※インタビューは2004年12月10日、アッピアーノ・ジェンティーレのインテル練習場チェントロ・スポルティーヴォ・ピネティーナで行われました。

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――インテルの監督に就任して5ヶ月。ここまでの仕事をどう総括できるでしょう?

「ブオーノ(順調)。大変だけど順調だね。というのも、新しいクラブに来て、新しいチームを率いる時には、最初は多少の困難に直面するのが普通だ。何よりもまず、選手のことをきちんと知り把握しなければならない。 5ヶ月経った現時点では、すべての面で順調に物事が進んでいるといえる。まあ、カンピオナートで勝ち点がちょっと足りないというのはあるかもしれないが、それ以外はすべてまずまず順調に行っている」

――インテルで仕事を始めた時に一番高い優先順位を置いたことは?

「今までとは違う、ポジティブな考え方をチームに植え付けることだ。自分たちは偉大なプレーヤーだということ、それゆえインテルもまた偉大なチームであり、それにふさわしいサッカーをするべきだということを、信じさせること」

――ということは、まずメンタリティから手をつけたということですよね。

「そうだ。メンタリティは非常に重要だ。インテルのようなチームは、相手に対する不安や恐怖心を抱いて試合に臨んではいけないし、そんなことがあってはならないと思うからだ。インテルのようなチームは、自分たちの強さを自覚し、不安や恐怖を抱くのは相手の方だと考えてピッチに立たなければ。それが以前のインテルには少し欠けていたと思う。しかし今はそれが変わってきた」

――その観点からいうと、現状はどうでしょう?

「今言った通り順調だ。もちろん、すべてが完璧に機能するためには、5ヶ月よりもっと多くの時間が必要だから、チームもミスを犯すことはあるし、私も選手やクラブの環境などを十分知っていたわけではないから、間違いを犯したかもしれない。今は、できるだけ早く、なるべくミスを犯さないチームになるよう、努力を続けているところだ」

――インテルには偉大な選手がたくさんいて、その中には個性の強い選手も少なくありません。彼らをまとめていくのは難しくないですか?

「もちろん簡単じゃない。困難があるのは当然のことだ。偉大な選手だけでなく、どんな選手でもまとめていくのは難しいものだ。だれでも試合に出たいのは同じだからね。でも勝つためには、偉大な選手もそうでない選手も、全員がチームの利益のために、正しく振る舞うことが必要だ。それができていないチームが勝利を掴むのは難しい」

――選手には何を求めますか?

「私は選手に非常に多くを要求する。持てる力をすべて絞り出し、チームのために提供すること。それができて初めて、望む結果を手に入れることができる。だから私はプレーにおいても、またピッチ上、そしてチームとして行動している合宿などでの振舞いにおいても、多くを要求する。それが、結果を勝ち取るための第一歩として不可欠なことだと考えているからだ」

――選手との関係の持ち方はどうですか?距離を置いてつき合うのか、あるいは仲良くするのか。

「距離を置くことはしない。それが正しいことだとは思わないし、何よりも私はまだ若いから彼らとそれほど年齢が離れているわけではない。私は選手に対して十分率直に振る舞っていると思う。常にはっきりと思った通りのこと、真実を口にするようにしている。

時には真実は受け入れがたいものであってもね。でもそういう態度は好意的に受け止められていると思う。いずれにしても、互いに敬意を持って接することが必要だと思うし、そのためには相手に対してフェアに振る舞うことが不可欠だ」

――何人かの選手とは一緒にプレーしたこともあるわけですが、その経験が監督として彼らに接するときにマイナスになるということはありませんか?

「いやそんなことはまったくない。私と一緒にプレーした選手たちは私のことをよく知っているから、いつもあれこれうるさく言う奴だということもわかっているし、何を私が求めているかもわかっている。それが問題の種になったことはないし、それどころかむしろプラスになっていると思う」

――ここまでのところ、カンピオナートでは3勝11分です。この結果については?

