イタリアで独自の発展を見せてきた3バック(最近流行が廃れつつありますが)については、ここ数年何度か解説めいた記事を書いてきましたが、流行り始めた時期に書いたこれが一番よくまとまっているかも。この後に書いたものも、追い追い上げて行こうと思いますが、多くはこれがベースになっています。

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ヨーロッパで4バックのゾーンディフェンスが主流になってから、もう20年以上が経つ。とりわけ21世紀に入って以降は、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグ(旧UEFAカップ)でそれ以外のDFラインを目にすることは、ほぼ皆無と言っていいだろう。それは主要各国の国内リーグでも同じである。

その中で唯一、3バックのシステムが独自の展開と発展を見せているのがイタリアだ。今シーズンは、CLでマンチェスター・シティを蹴落としてベスト16進出を果たしたナポリ(3-4-2-1)、そのナポリと最後まで3位争いを続けたウディネーゼ(3-5-1-1)から、4-3-3を基本としながら重要なオプションとして3-5-2をかなりの頻度で使ったユヴェントスまで、セリエA全20チームの4分の3にもあたる15チームが、3バックのシステムを何らかの形で採用していた。シーズン終了間際、第37節を見ても、ほぼ半数の9チーム(ユヴェントス、ナポリ、ウディネーゼ、パルマ、ボローニャ、シエナ、フィオレンティーナ、レッチェ、チェゼーナ)が3バックの布陣をピッチに送り出している。

イタリアならではの特殊事情と言うべきこの3バックの流行は、どこに理由があるのだろうか。

戦術的な引き出しの多さ

まず大前提としてあるのは、イタリアの監督たちの戦術的な引き出しの多さである。イタリアでは、与えられたチームから最大限のパフォーマンスを引き出すことがプロ監督たる者の仕事であり、選手や状況に合わせて複数のシステム・戦術を使い分ける能力が不可欠だと考えられている。もちろん、自らの理想とするサッカーのコンセプト、スタイル、システム、戦術を持っていることは大前提だ。しかし、それをただ追求するだけでなく、様々な状況に対応できる複数の選択肢を引き出しとして持っており、必要ならばそれを使って問題を解決できる手腕が要求される。フィレンツェ郊外のコヴェルチャーノにあるプロ監督養成スクールでも、様々なシステム・戦術の理論と実践がカリキュラムに組み込まれており、その中には当然ながら3バックも含まれている。

そういう環境の中で育っているだけに、イタリアの選手も戦術的な順応性が非常に高い。戦術的な約束事はシステムによって少なからず変わってくるものだが、それに対応できるだけの引き出しを選手の方も持っているのだ。4バックから3バックにシステムが変更されても、戸惑いなく対応することができる。国際的な流れの中では完全な傍流となった後も、3バックはイタリアの戦術カルチャーの中にひとつの選択肢として常に存在し続けてきたし、それを実践に移す土壌も枯れることなく耕されてきたということだ。

実際、事実上すべてのチームが4バックのゾーンディフェンスで戦っている他の国々とは異なり、イタリアでは何人かの監督が3バックのシステムを独自に発展させ、興味深い成果を残してきた。先に挙げたナポリのワルテル・マッザーリ、今季のインテルでは失敗したが昨シーズンまでジェノアを率いてシステマティックな攻撃サッカーを展開したジャン・ピエロ・ガスペリーニなどがその代表格だ。

とはいえ、つい2年前までは彼らとて少数派に過ぎなかった。3バックがこれだけの復活と流行を見せているのはごく最近、とりわけ今シーズンのことである。その理由を考える上で鍵になるのは、大半のチームがシーズン途中でシステムを変更した結果3バックに落ち着いたという事実である。

実質5バックの運用:守備の安定

どんなシステム・戦術もそうであるように、3バックにもメリットとデメリットがある。その中で、4バックと比較した時の大きなメリットのひとつは、守備の安定である。

3バックと言っても、その実質は「3センターバック」だ。3-5-2にしても3-4-3(3-4-1-2)にしても、中盤両サイドに守備力のあるサイドバック的な選手を起用し、守備の局面では最終ラインに入るという約束事を基本にすれば「実質5バック」で守ることができる。5人でピッチの横幅をカバーすれば、サイドチェンジなどで揺さぶられても最終ラインにギャップが生じにくくなるし、最も危険な中央のゾーンで敵FWに対して数的優位が作れるため、最後の一線を破られる確率は低くなる。「5バックになると逆に中盤が薄くなる」といわれるが、前線にFWをひとりだけ残し5+4の9人で2ラインのブロックを構築すれば、4バックのシステムと比較しても守備の安定度は間違いなく高まる。

