせずにじっと我慢することの方が、ずっと勇気と忍耐、そして何よりも深い確信を要求されるもの。その意味でもこれらのクラブを率いる会長たちにはリスペクトの念を禁じ得ない。□
 
<参考資料>

セリエA12-13シーズンの監督交代一覧

1) 09/16 パレルモ サンニーノ → ガスペリーニ
2) 10/02 キエーヴォ ディ・カルロ → コリーニ
3) 10/03 カリアリ フィッカデンティ → プルガ/ロペス
4) 10/22 ジェノア デ・カーニオ → デルネーリ
5) 11/19 ペスカーラ ストロッパ → ベルゴーディ
6) 12/16 シエナ コズミ → イアキーニ
7) 12/17 サンプドリア フェラーラ → デリオ・ロッシ
8) 01/22 ジェノア2 デルネーリ → バッラルディーニ
9) 02/02 ローマ ゼーマン → アンドレアッツォーリ
10) 02/04 パレルモ2 ガスペリーニ → マレサーニ
11) 02/24 パレルモ3 マレサーニ → ガスペリーニ2
12) 03/03 ペスカーラ2 ベルゴーディ → ブッキ
13) 03/11 パレルモ4 ガスペリーニ → サンニーノ2

○クリスマス前の監督交代件数
◆足かけ3シーズン目以上の監督数
★シーズン38試合を全うした監督数

     ○   ◆   ★
12-13  6   4   12?
11-12  7   2   10
10-11  5   1   9
09-10  9   4   8
08-09  5   6   12
07-08  6   6   11

◇近年の長期政権(4年以上)+途中就任 -途中解任
Ancelotti (Milan) 7+ (01-02+/08-09)
Prandelli (Fio) 5 (05-06/09-10)
Novellino (Samp) 5 (02-03/06-07)
Gasperini (Genoa) 4- (06-07/10-11-)
Spaletti (Roma) 4- (05-06/09-10-)
Reja (Napoli) 3+- (04-05+/08-09-)
Mancini (Inter) 4 (04-05/07-08)
D. Rossi (Lazio) 4 (05-06/08-09)
Mazzarri (Napoli) 3+ (09-10+/現在)

By admin

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。