「結果そのものだけに注目すれば、インテルが遅れを取っていることは確かだ。本来なら、ユーヴェから15ポイント差というのはあってはならないことだから。でもそれは結果だけを見たときの話。ここまでの仕事全体を評価するとすれば、つまり引き分けたすべての試合を検討すれば、11試合中少なくとも6、7試合は、何の問題もなく楽々勝っていたはずの内容だった。

でも、サッカーというものには、どうしても運がつかず裏目裏目に物事が運ぶ時期がある。おそらく我々にとっては今がその時期なんだろうと思う。というのも、内容的にはいいサッカーをしてきているし、勝って当然の試合がたくさんあったのにそれを引き分けてしまった。だがこういう状況も受け入れる必要がある。これは更に難しい時期が来た時に、それを乗り越える力になる経験だと思うべきだ」

――いずれにせよ、引き分けが多いという結果には、インテルが多くの失点を喫しているという事実も関係していると思いますが。

「失点は確かに多かった。それは確かだ。でも多くのゴールは奇妙な形で喫したものだ。ここまでインテルが何試合戦ったかは覚えていないが、たぶん25試合くらいだろう。その25試合の中に、インテルよりもいいサッカーをして一方的に押し込んだチーム、ちまり勝つにふさわしい戦いを見せたチームはひとつもなかった。

この25試合でそれは一度も起こっていない。一時的に0-2になったユーヴェ戦もそうだ。あの0-2は“嘘”だったからね。

大事なのはそれ(いいサッカーをしていること)だ。引き分けを喫した試合にしても、こちらがゴールを決めてリードし、その後2-0、3-0のチャンスを決め損ねているうちに、コーナーキックやクロスひとつで、それまで一度もシュートを打たせていなかったのに同点にされたりしている。これは単なる偶然だと考えるべきだ。受け入れる以外にはない。どうしようもないことなんだ」

――それでは、首位から15ポイント差という現実はどう説明すればいいでしょう?

「だから今説明したところだよ。ユーヴェは非常にいい戦いを見せたし、彼らにとってはすべてがいい方向に転がった。ミランも同じだ。大きな不運には直面しなかった。でも我々にとってはそうではなかった。すべてがいい方向に転がったわけじゃない。

でも、まだシーズン終了まで23,24試合残っている。それまでには、我々に起こったようなことが彼らにも起こるかもしれない。だから我々も今後できるだけたくさんの勝利を収めて、首位との差が縮まることを期待しつつ、勝負をかける時が来るのを待つ。そういうことだ」

――じゃあまだスクデットのチャンスはあると?

「もちろん。まだこれだけ試合が残っている以上、答えはイエスだ。すべては我々次第。ここまで11引き分けだったということは、これから11連勝する可能性だってあるということだし、そうすれば首位との差も間違いなく縮まるだろう。

もう少し経ったら順位表がどうなるか見てみよう。でも今は順位表なんかを気にしてちゃダメだ。気にしたら落ち込むからね。でももしインテルがこの調子で戦い続ければ、挽回は可能だと思う」

――インテルは11月ひと月だけで7、8試合戦わなければなりませんでした。これもセリエAが20チームになったせいですが、この変化はチームの戦い、またあなたの仕事にどんな影響を与えていますか?

「私は20チーム制には反対だ。でもイタリアという国では、みんなを満足させなければならない。そうやってセリエAも、16チームから18チームへ、18チームから20チームへと増えることになった。20チームというのは多過ぎだ。

これでは、カンピオナート全体が信頼性を失う可能性もある。2、3のチームはほんの少しの勝ち点しか挙げられないわけだから。それに試合数が多過ぎる。これにカップ戦や代表マッチまで加わると、選手がひと息つく余裕さえまったくなくなってしまう。そして監督にとっても、せめて何度かは1週間まるまる練習に充てる、その可能性さえ取り上げられてしまう。これも大きな困難だ」

――これまでそれが可能だった週はありましたか?

「先週(11月最終週)がそうだった。8月から今までで唯一、全選手がチームに残って1週間練習することができた。でもまあ、そういう週は少ない方がいいともいえる。それは、カップ戦で勝ち進んでいることを意味するわけだから。もはやカルチョの世界はこれが当り前になってしまったわけだから、こっちが合わせるしかない」

――インテルはまだ基本となるシステムを見出していないといわれていますが、それは正しい?