シーズン途中で4バックから3バックに移行したチームの多くは、不振に陥って何らかの修正が必要とされる中で、まずは守備を安定させることで建て直しのきっかけを掴もうとシステム変更に踏み切り、何らかの形でそれを見出した結果そのまま戦い続けているという共通のパターンを持っている。具体的には、パルマ、フィオレンティーナ、シエナ、レッチェ、ボローニャ、チェゼーナがそれにあたる。

この場合、決して積極的な選択とは言えないわけだが、守備を安定させて失点を減らすというのは、不振のチームを建て直す上での常套手段である。失点をしにくくすることに優先順位を置くならば、3バックが有効なソリューションであることに疑いはない。今シーズンは、ボローニャやパルマがそれで成功したこともあって、その後を追うチームが相次いだというわけだ。

一方、「実質5バック」で運用する3バック最大のデメリットは、チームの重心が下がって高い位置でボールにプレッシャーがかけにくくなるため、必然的にボール奪取位置が低くなることにある。守備は安定するが、その分攻撃に人数をかけにくくなることは避けられず、特に相手が格上の場合には一方的に自陣に押し込められるリスクが大きくなる。 

ただし、上に挙げたような中位~下位のチームは、元々攻撃に人数をかけるタイプのサッカーを志向しているわけではなく、むしろ前線の2~3人の個人能力に攻撃を依存する攻守分業の傾向が強い。したがって損得勘定をすれば、攻撃面でのデメリットを守備面でのメリットが上回る場合が多いし、3バック復活の理由の一端もまさにそこにある。さらに言えば、チームの重心が下がればそれだけ相手を自陣におびき寄せることにつながるという側面があるので、フィード能力の高いDF、スピードと走力を備えたFWを擁してカウンターアタックを武器にしている場合には、デメリットをメリットへと転じさせることも可能だ。 

とはいうものの、「実質5バック」で運用する限りにおいては、守備の安定という直接的かつ限定的なメリット以外、4バックと比較してのアドバンテージを見出すことは難しい。3バックの最大の長所は、中盤から上にひとり多く人数をかけられるという点にあるわけで、その長所を活用するためには「実質3バック」で運用することが必要になる。ナポリやウディネーゼ、昨シーズンまでのジェノアなど、3バックのアドバンテージを積極的に引き出して使おうとしているチームは、いずれもこちらのタイプである。

実質3バックの運用:攻撃で数的優位を作り出す

 

3バックのシステムを「実質3バック」で運用した時に期待できるメリットは、いずれも「数的優位」にかかわるものだ。具体的に言えば、守備においてはプレッシングの強度アップ、攻撃においてはとりわけビルドアップにおける数的優位の作りやすさを挙げることができる。

後者のビルドアップに関して最もわかりやすい例は、ルイス・エンリケ率いるローマが採用している、バルセロナスタイルの4-3-3だろう。スタートポジションとしてのシステムは3バックではなく4バックだが、バルセロナの4-3-3と同様に、後方から攻撃を組み立てる時には、2人のCBがペナルティエリアの幅よりもさらに大きく外に開き、中盤の底でアンカーを務めるデ・ロッシがその間に下りてくる。同時に左右のSBはライン際一杯に開いて中盤のライン、場合によってはさらに高い位置までポジションを上げて行く。この時点で、ピッチ上の並びは4バックではなく3バックになっている。

この(一時的な)3バックは、プレッシャーをかけてくる敵のFW(1トップor2トップ)に対して数的優位を作り出しているため、スムーズにボールを回して1人がフリーになり、そこから質の高い縦パスを中盤あるいは前線に供給する展開の起点として機能することができる。現代サッカーにおいてはボールホルダーへのプレッシャーが高まって、地域が進めば進むほどプレーのための時間とスペースが奪われていくため、プレッシャーの少ない最終ラインは、最も落ち着いてプレーすることができるゾーン。そこから質の高いパスを送り出すことができれば、攻撃において大きなアドバンテージが生まれる。

