カルチョポリ勃発当時にリアルタイムで書いた原稿その6。このあたりから、スポーツ裁判の一審で出た厳しい判決がだんだん甘くなって行くプロセスが始まります。

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ワールドカップが終わって10日あまりが過ぎ、優勝騒ぎもとっくに一段落。世界一のタイトルを勝ち取った英雄たちは、待ちに待ったヴァカンスを過ごしているわけだが、その一方では、セリエAのほとんどのクラブが、今週からプレシーズンのトレーニングキャンプをスタートしている。

とはいえ、その先にあるはずのセリエA/B06-07シーズンは、今なお参加クラブの顔ぶれが確定しないままだ。ワールドカップ期間中もずっと続いてきた「カルチョ・スキャンダル」の後始末が、まだ決着していないからである。

6月末に始まったFIGC(イタリアサッカー協会)のスポーツ裁判は、7月14日にやっと一審判決が下ったところ。現在は、最終審となる二審の審議が進められている。

UEFAは、新シーズンのCLとUEFAカップの抽選会を7月28日に予定しており、FIGCには7月25日までに、昨シーズンの最終順位とカップ戦への参加チームリストを提出することを求めている。したがって二審の審議は、判決をこの日に間に合わせることが目標である。ただし、もし万が一間に合わない場合には、一審判決に基づく順位に基づくリストを提出することが許されている。その場合は、二審で異なる判決が出ても出場チームが入れ替わることはない。

その一審判決で、降格やポイント剥奪の処分を受けたクラブは、ユヴェントス、フィオレンティーナ、ラツィオ、ミランの4つ。内容は文末にまとめた通りだ。

ミランだけが降格処分を逃れたのは、不正行為(審判指名への介入)を行ったのが、クラブ経営陣ではなく非常勤扱いの契約スタッフ(審判担当係)だったため。前者のケースだと「直接責任」として重い処分を受けるが、後者=ミランのケースは「間接責任」とみなされ処分はやや軽くなる。

この処分に基づくと、セリエA05-06シーズンの最終順位は表(これも文末)のようになる。本来CLに出場するはずだった4チームのうち3チームが処分を受けたため、本戦にはインテルに加えてローマが繰り上がり、予備予選にはキエーヴォ、パレルモの2チームが出場することになる。

蛇足を承知でいえば、キエーヴォのチャンピオンズリーグ進出は、経緯はさておき素晴らしい奇跡である。何とか予備予選の組み合わせに恵まれて本戦出場を果たし、昨シーズンのトゥーンやアルトメディアみたいな健闘を見せてほしいものだ。

もともとUEFAカップに出るはずだった3チームがCLに繰り挙がったため、リヴォルノ、パルマ、エンポリの3チームに、その空席を埋める資格が回ってきた。ところが、A残留を唯一の目的とする育成型中小クラブのエンポリは、欧州カップ出場の要件を満たしたクラブに与えられるUEFAクラブライセンスを取得どころか、無駄なコストと判断して申請すらしていなかったため、出場することができない。そこに滑り込むことになるのが、05-06シーズンの勝ち点を半減されて、8位まで落ちていたミラン。

マイナス44ポイントという一審判決は、88ポイントを半減というよりも、クラブの収入減となる欧州カップ出場権を得られないところまで順位を落とすという罰を与えることが狙いだったと推測される。ところが、全員が法曹界からの臨時出向者であるFIGCスポーツ裁判所の裁判官は、おそらくエンポリがUEFAライセンスを取得していないことを知らなかった。おかげでミランは、二審で一審判決がそのまま支持されれば、棚ぼたでヨーロッパの舞台への切符を手にすることになる。

それとは対照的な立場に置かれているのが、最も重い処分を受けたユヴェントス。一審での検察側求刑は、セリエAからの除名と過去2シーズンのスクデット剥奪、セリエC1(3部リーグ)以下のリーグに降格の上、マイナス6ポイントのペナルティという、さらに厳しいものだったので、それと比べればこれでも、手心は加わっている勘定だ。

C1降格となれば、TV放映権料やスポンサー料といった、売上高に最も大きな割合を占める収入が、根こそぎ失われることになるため、下手をすると倒産の危険さえある。TV局もメインスポンサーのTamoilも、セリエBならば支持を続けると表明しており、判決もそれを視野に入れた内容になったと解釈していいだろう。マイナス30ポイントともなれば、全勝かそれに近い成績を残さない限り、1年でA昇格を勝ち取ることは不可能。その点で「懲役2年」であることに変わりはないが、収益源を奪わないよう配慮したというわけだ。

1年ではなく2年、セリエBで戦う見通しになれば、昨シーズンまでの主力選手が「流出」することは必至である。ワールドカップ決勝では、両チーム合わせて8人ものユヴェントス所属選手がピッチに立ったが、あれはほとんどフェアウェルパーティだったということになる。

事実、主力の中で「Bに落ちてもユーヴェに残る」と明言しているのは、デル・ピエーロとネドヴェドのベテラン2人のみ。カンナヴァーロ、エメルソンは、カペッロ監督を追ってレアル・マドリードに行くことが確実視されており、イブラヒモヴィッチ、ヴィエイラは、すでにインテルと内々で合意に達しているともいわれる。ブッフォンとザンブロッタは、ミランがB落ちしなければミランが優先順位ナンバーワン。トゥラムにはバルセロナ、カモラネージにはヴァレンシア、トレゼゲにはリヨンが食指を伸ばしているといわれる。ほとんど欧州ビッグクラブの草刈り場と化しているわけだ。

ワールドカップで優勝したのだから、もっといろいろ明るい話題があっても良さそうなものだが、なにしろここはイタリアである。まだ当分はこの話題が続くことになりそうだ。カルチョはもちろん、欧州サッカーの未来を左右することになりかねない事件なので、無視するわけにもいかない。どうかおつきあい下さいますよう。■
 
 
——————————-別表1——————————
◇ユヴェントス
05-06シーズン:最下位扱いでセリエB降格。
06-07シーズン:マイナス30ポイントのペナルティ。
04-05および05-06シーズンのスクデットを剥奪。
◇フィオレンティーナ
05-06シーズン:最下位扱いでセリエB降格。
06-07シーズン:マイナス12ポイントのペナルティ。
◇ラツィオ
05-06シーズン:最下位扱いでセリエB降格。
06-07シーズン:マイナス7ポイントのペナルティ。
◇ミラン
05-06シーズン:勝ち点88ポイントから44ポイントを剥奪、2位から8位に格下げ。
06-07シーズン:マイナス15ポイントのペナルティ。

—————————–別表2——————————
■05-06シーズンの最終順位(数字は勝ち点)

76インテル
69ローマ
——(以上チャンピオンズリーグ本戦)
54キエーヴォ
52パレルモ
——(以上チャンピオンズリーグ予備予選)
49リヴォルノ
45パルマ
45エンポリ
——(以上UEFAカップ。ただしエンポリが資格を満たせず出場不可能のため、ミランが代替で出場)
88→44ミラン(-15)
43アスコリ
43ウディネーゼ
41サンプドリア
41レッジーナ
39カリアリ
39シエナ
31メッシーナ
29レッチェ
21トレヴィーゾ
62ラツィオ(最下位扱い) 
74フィオレンティーナ(最下位扱い) 
91ユヴェントス(最下位扱い) 

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。