「いや。基本となるシステムはちゃんとある。そしてほとんどいつもスタメンに名を連ねるひとかたまりの選手たちもいる。時にはそこから2、3人が入れ替わることもあるが、それは試合数が多く選手を休ませなければならないからだ。そしてもうひとつ、私もまだ選手の特性を完全に把握しているわけではないから、いくつかのことを試さなければならなかったということもある」

――ということは、システムやメンバーを入れ替えたのは、主に選手の特性を把握するため、ということですか?

「いや、私にとって最もいいシステムとメンバーを見出すためだ。繰り返すが、11人のレギュラーを常にピッチに送ることは難しい。インテルには優秀な選手、ほとんど変わらない実力を持った選手が11人よりたくさんいるからね。だから固定することは難しい」

――システムやメンバーが変わるのはそのためということですね。3トップで戦うというアイディア(次の試合で3トップを試すという話が出ていた)は、どこから来ているのでしょう?

「どこからねえ……。いや。べつに特別なことは何もないんだけど……。攻撃陣が非常に強力だから、そのポテンシャルを最大限に生かそうという、それだけのことだ」

――ターンオーバーをするときはなにを基準に判断するのでしょうか?

「どんなタイプの試合か、それだけでなく多くの要素を検討しなければならない。それまで誰がたくさんプレーしたかとか、誰が疲れているかとか、そういうことだ」

――いずれにせよ、失点が多かったということは、ディフェンスが、あるいはチームが守備の局面で困難に陥ったということではないですか?

「いやそんなことはない。ディフェンスが全体として困難に陥ったということはない。不注意があったということだ。その不注意の積み重ねが今の状況をもたらしたのであって、ディフェンスライン全体として(戦術的な)困難に陥ったわけじゃない」

――戦術的には問題ないといってもいい?

「ああ。戦術的にはほとんど問題がない。でもいくつかミスを犯したことは確かだ。そうじゃなければ20失点も喰らっていないだろうから。個人のミスによって失点したケースはあった」

――ディフェンスラインはほとんど固まったといっていい?

「ああ。ほとんどそういっていい」

――最近はマテラッツィではなくミハイロヴィッチがプレーすることが多いですが、その理由は?

「2人はタイプとしてかなりよく似ている。でもミハイロヴィッチはマテラッツィと比べて、攻撃の組み立てでより優れているから、攻撃のオプションを拡げてくれる。守備に関してはよりディフェンダーであるマテラッツィの方が優れているけどね。それだけの理由だ」

――何試合かトルドをスタメンから外してベンチに置きました。この選択はどこから?

「30人選手がいるチームでは、ベンチに行くということは誰にでも起こり得る。スタメンから外れることは、その選手のコンディションがトップにないのであれば、屈辱でもなんでもない」

――今は?

「今はちょっと調子が戻ってきた」

――ちょっと、ですか?

「ああ、ちょっと良くなってきている。実際試合に出ているだろ?」

――ええ。今なお、もしカンナヴァーロを手放さなければ、という声が絶えませんが、クラブのこの決断(放出)について……

「そう。クラブの決断だった……」

――あなたの決断ではなかったと。

「いや、クラブが下した決断だった。私は……、でも監督は時にはクラブの決断を受け入れなければならないものだ。私にとっては、カンナヴァーロを試すことができればそれに越したことはなかった。でもそれで何かが変わるわけじゃない。ひとりの選手がいるいないで勝ち負けが決まるわけじゃないんだから。もし話がそういう風にシンプルだったらどんなにいいか……」

――インテルにはたくさんの“マンチーニ”、つまり左利きがいますが、これがメンバーの選択に影響することはありますか?

「いや実際インテルには左利きの選手がすごく多い。これだけ左利きが多いチームを見つけるのは簡単じゃないね。確かに時には、メンバー選択で困難に陥ることがある。でも、通常左利きはよりテクニックがあるから、プラスの要素になり得ることも確かだ」

――例えば、中盤センターにダーヴィッツとカンビアッソを並べるというのは不可能じゃないですか?