3バックのシステムは、この形をスタートポジションの段階から固定したものだと言うことができる。3DFによるボール回しでプレスを外してフリーになった1人が展開の起点となるメカニズムは、ここまで見てきたものと同じ。相手が3トップの場合には3対3の関係になるが、この場合でもパス回しにGKを組み込めば局地的な数的優位を作ることは不可能ではない。さらに相手が前線のプレッシャーに3人を動員すれば、必然的に中盤から下の人数が不足することになるため、一旦そこにボールを送り込んでしまえば、数的優位を作って攻撃を展開できる可能性が高まる。

3バックによるパス回しからのビルドアップでは、最終ラインからのパスで攻撃を組み立てるだけでなく、フリーになったDFの前方にスペースが空いている場合そのままドリブルで持ち上がることで、チーム全体が押し上げる時間を稼ぎ出すと共に、最終ラインの数的優位を今度は中盤に持ち込むことが可能になる。CBとSBの両方をこなせるテクニックとセンスを備えたDFを3バックの一角に置けば、このプレーを積極的に使って攻撃の武器にすることができる。ナポリのカンパニャーロとアロニカ、ユヴェントスのキエッリーニがこのタイプだ。

3バックの攻撃におけるもうひとつの利点は、サイドにおける起点を高い位置に作れること。3バックで中盤両サイドに位置するウィングバックは、4バックのサイドバックと比較するとホームポジションは10-15m上だ。もちろん攻撃参加の頻度も4バックのSBと比較するとずっと高くなる。

4バックのSBはビルドアップにおいても重要な役割を担う場合が多いが、3バックのシステムでは3人のDFとボランチが組み立てを担い、WBは外に開いて高い位置に張り出すことで、攻撃に幅と奥行きを作り出す役割を担うのが原則だ。ナポリの3-4-2-1、ウディネーゼの3-5-1-1を見ても、前線のアタッカーはあまり外に開かず中央で密度を高め、サイドのスペースはWBが使うというのが原則になっている。

攻撃で最も重要なプロセスである敵陣での崩し~フィニッシュにおいても、3バックが中盤から上にもたらす数的優位は大きなアドバンテージになる。ピッチの横幅をWBがカバーしている上に、前線に3人のアタッカー(ウディネーゼの場合3人目は中盤から攻め上がったMF)を擁しているというのは、敵の4バックに対する上で明らかな強みである。1)敵の最終ラインが両SBを内に絞ることによって3アタッカーに対応しようとすれば、WBを使ってサイドをえぐることで攻撃に奥行きを作り出すことができる。2)逆に敵のSBがWBに対応して外に開けば、最終ラインにギャップが生まれるためそこをコンビネーションやスルーパスによる中央突破で衝くことが可能だ。3)相手の最終ラインがギャップを作らずサイドにスライドした場合には、逆サイドのWBがファーポストに向かって斜めに走り込むことで、裏のスペースを攻略してフィニッシュにつなげることもできる。守る側にとっては厄介この上ない仕組みだ。

ザッケローニとコンテの革新

この「最終ラインから1人削ってそれを前線に回す」ことで攻撃に厚みをもたらすというのは、マッザーリ(ナポリ)、グイドリン(ウディネーゼ)、ガスペリーニ(元インテル、ジェノア)などが、国際的には傍流になった3バックシステムにあえてこだわり続け、独自に発展させてきた大きな理由のひとつである。

このイタリア流3バックの元祖が、現日本代表監督のアルベルト・ザッケローニである。フラットな3ラインによる4-4-2が全盛を誇っていた90年代後半、「4-4-2からCBを1人削って前線を増やした」3-4-3システムをウディネーゼに導入してセリエA3位(97-98シーズン)という好成績を残し、ミランに引き抜かれた98-99シーズン、就任1年目でスクデットを勝ち取ったことはよく知られている(詳しい経緯は拙著『監督ザッケローニの本質』をご参照されたい)。

ザッケローニの3-4-3も、3トップとウイングバックの連携による崩しのメカニズムに大きな特徴がある。ウイングバックが高い位置に進出して敵の最終ラインを外に広げ、それによってできたギャップを3トップのコンビネーションで衝くというシステマティックな攻撃パターンは、バルセロナのそれにも通じる3-4-3ならではのものだ。余談になるが、ザッケローニが日本代表に対して、メインの4-2-3-1が機能するだけでは飽き足らず、3-4-3というオプションの導入にこだわるのは、3-4-3のシステムとしての可能性を信じているというだけでなく、複数のシステムを使い分けるのが当たり前という、イタリア人監督らしいメンタリティの表れだということができる。

