用語集、ついにネタが尽きてきたので、これまで書いた細かい小ネタを4つほどまとめることにします。ちょっととりとめないかも。この後もう1回で終了ですね。

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レクーペロrecupero:リカバー

英語でリカバーricoverを意味するレクーペロrecuperoという言葉は、サッカーにおいては文脈によっていくつもの異なる意味で使われる。

テンポ・ディ・レクーペロtempo di recuperoは、直訳すると「リカバーの時間」で、ロスタイムのこと。

長い距離を攻め上がったサイドバックがゆっくりとジョグで戻ってくる時にレクーペロと言えば、強度の高い無酸素運動の直後に体力をリカバーしている状況のことを指す。

ウイングが自陣深くまで戻って守備参加することもレクーペロ。「クアレスマがレクーペロしなかったからサイドを破られた」といった使われ方をする。

さらに、FWに「逃げられた」DFが後ろから追いかけて追いつくのもレクーペロなら、ボールを奪う行為そのものもレクーペロだ。こうして見ると、サッカーというスポーツは各種リカバーの繰り返しによって成り立っていることがよくわかる。

プンタpunta:フォワード

イタリアにやたらとある、ポジションを指す名称のひとつ。プンタpuntaというのは、英語に直すとポイントpoint、つまり「先っぽ」のことだが、サッカー用語的には「トップ」に対応すると考えればいいだろう。

ファーストトップは「プリマプンタprima punta」、セカンドトップは「セコンダプンタseconda punta」。さらに、「半分の」という意味の形容詞メッザmezzaを組み合わせた「メッザプンタmezzapunta」というのもある。「半FW」というのは要するに、純粋なFWじゃないけど前線近くで攻撃を担う選手というニュアンスだ。

今シーズン(07-08)のミランは、ロナウジーニョを獲得して、カカ、セードルフと合わせて3人の「メッザプンタ」を擁している。「セコンダプンタ」にはパトとシェフチェンコ、「プリマプンタ」にはインザーギとボリエッロ。この7人の「プンタ」のうち、同時にピッチに立てるのは多くて3人まで。アンチェロッティ監督は、誰を使うか以上に誰を外すかで頭の痛いところだろう。

エラスティコ・ディフェンシーヴォelastico difensivo:最終ラインの上げ下げ

エラスティコというのは「伸縮性のある」「弾力性に富んだ」という意味の形容詞。名詞としても輪ゴムやゴムひもを指して使われる。

——と書くと、ロナウジーニョお得意のあのフェイントを思い出すかもしれない。しかし今回取り上げるエラスティコには、ディフェンシーヴォ(守備の)という形容詞がついている。この場合は、ボールの位置に合わせて最終ラインを「伸縮」させるラインコントロールを指す。

オフサイドルールの解釈が変わり、プレーに直接関わらない選手にはオフサイドが適用されなくなったことで、最終ラインのコントロールはますます難易度が高まっている。ボールにプレッシャーがかかっておらず裏にパスを通される可能性がある時にはラインをすっと下げ、プレッシャーがかかったら即座に押し上げて陣形を収縮させる、弾力性に富んだラインコントロール(エラスティコ・ディフェンシーヴォ)を細かく行うことが、非常に重要になっているわけだ。

これに関して最も完成度が高いのが、ミランの最終ライン。特にマルディーニのラインコントロールは芸術的である。

エソーネロ esonero:解任

監督交代には2つの形がある。クラブの意志によってクビになる解任esoneroと、監督が自ら退く辞任dimissioniだ。両者の違いは非常に大きい。

後者はいわゆる自己都合退職なので、監督に契約解除の意志があると見做され、その時点で契約が打ち切られるのが普通だ。

しかし前者は、監督という仕事を解かれるだけで、クラブとの契約はそのまま残る。一旦交わした契約を、双方の合意なしに解除することは許されていないからだ。したがって監督は解任された後も契約満了まで、あるいは他のクラブからオファーを受けるなどして自ら契約解除を申し入れるまで、働かずに給料をもらい続けることができる。

ただし、解任された監督は、もしクラブに呼び戻されたらそれに応じる義務がある。そういう時はたいていの場合、クビになった時よりもチームの状況はさらに悪化しているから大変である。たぶん今頃パレルモでコラントゥオーノ監督がその事態に直面しているはずだが。■

(2008年2-11月/初出:『footballista』)

By admin

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。