「ああ、理屈の上ではそうなる。でも2人は一緒にプレーしても支障がないくらいはエキスパートだから大丈夫」

――例えばユーヴェ戦では、ダーヴィッツを左サイドに置いて、スタンコヴィッチをセンターに置きましたよね。これもふたり(ダーヴィッツとカンビアッソ)が左利きだから?

「それも理由のひとつだ。しかし、私に言わせればスタンコヴィッチはセントラルMFだ。でも残念ながらインテルには本職の左サイドハーフがいないから、時々左サイドでプレーすることになる。でも彼の本職は、セントラルMFだと私は考えている」

――でも今シーズンはむしろ左サイドでプレーした時の方がいいパフォーマンスを見せているように見えますが。

「彼(スタンコヴィッチ)が?」

――ええ。

「それは当然だ。インテルには左サイドハーフを務められる資質を持った選手は他にいないし、彼はこのポジションも非常によくこなしている。以前にもやったことがあるからね」

――確かに、彼がそこにいないときには、インテルの左サイドは……。

「死んでる。それはそうだ。インテルにはあのポジションに合った資質、つまり左サイドを深くえぐれる選手が他にいないから。彼はそれができるし……。現時点ではそれができる唯一の選手だ」

――あなたにとってはダーヴィッツもセントラルMFですよね?

「ああもちろんセントラルMFだ。実際左サイドでプレーしても、あまり外には開かず内に絞ってプレーする」

――ということは、4人の中盤(2セントラルMF)よりも3人の中盤(3セントラルMF)に適していると?

「いやそんなことはない。どちらもこなせるから」

――ここまでのシーズンで最も意味深い試合のひとつが、ユーヴェ戦だったと思います。2点リードされたところで、アドリアーノとマーティンスに加えて、ヴィエーリとレコーバを投入して4トップにしたわけですが、この選択は一か八かのギャンブルだったのでしょうか、それとも勝算が……?

「いや……。2-0で負けていてあと30分しかなければ、誰でも何か手を打とうとするものだ。そこであの手を打って、そのせいで更にゴールを喫する可能性もあったわけだが、うまく行けばユーヴェを困難に陥れることができると思った。

だから、まあ一か八かといわれればそういう面もあったけれど、選択としては十分理にかなったものだった。中央にFWを2人、サイドに2人配して戦ったわけだし、それによって中央のパワーを増強し、サイドにはいいクロスを入れられる選手を置いたと」

――守備の局面はもちろん、攻撃の組み立てにおいても中盤が困難に陥る可能性もあったわけですが。

「そりゃあね。でも2-0で負けているのと3-0とでは、大した違いはないからね」

――ないですか?

「ないよ。どっちにしても試合には負けてるわけだから。負けているときには挽回しようと試みるのが当然だ。だから時には、理屈には合わないかもしれないことでもやってみなければならない」

――バランスを保つために、スタンコヴィッチとカンビアッソには特別な指示を出しましたか?

「4トップになっているわけだから、4バックは動かず後方にとどまっていなければならない。中盤の2人も必ずどちらか1人はその前を固めている必要がある」

――つまり4+1で守備を固めて……

「1+4」

――もうひとりのMFが組み立てを担当すると。

「その通り」

――最終的には2ゴールを決めて追いつき、引き分けをもぎ取った。

「そして3点目を決めそうになった。ほらね」

――勝てると思いましたか?

「もちろん。あと5分試合が続いていればこっちが勝っていた。試合というのは、ひとつの出来事でがらっと流れが変わるものだ。2-1になるゴールを決めた瞬間から、まったく別の試合になった。だから、勝てると思っていた」

――いずれにしても、40歳の誕生日のいいプレゼントになった?

「まあね。でも勝っていればもっと良かったけど」

――ともかくこれが11個目の引き分けで、世間ではあなたをミスターXとか呼んでいるわけですが……。

「……(苦笑)」

――むっとしますか?

「いやそんなことはない。いや、そういうTシャツを作ってもいいかもしれないね」

――ユーヴェのカペッロ監督とはあまり仲が良くないそうですが、本当ですか?