最後になってしまったが、今イタリアで最も興味深い3バックの運用を見せているのは、アントニオ・コンテ監督率いるユヴェントスである。

コンテはセリエBの2トップ+2ウイングによる組織的な攻撃のメカニズムを武器とする4-2-4システムを引っさげて開幕に臨んだが、中盤にピルロ、ヴィダル、マルキジオという強力なMF3人を抱える一方で、前線に絶対的なストライカーを欠くこともあり、開幕後間もなくシステムを4-3-3に修正し、世界最高レベルのゲームメーカーであるピルロの力を存分に引き出してきた。それが、シーズン半ばから少しずつ3-5-2という新たなバリエーションを使い始めたのだ。

初めて導入した試合が同じ3バックのナポリ戦だったこともあり、当初は相手に合わせてシステムを噛み合わせるという受動的な対応に過ぎないと思われたが、シーズン後半になると相手のシステムにかかわらず、この3-5-2を使うケースが増えてきた。興味深いのは、攻撃に幅と奥行きをもたらす中盤両サイドのWBに、リヒトシュタイナー、デ・チェリエ、カセレスという本来SBとしてプレーしている選手だけでなく、エスティガリビア、ペペ、ジャッケリーニという攻撃的なウイングも併用しているところ。さすがに両サイドともウイングタイプを起用することはないが(攻守のバランスを保つのが難しくなる)、どちらか一方(特に左サイド)にはほぼ必ず起用されている。

その戦い方も、攻撃的な姿勢の強いアグレッシブなもの。守備の局面では3バックの最終ラインをある程度の高さに保ちつつ、中盤に人数をかけた高密度のプレッシングでボールを奪う守り方を志向しており、「実質5バック」の守備戦術とは明らかに一線を画している。注目すべきは、両WBが高い位置に張り出すことで敵の4バックと4対4の関係を作るという、コンテが得意とする4-2-4のそれと同じ攻撃パターンをしばしば見せること。4人のアタッカーがワイドに展開して敵最終ラインを広げそのギャップを衝く中央突破と、最終ラインが中央をケアすることによって生まれる外のスペースをえぐるサイド攻撃、両方の選択肢を持つところは、ザッケローニの3-4-3やそこから生まれた派生形(ナポリ、ウディネーゼなど)と同じ。ユヴェントスの場合、中央突破には2トップに加えて中盤から縦に走り込んでくるMF(ヴィダル、マルキジオ)が絡んで攻撃に厚みをつけるところが特徴的だ。

「4-4-2からDFを1人削って前線を増やした」のがザッケローニの3-4-3だとすれば、このコンテの3-5-2は「4-3-3からDFを1人削って前線を増やした」実質3-3-4の布陣だと解釈することも可能だ。開幕当初の4-2-4から4-3-3に移行したのは、ピルロという決して守備力が高くないゲームメーカーの力を最大限に引き出すために、2ボランチではなく3ボランチの中盤が必要だったからだ。その中盤を維持しながら2トップ+2ウイングによる得意の攻撃パターンを実現しようと模索した結果が、4-3-3の最終ラインから1人削って前線に回した3-3-4になった、という筋道である。

ひとつのシステムにこだわることなく、選手の特性に合わせて複数のシステムを使い分け、様々な試行錯誤の中から最適解を見つけ出すというのは、まさにイタリアの監督の典型的なやり方だ。3バックというテーマに話を絞っても、これだけ様々なスタイルやバリエーションが生まれ、進化していくところが、戦術大国イタリアならではだと言えるだろう。■

(2012年5月3日/初出:『SOCCER KOZO 001』)

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片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げ、カルチョそして欧州サッカーの魅力をディープかつ多角的に伝えている。 最新作は『チャンピオンズリーグ・クロニクル』(河出書房新社)。他の著書に『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)、『モウリーニョの流儀』(河出書房新社)、『モダンサッカーの教科書』(共著、ソル・メディア)、『アンチェロッティの戦術ノート』(共著、河出書房新社)、『セットプレー最先端理論』(共著、ソル・メディア)、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』(共著、光文社)、訳書に『アンチェロッティの完全戦術論』(河出書房新社)、『ロベルト・バッジョ自伝』(潮出版社)、『シベリアの掟』(東邦出版)、『NAKATA』(朝日文庫)など多数。