アンチェロッティがミランに「ピルロ・システム」を導入した1年目の02-03シーズン、ガッリアーニ副会長に長いインタビューをした後に書いたテキスト。この後ミランは決勝でユヴェントスを下してCLを制覇するというハッピーエンドを迎え、その後00年代末まで続く黄金時代を築くことになりました。

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半月ほど前、ACミランのアドリアーノ・ガッリアーニ副会長に一対一でじっくりと話を聞く機会に恵まれた。その詳しい内容は、現在発売中の『ワールドサッカーダイジェスト』を読んでいただくとして、この名物副会長のコメントで強く印象に残ったのは、「カルチョは映画と同じ」と言い切ったことだった。

「我々はプロデューサーであり、監督がいて選手、つまり俳優がいて、かれらの演じるエンターテインメントを楽しむ観客がいる、ということです」

言われてみれば、ミランのチーム作りの路線は、まさにハリウッド大作映画的なそれである。つまり、大ヒット(チームの優勝)を狙うためには、大物俳優(スタープレーヤー)を揃えるのが一番の早道、というわけだ。

そういうメンタリティでチームの補強に取組んでいると考えれば、ルイ・コスタというワールドクラスのトップ下がいるにもかかわらず、さらにまたリバウドを獲得したり、クラブの収支がすでに大赤字になっているのを知りながら、30億円以上も投じてネスタを買い取ったりしたことも説明がつく。

もちろん、大物スターを集めた超大作映画が見るも無惨にコケることがあるのと同じように、スター選手を集めたからといって、それだけで優勝できるとは限らない。首位ユヴェントスに8ポイントの差をつけられてしまったミランの現状を見ても、それは明らかだ。

そもそも、今シーズンのミランは、監督の戦術的な要請に基づいて選手を補強し、作り上げられたチームではない。むしろ、クラブの営業的な要請に基づいて選手を買い集め、それを監督に委ねた結果として出来上ったチームと言った方がいいだろう。映画に例えれば、脚本ありきではなく、キャストありきで生まれた作品、ということになる。

実際、攻撃的なポゼッションサッカーを看板にする現在の戦い方も、クラブが買い集めたポジションの重なるスター選手を、ひとりでも多くピッチに送ることを強いられたアンチェロッティ監督が、試行錯誤の結果ひねり出した戦術である。

似たようなタイプの役者を何人も起用しなければならなかったために、脚本も少々無理のある内容になってしまった。映画の前半は、次から次とスターが登場する飽きさせない展開だったが、後半の見どころにさしかかったところで、ちょっと話のつじつまが合わなくなってしまった、というのが、現在のミランの状況といえるだろうか。

果たしてこの娯楽超大作、強引な展開で再びつじつまを合わせ、スペクタクルあふれるクライマックスを見せる名作として完成を見るのか、それともボロが出たままのしょぼい展開で終ってしまう駄作になるのだろうか。結末が楽しみである。

(2003年4月8日/初出:メールマガジン『スポマガ ワールドサッカー』)

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。