「ああ。特に友達というわけじゃない。私はこの年齢だし、彼はもっと年上だ。特に交流もなかったし、いくつかトラブルもあったからね」

――やっぱりあまり感じはよくない?

「そんなことはない」

――興味がないといえばいいでしょうかね。

「ああ。そういうこと。きっと彼にとって私がそうであるようにね」

――つかみあいになったことあるという噂は本当ですか?

「ノー。(舌打ち)」

――じゃあ、真面目な話に戻りましょう。クリスマス休みの後に10日間、チームを仕上げる時間がありますよね。

「まあね。でも選手たちは1週間のヴァカンス明けだし、それほど話は簡単じゃない。10日あってもね……」

――チームのどこを重点的に修正するつもりですか?

「いや、チームは試合を重ねるごとに向上しているから、特に修正するところというのはない。問題は、もうこれ以上ミスは許されないというところだ。これから挽回しなければならないわけだから、とにかく勝って勝って勝つこと。勝ち続けることが大事だ」

――今、誰に最も期待していますか?

「いや全員だね。全員が力を合わせて初めて劣勢を挽回できる」

――冬のメルカートで補強を要請するつもりは?

「いや。それはないと思う」

――左サイドハーフもいらないですか?

「まずキリ・ゴンザレスのコンディションがどうか見てからの話だ。彼が復帰すればそれでOKなわけで」

――マスコミではヤンクロフスキとセーザルの名前が挙がっています。同じ左サイドハーフでもタイプが違いますが。

「いや、そんなこともない。どっちもサイドハーフだし」

――どっちがより欲しいですか?

「セーザルのことはもうよく知っている。2年間見てきたわけだから。ヤンクロフスキも、実際に指揮したことはないけどよく知っている。2人ともいい選手だ」

――ヤンクロフスキはラツィオ時代から追ってましたよね。

「いやそのもっと前からだ」

――チャンピオンズ・リーグについて少し話しましょう。もうすぐドローがあるわけですが、優勝候補はどこだと思いますか?インテル以外で。

「みんな強いチームばかりだから、選ぶのは難しい」

――その中でも特に強いのは?

「いや本当に難しい。チェルシー、バルセロナ、マンチェスター。ユーヴェ、ミラン。どこが一番の優勝候補かは言えない」

――次の試合ではどこと当たりたいですか?特に希望は?

「いや別に。問題は、強いチームがみんなグループ2位で来ていることだ。これは困ったことだ。単純にはいかない」

――じゃあ避けたい相手は?

「いや、それが問題じゃない。マジで、どこが来ても同じだ」

――チャンピオンズ・リーグで一番意味深い試合は、メスタージャでの5-1だったと思います。強敵相手のアウェーで、どんな試合を準備したのでしょう?

「いつもと同じ。自分たちのサッカーをするために、つまり守るのではなく攻めるために試合を準備しただけのことだ。それに試合というのは、ひとつの出来事でがらっと変わるものだ。強いだけ、よく組織されているだけでは十分ではない。正しいメンタリティを持ち、そして多少の運に味方してもらわなければ、勝つことはできない。たったひとつのゴールが流れを変えることがあるから」

――実際、前半は0-0で終わり、後半が始まってすぐに2点リードしました。でもアイマールが2-1を決めた後少し……。

「いや、ヴァレンシアは確かにあそこで押し込んできたけれど、こちらもすぐに3-1にしたから……」

――3点目の前に、ヴィエーリを下げてファン・デル・メイデを入れましたよね。この交代はどんな理由で?

「相手が押し込んできて、その背後にスペースができていた。ファン・デル・メイデはスピードがあり攻撃に縦の奥行きを与えることができるから、敵を困難に陥れられると思った。ファン・デル・メイデを入れたのは単なる運だったというわけじゃないってこと(笑)」

――結果から見て、この交代は大当りでした。

「ああ。その通りだ」

――この試合ではクルスもゴールを決めています。ユーヴェ戦ではヴィエーリが決めた。交代で出た選手が得点するケースが多いわけですが、これは……?

「交代で入った選手も優秀だということだ。つまり、時にはスタメンから落ちることも、まったく屈辱的なことではないと。ピッチに入った時に集中していれば、持てる力を発揮してチームに貢献することが可能だから」

――交代に関してはどんな考えをお持ちですか?監督には、スタメンを最後まで維持する傾向が強い監督と、3人の交代枠を積極的に使おうとする監督がいますが。

「交代枠は生かすべきだと思う。でもチームがうまく機能している時には、交代がそれをいい方向ではなく、逆にマイナスの方向に運ぶこともある。だからそういう時には交代をしない。そういうことだ」

――でもあなたは、交代枠を使い切るほうが多いですよね。

「ああ。時には疲れた選手を休ませるために交代を使うこともあるから。交代といってもいろいろな理由がある」

――そろそろ終わりにします。あなたは選手時代、数人の監督の下でしかプレーしませんでしたが、その中で一番影響を受けたのは?

「最後のふたりがボスコフとエリクソンだった。2人合わせて15年間を過ごしたわけだから、それ(彼らから影響を受けること)は当り前のことだろう」

――敵として戦った監督の中では、誰から多くを学びましたか?

「いや特に誰からも。もちろん、時間がある時に他の監督の仕事を見に行くことは、勉強になるし有効だと思う。みんな同じことをやっているわけではないから、他人の仕事を見ることは役に立つと思う」

――監督としてはどんな野心を持っていますか?

「選手時代と同じ。つまり勝つことだ。私は、参加することに意義があるという考え方は持っていないからね。まあそれは、トップレベルで戦っている人間ならだれでもそうだと思うけど……。まずプレーを楽しむことは大事だけど、それはあくまで勝つためであって」

――以前は、チャンピオンズ・カップを2つか3つ、と言っていましたが。

「いくつだって?」

――2つか3つ。

「まあ今年はひとつだけでも十分だね。それから……。チャンピオンズ・カップは、選手として勝ち取ることができなかったし、近くまでは行ったんだけど、だから獲れたら嬉しいだろうね」

――インテルはイタリアで指揮する最後のクラブになる、と言っていましたが、本当に?

「ああ。というのもイタリアではもう……。私は81年からプレーを始めて、それから25年も過ごしてきた。だから次は外国で、違うタイプのサッカーを経験してみたい。イタリアのサッカーは、ある時はあまりに悲観的である時は……。ともかく25年もその中にいると、そろそろいい加減たくさんだといいたくなるようなことが山ほどある。だから違うサッカー、違うリーグを経験するというのもいいだろうと」

――イングランド(レスターシティ)で過ごした1ヶ月あまりで、どんな経験をしましたか?

「いい経験だったけれど、たった1ヶ月しかなかったから……」

――ちゃんと味見するところまでも行かなかった?

「行かなかったね。でも……、そこでフィオレンティーナを率いるチャンスが来たから……。とはいえ、短いけれどいい経験だった」

――日本のファンに、インテルのどこを見たらより楽しめるかをアドバイスしていただけますか?

「どうして彼らが楽しめるかって?(ちょっと話がずれてる)。それは、インテルはたくさんゴールを喰らってたくさんゴールを決めるからだよ。でも私は、インテルは見る者を楽しませる全てを持っていると思う。いいサッカーをしようといつもトライしているし、優秀な選手も揃っている。だから、もし日本のファンもインテルのサッカーを見て楽しんでくれているのなら、非常に嬉しいことだ」

――インテルのサッカーをより楽しむためには、どこを見ればいいでしょう?

「いや、大事なのはインテルの試合を見て楽しんでくれるということだ。彼らを楽しませる選手がたくさんいるわけだから」

――では最後に、日本のインテリスタにメッセージを。

「これからもインテルの試合を観て、インテルのサッカーを楽しんでください。我々がみなさんに大きな満足を与えられることを、そして日本に行ってインターコンチネンタル・カップを戦えることを、心から祈っています。それが我々の夢ですから」

By tifosissimo

片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家) 1995年からイタリア在住。ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を拡げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。 著書に『チャンピオンズリーグの20年』、『増補完全版・監督ザッケローニの本質』、『アンチェロッティの戦術ノート』、『モウリーニョの流儀』がある。『アンチェロッティの完全戦術論』などイタリアサッカー関連の訳書多数。